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さるとらへび  作者: しーた
死闘編
70/100

第70話

 私は朝の強い日差しで目が覚めた。

体を起こそうとするけど、痛みとダルさが重なって諦める。

こうしている間にもパパやママは…。

そう思うと悔しさが込みあげてくる。


さるとらへびに手傷を負わせることは出来たものの、仲間の妖怪達との闘いは、正直惨敗だと思う…。

昨晩だけで、いったい何人の妖怪が成仏しただろう…。

何人の妖怪が重症になっただろう…。


私は自分の強さを見間違っていた。

私は弱い。私がもっと強ければあんなに仲間を傷付けることもなかった。

涙が滲むけど、グッと我慢する。

泣いちゃダメ。今は強くなることを考える時のはずだよ。


その時初めて人がいることに気付いた。

「!?」

床に座りながら、ベッドに上半身だけ乗せながら寝ている。

その見知らぬ女性は、年の頃は近いと思う。


髪が長く首の後ろで縛っていた。

リボンは地味だけど大きくて可愛い。

まぁ、ここにいるって事は敵ではないよね。悪意も見えないし。


兎に角、お腹が空いていた。

時計を見ると8時前を指している。朝食つくろっと。

ベッドから降りる時の振動で、彼女を起こしてしまった。


「んん………。」

目を擦りながら目覚めた女性と目が合う…。

あれ?ヤバイ…。

無意識に体がそう警告している。


「あらあら…。いつの間にか寝てしまいましたね。初めまして、私は各務かがみ ひなと申します。」

「あっ、どうもです。私は安藤あんどう 水樹みずきです…。もしかして、あなたが私の怪我を治してくれたのですか?」

「よく分かりましたね。流石は巫女さんですね。私にも巫女の血が流れているようでして、治癒の力を使えます。黒爺さんから色々とご教授していただき、そして私も皆さんと闘う決心をしたところです。」

「こちらこそよろしくね。雛ちゃんって呼んでもいい?」

「はぁい!」

甘い返事だった。だけど何故か背筋が寒い…。


よく見ると、私はパジャマを着ていた。

胸元から中を見ると…、下着まで交換されている。

薄っすらと血を流していた気もするのだけど、体はどこもかしこも綺麗に元通りになっている。


「もしかして…、着替えさせてくれた?」

「はぁい!体の隅々まで拭いておきましたから大丈夫ですよ。」

あぁ…、やっぱり…。

普通はそこまでしないよね…。

つまり…、それは…。

私はある回答を得ている。カマをかけてみよう。


「ちょっと恥ずかしい…。」

ガラにもない事を言ってみる。これで答えが出るはず。

「いえいえ、あまり強調していない胸でしたが形が良くて…、あぁ、私ったら破廉恥はれんちな…。」

やっぱり…。別の意味で頭が痛いよ…。

私はこういう同性が好きな娘に好かれやすいし、どうやら引き寄せてしまうらしい。まぁ、いいや。

逆に扱いも慣れているつもりだしね。


「オッホン。先に言っておくけど、同性同士の恋とか愛には興味ないですからね。」

「あらあら、そう見えちゃいました?」

「えぇ。」

「大丈夫ですよ。ちょっと興味があっただけですから。」

そのちょっとした興味が怖いんだよ…。


「そ…、そうですか…。あっ、まずはお礼しなくちゃ。ありがとうございました。助かりました。」

「お気にめさずに。私も自分の力を知っていながら、どう扱って良いか悩んでいたのです。お役に立てて光栄です。」

性癖に難ありだけど、治癒系っていうのは助かるかも。

今までは大怪我を負うリスクをずっと背負っていたからね。


「こちらかそ助かります。敵は強大で強力、こちらは兎に角人手が足りない状況なの。黒爺もどちらかというと攻撃系だし、韋駄天は攻撃や逃げることに特化しているしで、これで少しバランスがとれたよな気がするよ。」

「皆さんの頼りになるよう、今は黒爺さんに防御系の霊術も習っています。」

あれ?習っている??そんな時間がどこに…。


慌ててスマホを見た。

日付は私が倒れた日の翌々日を表示している。

「ま、まさか、丸一日寝ていた?」

「はぁい。大丈夫ですよ。水樹ちゃん可愛いから朝昼晩と体を拭いておきましたから。」

そっちじゃなーーーーーーーい!

