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さるとらへび  作者: しーた
死闘編
83/100

第83話

 「頭にきた!!!」

水樹が久しぶりに本気で怒ってる!

こいつはやべーぞ…。


「ちょっと!才蔵さん!!何が尋常に勝負しろだよ!!!」

怨霊を押しのけ才蔵の前に出る。

「勝負ってどういうこと!?どういう状況なのか分かっているの!?答えなさいよ!!!」

かなり近い距離で怒鳴った。

顔と顔が案外近い。

今槍を振り上げられたらひとたまりもない。


「どうもこうも、お主と戦場で闘いたい、そう殿に進言したまでよ!!」

「この…………。」

あー…。耳塞いでおこう…。


「「「この!大馬鹿野郎!!!」」」


地響きがするほどの大声に誰もが耳を塞いだ。

先に耳を塞いでおいた俺ですら、耳がキーンとした。しかもことちから…。


でも、水樹の様子が変だ…。

「私は…、一つの勝負がどうのこうのだとか、自分の為にだとか…、そんなことはどうでも良いと思ってる…。だって、この闘いに負けたら、ここにいる全員の居場所がなくなっちゃうんだよ………?」

全員の動きが止まる。


「しかしだな…。」

才蔵の言い訳がましい言葉を聞く前に、水樹はカッと目を見開き朱雀を振るった。

バシッ!

バシッッ!!

バシッッッッッ!!!


左から右から上から、いつ腕を振るったのか見えなかった。

しかも一つ一つの攻撃が速いだけでなく重い。

才蔵はヨタヨタと槍で防いだが、そのまま尻餅を付いた。


水樹はボロボロと泣いていた…。

思い出してみれば、高賀山開放という理想に最初から付いてきてくれたのは岩蛇ぐらいだ。

誰も彼もが自分か、地区の仲間程度のことしか考えていなかった。

才蔵だってそうだ。


そんな時、空気を読まず後ろから怨霊が襲いかかってきた。

「邪魔しないで!!!」

水樹は攻撃しない。

力尽くで押し返そうとする。だけど数が多い。


「水樹!」

「水樹ちゃん!!」

俺と雛さんが彼女を心配する。

ズリズリと押されていく水樹。

後ろには黒い渦が待っている。

これはマズいぞ。何で斬らないんだ!?


「巫女殿!?」

才蔵もどうして斬らないのか不思議そうだったが、彼女と同じく怨霊達を押し始める。

「皆わからずやなんだから!!!」

そう言うと、雛さんが作るような防御壁を横に長く展開する。

おい!全員押し返すとか無理だろ!


「私は…、私は…、全員の希望に応える!!」

そう言いながら防御壁を押す。

才蔵もその中に入ってしまった。

不安そうに壁の向こうの水樹を見ていた。


たった一人で何千もの怨霊の勢いを相殺している。

だけどやはりズリズリ後退していった。

もう足が渦に入っちまう…。

俺がダッシュしようと構えると「来ないで!」と水樹は叫んだ。

だけどよ…。


かかとが渦に入る。

ジューーー…っと何か溶けるような嫌な音がする。

俺は我慢出来ずに水樹救出に向かおうとした。

「アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

水樹の悲鳴が響いた。

俺はいよいよ足を蹴り出そうとした時、短剣からガマの声が聞こえた。


『待て小僧。』

一瞬躊躇した。その瞬間…。

なんと、水樹が押し返し始めた。

最初はほんの少し、だけど直ぐに一歩二歩と押し返す。

いや違う、怨霊達が押し寄せるのを辞めたんだ。


「何があったんだよ…。」

数歩進むと防御壁の展開を止める。水

樹はその場に倒れ込んだ。

ワラワラと怨霊が水樹を囲んでいく。

マズいんじゃないか…?


『慌てるなと言っている、小僧』

またガマの声だ。だけどよ…。

そして怨霊達は両膝を地面に付き、何かを唱え始める。これは…、お経だ…。

南無妙法蓮華経なむみょうほうれんげきょう…。」

不気味なお経は森に響く。

その声が一層高まったその瞬間、シュッと一瞬水樹を中心に光った。


「うぉ!?」

眩しい閃光だ。

ゆっくり目を開けると、水樹は立ち上がっていた。

いつもの水樹だ。良かった…。


「もう、話せば分かるじゃない。」

一度空を見上げて再び視線を落とす。

そして大きく朱雀を振り上げた。

「!?」

朱雀に向けて霊力を一気に流し込むと、今までにない長さになる。

その何十メートルかわからねぇ、とてつもなく長い朱雀を、躊躇なく一気に振り回す。


朱雀はしなりながら怨霊達を斬っていく。

ブォォォォン!!!

