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さるとらへび  作者: しーた
死闘編
98/100

第98話

 高校1年生の2学期が始まった。

私は家の近くのバス停で、1日4本しかないバスを待っている。


タッタッタッ…。

軽快に走る足音は天大だね。

振り向くと、案の定彼だった。


「おはよ!」

「おう!」

ほぼ毎日会っていたから、特別な会話はなかった。


さるとらへび討伐からも色々あったよ。

高賀山周辺地区の妖怪達は、私を高賀山代表者という頂点にして組織化された。

最初から協力してくれた岩蛇さんが副代表、その下に東西南北の代表者である、ガマさん、星宮天狗ほしのみやてんぐさん、岩男さん、そして殿が四天王となった。

そう言えば、殿って超有名な武将だって分かってビックリ。

敵は高賀神社にあり!なんてそのまんまだよ。


それから月一回、参加者自由で高賀山自然の家で会合を開くことになったの。

そこで各地区の状況や問題や提案なんかしていく。

やっぱり話し合いは大切だよね。

さっそく一回目をやってさっきの組織が決定された。


高賀山は霊山としての力を取り戻し、12年周期じゃなく、安定して霊力を供給してくれるようになった。

これにより当面は安心して暮らしていけるんじゃないかな。

何かあれば私が解決するって決意表明もしたよ。


 旅を共にした友としては、蘭ちゃんはいつも通り私の右手の腕輪にいる。

尻尾も元通り11本になっていたし大丈夫みたい。

牛ちゃんも同じく皿の欠片のペンダントの中にいるよ。

力どころか本来の姿も取り戻し、生霊として完全復活出来た。

だから峰稚児神社みねちごじんじゃに帰る選択肢もあったのだけど、暫く一緒に居たいって。

山頂でのんびりするのも良いけど、色んな世界を見てみたいんだって。


 雛ちゃんは鳥さんの棲む黄色い羽と一緒に家に帰った

連絡先も交換したし、今のところかなりの頻度で連絡が来るよ。

将来こっちに住みたいって言ってる。

だけど就職先があるかなぁ…。

そこが田舎ながらのネックだけど、何とかなるよって笑い合ってる。


 黒爺は…。

さるとらへび討伐の翌日は一緒にいて、これからの事について色々と注意をしてくれた。

強すぎる力は招かねざる客を呼んじゃうって。

だからそれについての対処を間違わないよう何度も言われたよ。

そうだよね、そういうのもあるよね。

それに高賀山が霊山として復活したから、そこを狙ってきたりとかね。

それが最後の助言となって、夕方には居なくなっちゃった。

私は彼の正体を知っているから、高賀山代表として落ち着いたら、改めて挨拶に行くよ。

もちろん居場所も分かっている。

消えて直ぐに一人で行ったら粉々になった錫杖の欠片が残っていたからね。


 韋駄天こと天大はいつも通り。

うん、良くも悪くもいつも通り。それがいいけどね。

二人っきりの時は思いっきり甘えちゃうのだけど、凄く照れるみたいで、あたふたしてるよ。だけどそんな天大も好き。

ふふふっ…。

何だか可笑しいね。

彼を遠ざけていた理由が、彼の事が好きだったからなんて、何で気付かなかったんだろう?

でもいいよね、今はこうして一緒にいられる

。彼が必死になって鬼化を止めてくれたことに感謝している。

鬼にならなくて本当に良かった。


 私も特に変わったことはないかな。

あっ、今までより両親との距離が縮まった感じはするかも。

二人共凄すぎて、何だかちょっと遠いところにいるような、私だけ置いてけぼりのような、そんな風に思っていたのかも。

今は遠慮なくパパの隣で絵も掛けるし、ママと一緒に剣道の練習もする。

二人には全然敵わないけど、とっても楽しいよ。


「お、バス来たぞ。」

二人で一番後ろに乗ると、古臭くて大きなバスに、全員で5人しか乗客はいなかった。

私は天大に寄りかかってバスに揺られていく。

学校に到着し、懐かしいクラスメイト達と再会した。


「水樹ちゃん、何かいいことあった?」

そんな風によく聞かれたよ。顔に出てたみたい。

「彼氏出来たの!」

「エエエェェェェェ!?」

そう言うと、誰もがお化けでも見たような顔で驚いた。失礼だよね。


「誰?誰?」

私は天大を指さす。

「えー?マジでー???」

「水樹が相手じゃ敵わないよね…。」

「韋駄天は隠れファンが多かったからショック大きいかも。」

そんな言葉が返ってくる。そうなの?


