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さるとらへび  作者: しーた
死闘編
55/100

第55話

 肩で息をするけど汗一つかいていない天大、アダ名は韋駄天いだてん

彼は真剣な表情で私を見つめ、心配そうな表情をしている。


「何があった!?」

私は、まずは彼を落ち着かせて、事情を説明することにする。

「私は大丈夫、だけどもしかしたら、あなたに手伝って欲しいことがあるの。まずは上がって。」

「………。お邪魔します…。」

何かを感じ取ったかもしれない。

だけど何も言わず靴を脱ぎ、静かに後に付いてきた。

居間に連れてくると彼は、変わり果てた両親を見て驚いている。

まぁ、ビックリするよね。


「どういうことなんだ…。」

「まずは座って。あぁ、それと彼にも手伝ってもらうことになる。えっと、黒爺さん。」

黒爺は錫杖しゃくじょうを抱えながら、腕組をした姿でスッと軽く頭を下げ、韋駄天も、「あ、どうも」と言いながら習う。

韋駄天はソファーに、黒爺は床にあぐらをかきながら耳を澄ます。


私は順番に説明をしていく。

両親がさるとらへびを退治したこと。

その時の刀は、妖刀 朱雀として私が持っていること。

いなくなったさるとらへびの変わりに、他の山から別のさるとらへびがやってきて、両親からエナジードレインをしながら、高賀山一体を制圧しようとしていること。

その妖怪退治を手伝って欲しいこと…。


「………。」

韋駄天は珍しく真剣に、そして深く考えているように見える。

あぁ、こういう時はろくなこと言わない…。

「俺、やるよ。手伝わせてくれ。」

えっ?どうしたの?

いつもみたいに場違い発言するかと思ったのに。


「小僧、その前に説明せよ。どうやってここまできた。」

黒爺が彼を探るように質問する。

「いや、まだよく俺にも分かってないのだけども…。水樹があんな風に俺を呼び出すことなんて無かったから、よっぽどの事が起きたんじゃなかって…。それで夢中で走ったらいきなり景色が流れるように走れて…。」

「走れて?」

「ここまで5歩ぐらいでやってきた…。」

「何言ってるの…?」


「いや、俺にもよくわからないんだ…。」

頭をボリボリ掻きながら彼も戸惑っていた。

私は黒爺に視線を移す。

「うむ。そなたは名前の如く、韋駄天の力を持っておる。お主、元々足が速いか?」

「彼は岐阜県の高校生代表よ。」

私が補足する。

黒爺はなんだかよくわかってないみたい。

「つまり、同世代ではこの辺の広い地域では一番ってこと。」

「ほぉ。なるほどの。韋駄天とは足が速い神ではなく、よく走る神として伝わっておる。じゃが、足が速いことが付加価値を生み、足の速いよく走る者として力を発揮しているようじゃ。」


「つまり…、ん?どういうこと?」

「つまり、お主の武器となる。」

足が速いことが武器?

移動が早くなるだけじゃ…。

「色んな場面で力を発揮するじゃろう。それはおいおい皆で模索するしかあるまい。速く走れることは移動はもちろん、突進攻撃や回避にも使えるであろう。」

あぁ、なるほど。

単純馬鹿の韋駄天にはぴったりの戦法だわ…。

私は妙に納得してしまった。


「他に協力者足りうる者はおらぬか?」

色んな友達の顔を思い浮かべたけど、韋駄天ほど身近であり、尚且つ頼り甲斐のある人は、先輩にも後輩にも同級生にも大人にも居なかった。

もちろん同類と呼ばれる人も…。


暫く考えた後、ゆっくり首を振った。

黒爺はうーむと考えこんでいる。

「ちと少ないのぉ。ではお主を強化するしかあるまい。」

そう言ってヒョイと立ち上がり錫杖でトンッと床を叩く。


シャリーン

気持ちの良い音が部屋に響くと、

「出発じゃ。」

と、短く答え玄関へと歩いていく。

私は韋駄天と視線を交わすと黒爺の後を追う。


「おい、韋駄天。ワシと水樹殿を連れて高賀神社…、いや高賀山山頂まで連れて行ってくれ。」

「いやいや、流石に二人をおんぶに抱っこで走れないよ。」

「馬鹿もん。誰が普通に走れと言った。さっきここまで来た時のようにしろと言っておる。まぁ、やってみろ。」

私も無理だと思った。

それに私、おんぶも抱っこも嫌なんだけど。


そう言おうと思ったけど、黒爺は錫杖で韋駄天をしゃがませると背後に回る。

「ほれ、水樹殿。韋駄天に抱っこしてもらえ。」

「嫌よ!」

「何を言っておる。さっさとせんか!」


だって…。

昨日あのまま寝ちゃってお風呂入ってないし、絶対髪とか臭いし嫌よ…。

「待って待って…、ちょっ…、いーやーだー…、キャッ!!」

そんな事はお構いなしに、韋駄天は私をお姫様抱っこし、黒爺は彼の背中におぶさる。

スクっと立つと、ちょっとだけ辛そうだった。

「ふ…、二人は流石に無理だよね?ね?」

「うーむ、思ったほどでもないな。水樹、ちゃんと食ってるか?黒爺はまったく重さを感じないぞ?」

「いいから走れ。思いっきりな。お主の実力、見せてみい!」

「はいよー!!!!」


ドンッ!


