第96話
何も出来ない自分に絶望した時、
『巫女の本分を忘れよって…。』
誰かの声がした。
私はそれにすがった。
「お願いがあります!」
ブォンッ!
まるで3DのCGのような映像が壁沿いに現れ私を囲む。
前と左右に6体ずつ、後ろに5体、合計23体の仏像。
私には視えた…。
これは高賀神社が祀る23体の神なのだと…。
そこでハッと我に返ることが出来た。
巫女は本来、神に仕え神楽を舞い祈祷を行い、占いをし神託を得て人々に伝えるのが役目のはず。
つまり私は、神に仕える身であるはず…。
頭では理解出来なかったが、血がそう言っていた。
「どうか…、鬼になっちゃったけど私を巫女として導いてください…。」
そうお願いした。けれど神々はため息するほど呆れていた。
『その前に、主は勘違いしている。』
『よく自分の身体を確認せよ。』
何を言っているかは直ぐには分からなかった。
状況に飲まれない為に、目を瞑る。
すると静かな鼓動を感じた。
そう言えば戦闘中にも感じていたよね…。
………。
あれ…?
鬼とは簡単に言うと生霊のはず…。
確か、パパが描いた絵本の中のママは、生霊である藤原の高光様に心臓を貰ったとあったよね。
それはつまり、生霊は心臓などの臓器は使われていないことを指している。
だから鼓動は感じないんじゃ…。
「!!」
私は鬼にはなっていない!?
目を開け23体の神々を見渡した。
やれやれといった雰囲気に包まれている。
「ならば私はいったい何になったと言うの…?」
神々は顔を見合わせた。
『そなたは生霊ではなく、生き神となった。』
『人として生きながら神となったのである。』
『そなたが望めば実力に応じて奇跡も起きよう。』
「だけど私には今、霊力がありません。」
『そりゃそうじゃ。』
『あれだけの力を使って、尚、霊力が残っているのならば、この世の全てを征服することも出来よう。』
「それなら…、巫女の願いを聞いてください。」
『やぶさかではない。』
『やっと巫女らしい事をするかと思えば、こんな時とは滑稽よ。』
『そう言うてやるな。』
『我らが祀られ何年経っていると思っておる。』
『それでは巫女よ、何を望む?』
「霊力を回復したいのです!もしくはこの魔力栓の破壊を…。」
『どちらも却下だ。』
『何でも可能だと思っておるとは…。』
『最近の巫女への教育はどうなっておる?』
どうやら彼等は神として力を発揮する事は可能だが、現状を解決出来る直接的な力はないみたい。
神と聞いただけで何でも可能だというのは先入観であって、よく考えてみれば、そんな事が可能なら世界の平和なんて、とっくに訪れているよね。
「霊力回復の方法はありませんか?」
私は自力で魔力栓を破壊することにし、兎に角霊力の回復方法を探ることにした。
『いくつか方法はあるが…。』
『それが巫女の願いか?』
あれ?ちょっと待って…。
何で、それが願いかどうか確認するの?
まさか…。
「ちょっと待ってください。もしかして願いって一つだけしか聞いてもらえないのでしょうか?」
『ふむ。我らとて全知全能ではない。』
『力を使った分、回復に努めなくてはならぬ。』
『それ故、暫く願いを聞くことは無理じゃな。』
どうしよう…。どうしよう…。
神様達は、方法はいくつかあると言っていた。
つまり、この状況を打開する方法は何通りもあるってことだよ。
考えろ…。考えろ…。
今までの少ない経験を思い出せ…。
牛鬼さんとの出会い、
宿儺さんとの特訓、
鳥さんや山鬼さんとの闘い、
蘭ちゃんとの出会い、
月弓の想い、
岩蛇さんの決意、
星宮天狗さんの覚悟、
ガマさんや朱狐さんと蒼狐さんの信念、
岩男さんと雪女さんと座敷童さんの苦悩、
殿と才蔵さん達の武士道精神…。
黒爺の知識…。
雛ちゃんの探求…。
天大の情熱…。
私は一週間足らずの間で中身の濃い、貴重な時間を経験している。
その中に、きっとこの状況を覆すヒントが…。
可能性が…。
あぁ…、あった…。
これが可能なら…、後は信じるだけ!
一発勝負!!!
私は生まれて初めて、真剣に神様に願いを伝えた。
その言葉に、本当の意味での言の葉の力を込めた。