「背高いしさ、顔も割りとイケてるし、陸上頑張ってるの格好良いじゃん。」

へー、そんな風に見てたんだ…。

でも私とは違うかも。


「韋駄天!今からでも遅くはない!私に乗り換えなよ!」

そんな事を言う子もいた。

だけど…。

「あー、ごめんな。俺物心付いた時から水樹の事好きなんだ。」

カーーーーーーーーッ

顔から火が出るかと思った。

「ハァ…。そんなにハッキリ言われるとマジ凹むわー。」

もう。恥ずかしいけど嬉しい。

後でもっと甘えちゃお。


 学校が終わってバスも降りて歩いていると、不意に天大が話しかけてきた。

「なぁ、黒爺の居場所知ってるんだろ?」

「うん。」

「教えてくれよ。俺、まだちゃんと礼も言ってねーんだよ。」

「バタバタしてたもんね。天大のお母さんも来ちゃって大騒ぎだったし。」

「そうなんだよ。近いのか?」

「近いよ。」

「なら一瞬で連れていく。」

私は行き場所を耳打ちした。


誰もいないどころか家もまばらなんだから、誰にも聞かれないのけどね。

「なんだ、近いじゃん。3秒で着くぞ。」

そして私をお姫様抱っこする。

私は彼の首に腕を回した。

顔が近いよ…。

彼の真剣な顔を下から覗いた。

シュンッ!

景色が飛ぶように流れて、あっという間に到着。


高賀神社だ。

誰も居ない駐車場から山を見下ろせる場所。

背後には誰もいなくなった丸く大きな封印石がある。

そして高賀山の中腹の祭り会場には小さな祠がある。

二人で歩いてそこに向かう。


祠には、今はお供え物はない。

お盆時期の祭りも終わり、ここを訪れる人はほぼいないから。

私は祠に祈りを捧げる。

そして力を少し開放し祠に向かって霊力を注ぎ込んだ。


「黒爺…、いえ、藤原の高光様!隠れたって無駄だよ!」

祠から半透明の煙が出てきたかと思うと、凛々しい若者が出てきた。

彼は平たい岩の上で足を組んでいた。

「ふむ。やはりバレておったか。」

「私の『真実の目』を誤魔化せるとでも思ったの?」

「そうじゃったな。まぁ、水樹殿にバレても問題はあるまいて。」

「そうね。」


そこへ天大が割って入る。

「高光様…。色々とご指導ありがとうございました。俺、何度もあなたに助けてもらった。」

「何を言うておる。もはやお主も立派な巫女の血を引く者。これからは水樹殿を助け、この地の安定に努めよ。」

「そうするよ。色んな事を学んだし、それを活かしたいと思っている。」

「うむ。その意気じゃ。」


「水樹殿、そろそろあいつらが嗅ぎつけて来ると思うぞ。」

「本当に来るのかなぁ。」

「必ず来る。そなたのような力の持ち主を放おっておく訳がない。」


「でも、それは昔の話しでしょ?」

「今でも同じじゃろう。高賀山とて、これだけの妖怪が棲んでおる。それらを監視、管理しようとするのは当然じゃろう。」


「その時は、高光様にも来て欲しいのだけど?」

「うーむ。時と場合によるじゃろうて。錫杖の欠片があったじゃろう。行く時はそれに宿る事にするわい。」

「ありがと。」


「何だか分からねーけど、俺も行くぜ!」

「もちろん!」

そんな事があったその週末。

一人の登山家風の男が私の家を訪ねてきた。

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