横一文字に振られた朱雀は、今まで見たことのない長さで怨霊達を斬っていく。


いや…、待てよ。

斬られた怨霊からは黒い粉のような煙がフワッと巻き起こり消えていく。

そして残ったのは真っ白になった元怨霊達だった。

「あなた達も、いつまでも恨んだり憎んだりばかりしていないで、今何をすべきか考えなさい!!!」

そう言って水樹はどんどん北地区の集団の奥に向かっていく。


そして明らかに服装の違う男の前まで進んだ。

恐らく水樹が言っていた黒幕なのだろう。

兜も鎧も豪華だ。兜には三日月のような飾りが付いている。


「あなたが黒幕ね。」

遠くて聞き取り辛い。

二言三言会話を交わすと、水樹は真剣な表情で戻ってきた。

「お、おい…。」

チラッとこっちを向いたが、そのまま黒い渦の傍まで進む。


渦を見ながら霊力を足に集める。

すると躊躇せず黒い渦の上を歩いて行く。

おいおい、さっきはダメージ受けてたのに…。

もう、この黒い渦の正体を暴いちまったって言うのかよ?


真ん中ぐらいまでくると、渦の中心に向かって朱雀を深く差し込んだ。

バババババババッ!!

中心から外側に向かって黒い渦はからすへと戻っていく。

それを確認すると月弓を取り出し烏天狗に向けて何十という矢を放つ。

追跡しながら飛ぶ矢を避ける為、鳥居を伝って烏天狗は降りてきた。


そこへ東地区の剣士が長い刀で攻撃を加える。

キンッキンッ!!

甲高い音が数度響く。

烏天狗は直ぐに扇子を取り出し振り抜こうとする。突風の攻撃だ。

しかし、突風は起きなかった。

星宮天狗が同じく扇子を取り出し、扇子同士がぶつかるように振っていた。

力が相殺されて何も起きない。


「奥義!燕返し!!!」

一瞬の出来事だった。

剣士の高速の刀が敵を捉え、そして烏天狗は倒れた。

水樹が振り返り一番後ろの北地区黒幕を睨む。


「殿!号令!!」

殿と呼ばれた黒幕は、黒い軍配を高く掲げた。

「これより我らは、さるとらへび討伐に向けて進軍する!これは当初からの予定通りである!!!」


北地区の武将達は一斉に武器を構えた。

三千洲さんぜんぶちの者達も付いて来い!」

真っ白の元怨霊も部隊に加わる。

錫杖しゃくじょうや薙刀を構える。




「敵は高賀神社にあり!!!」




どこからともなく《《ほら》》貝が鳴り響く。

ゥオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!!!

3000人以上の軍隊が鳥居を超え高賀神社へ向かう。

もの凄い迫力だ。

どうしてこうなった…。


「韋駄天、これが水樹殿のやり方よ。」

「意味わかんねーよ。さっきまで敵だった奴らが先頭切って走っていくなんてよ。」

「彼女は敵を増やすんじゃない、味方を増やすやり方なんじゃ。怨霊は水樹殿の捨て身の恩を見て、昔を思い出しおった。修行僧だった頃のな。」


僧侶になろうって奴らが悪人な訳ねーわな。

それを水樹を見て思い出した?

何百年も呪ってばかりいた奴らが?

確かに、あのままだと水樹ごと自分たちも黒い渦へ落ちていっただろう。


「そして、北地区代表者には、元々さるとらへび討伐だった事にしろと助言しのじゃろうな。そうすれば彼等の見栄も大義名分も保たれる。」

「見栄!?大義名分!?そんなもん今関係あるか?」

「大有りじゃ。そもそも彼等はそういう時代に生きておった。そうじゃろう?だから水樹殿はそれを尊重した。」

「んな馬鹿な…。」

「お主はそう言うが、結果はどうじゃ?」

「………。」

俺は返す言葉がなかった。


「皆さん、味方が随分先に行っちゃいましたよ。私達も向かいましょう。」

雛さんの言葉で俺は黒爺と視線を合わせ、そして蘭丸に乗って駆けていく水樹の後ろ姿を追った。

一人ずつ抱きかかえて前線へ送り出す。

数度往復し俺も水樹の隣で進軍した。


「一番槍は誰!?」

水樹は叫んだ。

ゥオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!!!

彼女のげきは直ぐに全軍に轟いた。

「ほら韋駄天、あなたも一番槍に名乗りを上げに行ってらっしゃい!」


おっし!やってやる!!

だけど、高賀神社前で待ち構えるさるとらへび軍団の全貌が見えてくると、流石に心が折れそうになった。


信じられないほどの魔物の軍団が揃っていたからだ…。


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