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さるとらへび  作者: しーた
死闘編
93/100

第93話

 「雛ちゃん!!」

水樹が叫んだ。

どうやら雛さんが限界のようだ。

俺もかなり参っている。


大量の汗を吹き出し、喉もカラッカラ。

これが夜の闘いで助かったかもな。

昼間なら熱中症間違いなしだ。


水樹もかなりへばっているのが分かる。

蘭丸も尻尾の数が5本しかねぇな。

だけどさるとらへびは、ようやく元の状態に戻ったぐらいだろ…。

尾は一匹になったが、魔物化して依然力は強い。

何十箇所にも傷を付けたが、致命傷は一つもない。


ジリ貧だ…。

このままじゃ、大逆転でもしない限り勝ちは難しい。

「韋駄天!諦めるには早いよ!私が奴を引き止めるから、一発でいいから大打撃を与えたい!」


水樹もこのままじゃ不利だと考えているな。

「うーっす!」

俺は軽く返事をしたが、かなり集中出来ている。

生まれてこの方、こんなに真剣になったことは無い。

もちろん命を賭けているからってのもあるかもな。

だけど、そんなんじゃねぇ。


水樹と一緒にってのが大きい。

こんな事になる前はそっけなかったしな。

今は当たり前のように、そしてすんげぇ頼ってくれている。

俺はそれが何より嬉しいんだよ!


水樹はさるとらへびの目の前で、地に足を付けて激しく鋭く朱雀を振るう!

まるでボクシングのインファイトのようだ。

あんな近距離で一歩も引かない。

まったく見ている方が、背筋が凍る思いだ。


風切り音だけが聞こえ、刀身は時々月の光を反射する程度で、どうなっているかまったくわからない。

さるとらへびは噛み付きや前足での引っ掻き、そして蛇による突きがある。

防御に徹し、一撃必殺の攻撃を突如繰り出す。

霊力と魔力が衝突し火花が散る。


時々打撃を受けているはずだが、その度に何かが飛び散っていき、水樹本人はダメージを負っていない。

まさか…、牛鬼が防御しながら自らの体を岩へと変化させ防御しているというのか?

捨て身の戦法だった。


このままじゃ牛鬼はバラバラに砕けちまう…。

全員がギリギリなんだ…。

そんな状況の中、俺と蘭丸は隙を伺っていた。

先に動くのは俺だ!


水樹の後方からジグザグに激しく動き敵の注意を引く。

そして蘭丸が動くようなフェイントを入れた瞬間、俺は奴の左側に移動し短剣で思いっきり腹を突く!!!

深く刺さるのが分かったことを確かめるのと同時に、そのまま瞬間移動のように後方へ移動した。


刹那、何故か俺の体は宙を舞っていた。

激しく地面に叩きつけられ、一瞬呼吸が出来なかった。

「韋駄天!」

水樹の声がいつもの様に聞こえない…。

やっちまった…。

直ぐに逃げるべき…、だった…。


グハッ…。

吐き気と目眩がする。

クソッ!

蘭丸も突撃したけども蛇に噛まれてしまう。

「欄ちゃん!」

水樹は直ぐに蘭丸を首輪に閉じ込めた。

とうとう二人だけになっちまった。


だけど俺はまだやれる!

赤いオーラが激しく巻き起こる。

が、直ぐには立てない。

さるとらへびを見ると、奴の切り口から黒い何かがうごめいていた。


「何だよ…、アレ…。」

俺は掠れる声で水樹に伝えた。

彼女も気付いていた。

朱雀を構えながら警戒していた。


グチョグチョ…。

内蔵が溢れだしそうな感じだ。

いや、違う!

何かが出てこようとしている。

俺は震えながら何とか立ち上がる。

だけど足が…、足が震えていて走れない…。


ドゥバァ!!!

傷口から大量の黒い液体と共に何かが出てきた。

「!?」

それは手だった。誰かの手だ…。


「あなた魔物自体を喰らったのね…。」

水樹の軽蔑するような口調と目。

そうか…、魔物化し、更に魔物を食う事により自分の魔力の純度を高めようとしたんだ…。


何て奴だ…。

勝利への執念という意味だけにおいては、奴の方が上かもしれねぇ。

だけどな、仲間を食ってまでやることかよ…。

しかし中身が出てきた途端、奴の魔力が更に高まった。


「水樹!どうなってんだよ!」

俺は必死に声を上げた。

彼女は肩で大きく息を吸いながら、現実を受け止めようとしていた。

「このままじゃ駄目…。魔力が吹き出して…、止められなくなる…。」


何だよそれ…。訳分かんねーよ…。

「暴走しちゃう!魔物化したさるとらへびが暴走したら…。」

俺は彼女の答えを待った…。


「もう誰も止められなくなっちゃう…。私たちの国が…、無茶苦茶になっちゃう…。」

んな、馬鹿な…。話しがちげーよ…。

そんな大きな話じゃ無かっただろ…?


ハァ…、ハァ…。

水樹は朱雀を構えたまま一歩、また一歩後退しながら見えない何かと闘っているようだった。

さるとらへびは苦しそうに小刻みに震えながら、魔力がどんどん吹き出してくる。


水樹も何かに怯えながら何かと葛藤している。

おい…、おまえ何をする気だ…。

「もう駄目…。」


ドンッ!!!!


彼女を中心に、信じられないほどの霊力が吹き出した。

おいおい…、おまえが暴走しようとしているんじゃ…。

俺は水樹に向かって歩き出した。

足が思うように動かない。


ドクンッ…、トクンッ…。


彼女の鼓動が俺にまで聞こえる。


「パパ…、ママ…、ごめんなさい…。」


水樹がそう言うと霊力が更に濃くなる。




ドドンッッッ!!!




こいつはやべぇ!あいつ…、あいつ…!!




鬼になる気だ!!!




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