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さるとらへび  作者: しーた
死闘編
87/100

第87話

 もう駄目です…。

さっき蒼狐さんから貰った薬で体力回復したのに、もう息が上がってしまっています。

治療しても治療しても怪我人は減りません。


闘いは素人ですが、全体的に見てみると一進一退だと思われます。

なのに怪我人は、ここにきて一気に増えています。


「雛様。顔色が悪いようです。しばらく休憩してくださいな。」

蒼狐さんが心配してくれています。

あぁ…。

蒼狐さんの、この怪しげで淫妖いんような雰囲気がたまりません…。

いやいやいやいや。

また悪い癖が出ています。


そんな状況の中、私達の様子を見ていた座敷童さんが来ました。

「雛様。この水を飲んでください。ただし、水の匂いを嗅いで吐き気がするなら飲まないでください。それはもう、薬を受け付けない体になっています。薬の効果が切れるまで待つしかありません。」

そう言って、竹筒を渡されました。


持った感じでは、中には液体が入っているのが分かります。

水…、と仰っていました。

確かに喉は乾いていますが…。

兎に角、薬のようです。


上部の栓を抜き鼻に近づけてみると、確かに水の匂いでした。

全然薬っぽくないです。

それに吐き気もしません。


その事を告げると、少しずつ飲んでくださいと言われました。

和人形さんのような座敷童さんも可愛い。

いつも表情を変えませんが、どんな感じに照れたりするのか、つい試してみたくなってしまいます。

あぁ…、またやってしまいました。

今はそれどころではありません。


私は一口水を含みます。

「美味しい…。」

体に染み渡るような感覚がします。

するとどうでしょう。

汗は引き、息も鼓動も整ってきました。


高賀こうか神水しんすいです。こちらも多用はいけません。」

助かりました。

これでまた闘えます。

「ありがとう御座います。だけど、これからは体力も考えて治療していかないと駄目ですね。」

座敷童さんがコクンと頷きます。


「皆さん聞いてください。」

怪我を負った仲間に、座敷童さんが声を上げます。

「もう治癒者の体力は限界です。既に中級者以下の治癒者は脱落している今、軽傷の物は自然治癒を、重傷の者は更に後方に下がり闘いに巻き込まれぬよう身を守ってください。出来れば軽傷の方が重傷者を助けてあげてください。今は人手が足りません。どうかご協力願います。」

