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さるとらへび  作者: しーた
死闘編
82/100

第83話

 私達は新高賀橋を渡り終えて、高賀神社の方へ向かいます。

先ほど、水樹ちゃんが何かの霊術を使ったのだけども、黒爺さんの説明によると攻撃力や防御力が上がったようです。


一瞬体が光っただけで特に違和感などはないのですけども、きっと効果はあるのでしょう。

感覚的に何となくは分かるのですが、頭では理解できません。


「おい水樹、どこで教えてもらったんだよ。」

韋駄天さんが水樹ちゃんに尋ねるも、私達の理解を超えた回答でした。

「黒爺の目を覗いたら分かったの。」

「はぁー?」


そんなんで、霊術が使えるようになるのでしょうか?

「雛さんは知ってた?」

韋駄天さんの問に、私は首を横に振りました。


「だよなー。」

「まぁ、いいではないですかぁ。」

「俺だってさ、もっと強くなって皆を守りたいんだよ。」

「今から慌てても仕方のない部分もありますよ。自分の出来ることを一つ一つ丁寧にこなしていくことも大切じゃないでしょうか?」

「そりゃぁ…、まぁ、そうだけども…。」


彼は不本意ながら納得してくれたようです。

そんな彼をニヤニヤ笑いながら見ている水樹ちゃん。

韋駄天さんの心の心境が嬉しそう。

何だかちょっと嫉妬します。


私にもお風呂場でニヤニヤ笑いながら、今日は私が洗ってあげようかとか言われたいです。

ハッ!

ダメダメです。

今はそんな妄想をしている時ではありません。

私は自分の力の意味を知る為に闘っているはずです。


どうして私は力を持って生まれてきたのでしょう?

どうしてあの日、高賀山自然の家に泊まったのでしょう?

偶然でしょうか?

それとも何かに導かれたのでしょうか?


色んな疑問が私にはあります。

どれもこれも、正確な答えは出ないかも知れません。

力について悩んでいた時期もありました。


だけど今は、昔ほど深く悩むことは、ほとんどありません。

目の前の同じ巫女として闘う水樹ちゃんを見ていると、悩むより前に進めと言われているような気がします。


それに答えは出ない悩みなのですから。

両親や友達に聞いても駄目なんです。

だったら、自分で判断して自分で決めて自分で行動するしかないと思ったのです。


そう決めたら、どうして悩んでいたんか分からなくなるほどスッキリしました。

私は水樹ちゃんほどのセンスは持ちあわせていません。

だから韋駄天さんに言ったように、コツコツこなしていくしかないのです。


水樹ちゃんは言ってました。

自分には自分の、他人には他人にしか出来ないことがあるって。

だから私は自分に出来ることをやっていくしかないのです。


そんな事を考えながら歩いていると、水樹ちゃんの家の近くにある小さな谷戸橋を過ぎました。

ここまで特に敵の攻撃はありません。

様子を伺っているのでしょうか?