彼が土を蹴ると景色が一気に流れた。

流れたなんてもんじゃない。

新幹線だって飛行機だって、もっとゆっくり景色が流れたよってぐらい。


二歩目を蹴るときは水道橋の先だった。

えっと思った時には韋駄天の家の前、そして石で出来た大鳥居で四歩目、5歩目には高賀山山頂にトンッと降り立った。

彼がしゃがむと黒爺が降りた。

私はあまりの驚きに彼の顔を見上げた。

彼も驚いているけど、なんだか嬉しそう。

そして気付いた。


あああああああ!!!!!近い近い近い!顔が近い!!

私はガバッと彼の腕から逃げた。

「ガハッ…、ハァ…、ハァ…。」

ところが韋駄天は、私が離れると四つん這いになって苦しそうにしていた。

「大丈夫?」

「超つれー…。」

それだけ言った。

いや、そのぐらいしか言える気力が無さそう。


「何よ、いつもの空元気はどこに行ったの?」

「ホッホッ。なかなか厳しい巫女様じゃ。」

こいつはこんなんでへこたれる奴じゃない。

真剣に陸上頑張ってるし、その努力を惜しみなくしているのも知っている。


「私はこれから、あの化け物と戦わなくてはならないの。韋駄天は見ていないかもしれないけど、とてもじゃないけど、この世のモノとは思えない、そんな相手なの。辛いなら帰ってもいいよ。足手まといだから。」

「すまん…、ハァ…、ハァ…、水ぐらい持ってくれば良かった…。」

むむ?そうか、ここまで走ってきたのと同じぐらいの体力は使っちゃうってことか。


「そう言えば、少し下ったところに湧き水があったはず。飲んできなよ。」

「あぁ、そうする…。」

ヨロヨロと立ち上がり山を下っていった。

「ワシらも少しくだるぞい。今のうちに霊気を集めておけ。」

そんなこと言ったって、やり方なんて分かる訳がない。

ほんと気が効かないんだから。


360度山に囲まれたパノラマスクリーンの景色は、何度来ても壮大だった。

天気が良ければ金華山や、その先伊勢湾まで見え、御嶽山、伊吹山や能郷白山、南北中央アルプスと山に囲まれた風景に包まれる。

私は思わず、ゆっくり大きく息を吸い、そしてゆっくり吐いていく。

もう一度大きく深呼吸。

あれ?緊張が解けて、疲れ気味だった体が軽く感じる。

「うむ、では行くぞ。」


あれれ?どうやら合ってたみたい。

これが霊気の力?

とにかく黒爺の後についていくことにした。


少し下り、下山ルートから少し外れる。

こっちは確か小さな神社がある方だ。

案の定、到着したと言われた場所は、峰稚児神社みねちごじんじゃだった。


「ここは平安期、朝廷と対立を深めた輩が、藤原の道真公の嫡子を拐いここで干し殺しにしたと言われておる。」

「へー。それは知らなかった。」

「うむ、ここまでは伝聞で下々まで伝わっておるようじゃが、実は続きがある。」

私は嫌な予感がした。


「その稚児が死んだ後、霊を慰める為にこの神社を建てたのじゃが、その中に宝具を奉納した。お主には見えるじゃろ。」

大きな岩の上にポツンと立てられている、小さな小さな古臭い神社。

その大きな岩の上、神社の前には石で作られた皿のような物が見える。

見えるけど実在しない。だって半透明なんだもの。


「あんまり嬉しくないけど…、見える…。」

「稚児は理不尽な死に対し憤り、やがて怨念となり高賀山に悪影響を与えるようになった。そこで、さるとらへび討伐最中だった藤原の高光は、自らが倒した牛鬼うしおにを番人として見張らせたという。」

「平安時代に生まれなくてよかったわ…。」

「そう言うな。今では稚児の怨念も長い年月で薄れ、人畜無害となっておる。じゃがそこに残されたのは…。」


嫌な予感が的中しそう。

「ちょっと待って。その牛鬼とかいう奴を仲間にしろって言うの?」

「まぁ、そんなところじゃ。うまくいくかはわからん、お主次第じゃ。」

真剣な顔で言われても…。


はぁー。私はため息しか出ない。

どうしてこんなことになっちゃったの…。


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