見た目は和服を着た小さな女の子ですが、その説得力は絶大だと感じました。


怪我を負った人達は協力しつつ後方へ下がり休憩したり、応急処置を手伝ってくれたりしてくれました。

「お二人は命の危険がある者、そして水樹様と中心的な人物の怪我の治療に専念してください。ここが正念場です。」

「わかりました。」

ところが、前線が騒がしくなります。

上空を見ると、真っ黒な巨大な烏が悠々と旋回し、急降下しながら攻撃を加えます。今だ巨大蜘蛛も2匹残っていますし、更に怪我人が増えそうな予感がします。


黒爺さんを中心に、水樹ちゃんも弓で遠距離攻撃をしますが、烏の飛行速度はとても速く当たりません。

業を煮やした水樹ちゃんは蘭丸ちゃんに乗って空中戦をしかけました。


少しでも近くで矢を射ろうとする試みのようです。

しかし、やはり当たりません。

当たる気配すらありません…。

最接近して朱雀で攻撃をしても逃げられてしまいます。

どうしましょう…。


そんな時です。

大きな烏は更に速度を上げ、執拗に水樹ちゃんに攻撃しています。

地上の巨大蜘蛛も暴れだし、他の敵も激しく攻撃してきます。

こちらは誰もかれもが手一杯な状況でした。

だけど水樹ちゃんは烏が近寄った一瞬を見逃さず朱雀で斬ったのです。


「!?」

しかし烏は、朱雀をすり抜けました。

いや違います…。

あれは大きな烏なのではなくて、小さな烏の集合体のようです。

小魚が集まって大きな魚に見えるようにしているのと同じ原理だと思います。


だけど妖術によって作られた形は、一匹一匹の烏が飛びながら集まっているのではなく、不自然にくっついて大きな烏となっているようです。

なので、翼を羽ばたかせて飛んでいるのではなく、蘭丸ちゃんと同じように妖術で飛行しているような気がします。

そうじゃないと説明出来ません。


逆に、妖術で飛んでいるのであれば、集合体でありながら速度の緩急や異常な急旋回も納得がいきます。

とは言え、それが分かったとしても、攻撃を当てなければ解決いたしません。


何度か隙を作っては、朱雀や月弓で攻撃する水樹ちゃんでしたが、かなり高いところで闘っていてよくわからない状況になっています。

私も打開策を考えているのですが、なかなか良い案が思いつきません。

思い切って蒼狐さんに聞いてみました。


「私達のような治癒者でも何か攻撃のお手伝いは出来ないでしょうか?」

「アレに対してですか?」

蒼狐さんは大きな烏を指さします。

私はゆっくり大きく頷きました。


水樹ちゃんの弓でも攻撃が当たらないなら、私も当たらないですしね。

「もしも地上に近づいたならば、防御壁で水樹様ごと閉じ込めてしまう手があります。」

あぁ、なるほどです。

囲って閉じ込めてしまえば、大きな烏だろうと小さな烏の大群だろうと水樹ちゃんの攻撃はどれも有効かもしれません。


でも…。

「降りてくる気配はありませんね…。」

「敵もそこは熟知しているでしょう。というか、あなたが近づけば良いのでは?」

「えーと、えーと…。どうやって?」


「懐に羽があるじゃないですか?それで呼び出すのです。」

「羽?呼び出す??」

私は頭が混乱してしまいました。

ですが、羽というはもしかして…。


「これのことですか?」

水樹ちゃんより預かった、黄色い羽があります。

私と合流する前に鳥の妖怪と闘った時に拾った羽らしいのですが、水樹ちゃんは前線で激しく戦うので、落としてしまいそうと言うので預かっていました。

「そうです。その羽は巫女の問い掛けを待っています。」


「でも私じゃ…。」

この羽を拾ったのは水樹ちゃんです。

私が呼んでも反応するかどうか…。

でも、やってみるだけやってみようと思いました。


「いえ、やってみます。」

羽を両手で胸の前で持ち話しかけてみました。

「私の声が聞こえますでしょうか?どうか、水樹ちゃんを助けるため、力を貸してください…。」

「………。」

蒼狐さんも治療をしながら見守ります。

すると…。


『お主は私が認めた巫女ではないな…。』

羽から声が聞こえました。

だけど、私に対してとても否定的です…。


「そこは重々承知しております。しかし、今あなたの認める巫女が窮地に立たされています。どうかお助けを…。」

『お主には決意が足らぬ。そのような奴の願いなど聞けぬ。』

これまた厳しく、要求を跳ね除けられました…。

決意が足らないって…。


『お主は自分の欲求を満たす為だけに闘っておるな?』

「確かに最初はそうでした。しかし今は違います。他の仲間達と共に闘いたいと思っています。」

『お主はそれでも、今回の闘いの勝敗に深く関心がないな?』

「いえ、闘って、そして勝ってこそ意味があると思っています!」

『仲間を助けたいか?』





「「「はい!私に出来る事があります!私にしか出来ないことがあります!」」」





ドンッ…





私を中心に何かが弾けました…。

何でしょう…、この気持…。この溢れる思い…。


ドクン…ドクン…。


今まで感じた事のない強い鼓動が私を奮い立たせます。

全身が痺れるような感覚…。信じられないほど興奮しています…。


それは、今まで不思議なだけだった力を理解し、追求し、役立てる。

巫女にとっては当たり前の、だけど私にとっては特別な事が、今目の前で起きている現象にリアリティを与え、そしてその中に私がいるという実感を感じているからだと思います。


私にしか出来ないこと…。

これほど心地良い響きはありません。

誰もが自分は特別じゃなく平凡だと思っています。


このような力があったとしても、それをどう役立てれば良いのか、そんなチャンスは滅多にないから、宝の持ち腐れのような状況が多々あるのだと思うのです。

だけど私は今、その滅多にないチャンスが目の前にあるのです!


「覚醒…、いたしましたね。」

蒼狐さんがニッコリ微笑みました。

私は握っている羽を見ると、羽を持つ手が…、いえ、身体中から水樹ちゃんのように赤いオーラを纏っているのが見えました。


「あらぁ…。あらあらあら…。」

小さな混乱がありましたが、そうですか…。

これが私の決意なのですね。


「どうか!再度私の願いを聞いてください!私にしか出来ないことを成すために、力を貸してください!!!」

羽からは鋭い視線と力強い妖力を感じました。

『我が名を呼べ!新しい主よ!』

「………。」


えっと…。えっと…。名前…?聞いてませんが…?

『何でも良い。』

「いでよ!!鳥さん!!!」

ドバァっと羽から妖力が溢れ出すと、そこから大きな黄色い鳥が出現しました。


「ふむ…。またけったいな名前だな…。」

「す…、スミマセン!慌ててしまって…。」

「まぁ、良い。直ぐに応戦する。背中に乗れ!」

「はい!鳥さん!!」


私は迷わず鳥さんの背中によじ登りました。

「蒼狐さん、少しの間頼みます!」

「ご武運を…。」


私は力強く頷くと鳥さんと共に空へと羽ばたきました。

成すべきことを成すために!


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