兎に角警戒しながら進みます。


谷戸橋を渡ってからは右手に高賀川、左手は山という景色が続きます。

川には川の、山には山の妖怪が沢山います。

どちらから攻撃されてもおかしくありません。


ただし、こちらも同じようにその場所に適した配置となっています。

例えば山には星宮天狗さんが、川には河童さんがという感じにです。

数件の家を過ぎ、森の中を進み、青色に塗られた古い水道橋?用水路?をくぐっても特に変化はありませんでした。


「やけに静かね。」

「ここまで襲撃がないとすると、一極集中しておると考えるのが自然じゃ。」

水樹ちゃんと黒爺さんの会話を聞いて、背筋が凍る思いがします。

私はまだまだ闘いが怖いと思っています。

ゲームのように、弱い敵から順番に倒していくぐらいならまだ分かるのですが…。


道は長い登り坂になりました。

左側の山は斜面が急で、落石注意の看板もあります。

そこを過ぎると、道は真っ直ぐと右へ続くT字路となります。

高賀神社へは看板にもあるように、真っ直ぐが近いですし順路です。


「真っ直ぐ行きましょう。」

水樹ちゃんは即断しました。

どちらに進んでも細い道なのですが、襲ってこないと踏んで時間短縮を狙ったのでしょう。

結局敵襲はなく、石で出来た大きな鳥居に近づいてきました。

鳥居周辺は少し開けています。


急に水樹ちゃんの霊力が高まりました。

「皆!注意して!」

あれ?暗闇だからでしょうか。

鳥居が黒く見えます。

白い石で出来た鳥居だと思ったのですが…。


そう思っていると、どこからともなく声が聞こえます。

「やっと来たか。」

「仲間の仇、取らせてもらう。」

からす天狗達が鳥居の上に立っています。

しかし、以前に見た時よりも全体的にドス黒い闇を纏っているようです。

これが闇堕ちと言われる状態なのでしょう。

彼らのような妖怪を、魔物まものと呼んでいるようです。


私は、どんな攻撃が来てもいいように、いつでも防御壁を出せる準備をします。

ペース配分を考えておかないと、仲間の治療もこなさいといけません。

蒼狐さんの近くに行きます。

二人で回復系霊術を使うことになっています。


蒼狐さんの隣に立つと、彼女はチラッと私を見て自分の役割を確認しているようでした。

「気を付けろ!鳥居にからすがまとわりついておる!」

言われてからよく見ると、赤い目をした烏が鳥居を埋め尽くしていました。

ちょっと気持ち悪いです…。


「二人まとめて相手してあげるから降りてきなさい!」

水樹ちゃんは時々相手を挑発します。

烏天狗の一人が何を!と飛び降りそうになったのですが、もう一人、リーダーの方が止めました。


「さるとらへび様より頂いたこの力、今こそ試させてもらうとする。それを見ても同じ事が言えるかな?」

そう言ってバサッと葉っぱで作られた扇子を一振りしました。

すると鳥居を覆っていた沢山の烏が吹き飛ばされて、一度上空へと一列に舞い上がります。


どんな攻撃なのか皆、構えているようです。

しかし烏達は鳥居の前面の地面に次々と着弾していきます。

そして地面は黒く塗られていき、その黒い水たまりのような物はゆっくりと渦を巻き始めていきます。


「ヤバイ!皆!後退!!!」

水樹ちゃんは何か勘付いたようです。

私達も周りの妖怪に後退を知らせながらゆっくり下がっていきます。

黒い水たまりはどんどん大きくなって行きます。


そんな時です。

「後ろ後ろ!!!」

後方から誰かが叫びました。

三千洲さんぜんぶちとらわれた、三千の怨霊たちが川から、山から、背後からと三方向から押し寄せています。

いつの間にか包囲されていたようでした。


「水樹殿!あの黒い渦に落ちたら、二度と這い上がれないぞ!気を付けるんじゃ!!」

黒爺さんが叫びます。

どうやら黒い水たまりは、簡単に言えば地獄への入り口みたいなところのようです。

落ちたらアウト、ということですね…。


だけど三方から囲まれたため、混乱しながらも前衛と後衛を入れ替わり、三千の怨霊の輪が少しずつ少しずつ小さくなっていきます。

前には敵、後ろには黒い渦というように、いきなり四面楚歌状態です。


でも、水樹ちゃんは落ち着いていました。

「皆、落ち着いて!ようは前面の敵を突破すればいいの!!それだけに集中して!!!」


なるほどです。

これは混乱を狙った戦法なのです。

四方を囲まれ背後は生きては帰れない渦です。

だけど怨霊達は動きも鈍く攻撃力も低いようです。

少しずつ始まった戦闘では、中級クラスの妖怪でも退けたり倒したりし始まりました。


私も様子を見ながら、水樹ちゃんから頂いた弓で応戦します。

これなら何とかいけそうです。

「韋駄天!あの烏天狗を渦の中に放り投げて!」

水樹ちゃんの言葉が終わらないうちに、韋駄天さんは鳥居の上に移動すると、手下の方の烏天狗を捕まえて、戻ってくる途中で渦の中に落としました。

アアアァァァァアァァアァァァ……………。


烏天狗の叫び声もろとも、渦の中に消えていきました。

そんな仲間を助けようとしなかった烏天狗の行動を見るに、どうやら戻ってこれないというのは本当のようです。

じゃなければ仲間を助けたでしょう。

水樹ちゃんは、不意打ちも兼ねて、黒い渦の正体を確認したのでしょう。


烏天狗のリーダーは、扇子で仰ごうとしましたが辞めました。

突風で渦の中に私達を落とす事も出来たかもしれません。

落ちなくても混乱したかもしれませんが、そうすれば仲間も落ちてしまう可能性がありますね。


そこまで確認すると、水樹ちゃんは最前線に立ち、妖刀 朱雀を抜きました。

ところが、怨霊の背後から何やら大勢の足音が聞こえます。

どうやら誰かが来たようです。


その人達が近くまでくると、仲間に笑顔がこぼれます。

それは北地区の武将達だったからです。

先頭には槍を構えた才蔵さんがいました。

しかし、次の言葉で、私達は絶望しました。


「巫女殿!いざ尋常に勝負せよ!!!」

仲間たちは絶望しました。


何故ならば彼の言葉は、私達と敵対することを意味していたからでした。


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