ゾクゾクと寒気が襲ってきた。


「と、とりあえず朝食を準備するね。」

そう言って着替えようとボタンに手をかけたけど、予想通り雛ちゃんは動こうとしない。

「あの…。着替えたいのだけど…。」

「あらあら、気になさらずに。」

「気にするの!」

「まぁ。もう何度も見てしまったのに、まだ恥ずかしいのです?」

「私は寝ていたでしょ!」

「あ、ついでにちょっとした好奇心で下着も全てチェックしちゃいましたが、気にしないで着替えてくださいね。」

「おいーーーーーーーー!!!」


無理やり雛ちゃんを部屋から追い出し急いで着替える。

そして彼女を連れて1階へと降りた。

両親の状況を確認し、異常がないことを把握する。


だけど、いつまでもこのままという訳にはいかない。

触れないように手を近づけると、エナジードレイン自体の力が弱まっているようにも感じる。

さるとらへびが傷付いているからか、それとも両親の抵抗する力が増したのか…。

どちらでも良い。今のうちに再度体勢を立て直せる。

うん。今はとにかく前向きに考えなくっちゃね。


台所へ移動すると、朝食を作り始めた。

本当は和食にしたいのだけれど、材料の買い出しに行ってなくて選択肢が少ないかな。

和食は諦めて洋食系にする。

我ながら手際よく、ベーコンを敷きながら卵を割り焼いていく。


その間にパンを焼き皿を準備しながらフライパンの中の状態をみる。

ササッと簡単な朝食を作り、アイスティーをコップに注ぎテーブルへ運ぶ。

「あらあら…。何もお手伝い出来ませんでした…。」

雛ちゃんはちょっとおっとり系。

私の真実の目では、おっちょこちょいで天然とも教えてくれた。

危ない危ない。朝食がなくなっちゃってたかもね…。


エプロン姿のまま、応接間へ行き韋駄天と黒爺を起こす。

「はいはい!起きた起きた!!」

パタンと扉を閉めるともそもそと起きだす音が聞こえる。

それを確認するとエプロンを脱ぎテーブルで待つことにする。


隣に座った雛ちゃんは、ニコニコしている。

「何か良いことがあったの?」

試しにニコニコしている理由を聞いてみた。

「昨日は私が朝食を準備しようとしていたのですが、なかなか上手くいかず、気が付いたら韋駄天さんが買ってきてくれまして…。」

おいおい…。ちょっと気を付けることにしよう。

「それと、水樹ちゃんの手料理が楽しみなの。」

……………。

二人共、早くきてよ………。

本人が気付いてなくて同性が好きとか、一番やっかいだよ…。


直ぐに二人はやってきた。

「ふぁーーーー。おはよう水樹。雛さん。」

「おはよう。」

軽く挨拶を済ませ、朝食を始めた。

「韋駄天寝不足?だらしないぞ。」

「いやいや、昨日はワシが二人に稽古をつけた。よって疲れも溜まっておるじゃろう。」


「そうなの?」

「まぁね。厳しいわ、黒爺は。とはいえ、俺も突撃だけの一辺倒じゃ水樹の力になれないと思ってね。」

「そういうことじゃ。それに雛殿は防御系を教えておる。なかなか筋が良いぞ。」

「ふーん。」


「水樹殿はさるとらへび戦をえて、更に器を大きくしたようじゃしな。」

「器?」

「うむ。巫女の力というのは、当然巫女により差が出る。では何が原因かというと、器のでかさなのじゃ。器が大きければ霊力も豊富じゃし、小さければ扱える霊力も少ない。これは鍛錬や実戦で大きくしていくことが可能なのは昔から実証されておる。」


「へー。そんなもんなんだ。」

「なので、二人にも力を上げてもらわねば均衡が取れなくなる。つまりは足手まといとなってしまうのじゃ。」

「やっぱり雛ちゃんが登場したのって、巫女の力が引き寄せたってことなの?」

「まぁ、そうなるのぉ。」


「つかさ、雛さんの親戚が美波さんらしいぞ?」

韋駄天の言葉に、雛ちゃんの方を見た。

彼女は相変わらずニコニコしながら卵焼きを食べていた。

「雛ちゃん、美波さんと親戚なの?」

「あ、はい。そうですよ。私あの人に憧れてカメラ始めたのです。大学のサークルも写真部で…。」

ん????


「ちょっと待った。雛ちゃ…、雛さんって大学生?」

「はぁい。大学2年生です。」

「…………。韋駄天知ってた?」

「お、おう。まさか知らなかったのか?」

「今聞いた…。」


ちょっと待って。

大学2年って19歳でしょ?私より三つ上??嘘でしょ???

彼女の素振りや会話、そして見た目も同学年にしか見えない。

背が低いのもあるかも。


「ご、ごめんなさい。年上にちゃん付けなんて…。」

「あぁ、私は気にしません。大学でも、先輩から後輩まで皆さん雛ちゃんと呼ばれていますので、お構いなく。」

うーむ。どっかネジが飛んでるような人だ…。

まぁ、本人がそう言うならいいかな。


「ところで黒爺。あれからどうなったの?それと、これからどうするの?」

「うむ。地元の妖怪達は皆自陣に引きこもってしまったようじゃ。岩蛇殿も深手を負ってしまってな…。正直なところ危険な状況じゃ。」


「説得してまわるしかないね。」

「どこまで効果があるかわからんが、ワシら三人が、四人になったところで、さるとらへび討伐は厳しい事に変わりはないからの。やはりもっと多くの協力者が必要じゃ。」


「うん。私、今日から説得に行ってみる。」

「全員で行った方がよいのぉ。韋駄天の足もあった方が都合が良いし、雛殿の力も必要になるかもしれぬ。」

「それはつまり、実力行使で仲間にするってこと?」

「そこはやはり妖怪の世界がある。彼等は強い者に付く。本能的にな。」


その時、ボンと蘭ちゃんが出てきた。

「水樹様。我らをお忘れですか?」

ちょっと怒っているっぽい。


『蘭丸はさるとらへび戦に呼ばれなかった事に怒っているぞ。』

首から下げているペンダントから牛ちゃんの声が聞こえる。

『俺もかなり力を回復してきた。もっと頼れ。』

「二人共ありがとう。今度こそ頼りにするね。」

「その言葉、お忘れなく。」

ボンッと蘭ちゃんは消えた。


「式神までもがやる気になっておる。珍しいことよ。ところでこの肉。少し脂っぽいのぉ…。」

「我慢して、何でも食べること!」

こうして4人は各地区の代表者に会いに行くこととなった。

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