第51話
めでたし、めでたし。
パタン。
何度も何度も読み返した本を閉じる。
「ねぇ、パパ。この話はどこまで本当なの?」
「水樹が信じたところまでが本当だよ。」
「そんな事言ってまたはぐらかすー。」
私はムーっと膨れっ面をしママのところにいく。
「ねぇ、教えてよー。」
「ふふふ。よく出来た物語ね。」
そう言って笑っていた。やっぱり教えてもらえない。
お爺ちゃんやお婆ちゃんも、誰も彼も笑ってごまかす。
小さい頃、絵本が欲しいとねだった私にパパが作ってくれたお話。
パパとママの出会いから、結婚に至るまでが書いてあるのだけども、妖怪だの生霊だのが出てきて変な物語。
でもなーんか気になるところが多いのよね。
一応私なりの推理も出来ている。
さるとらへび?生霊?まずそこは却下。そんなのありえない。
でも、ママの胸には手術の痕が残っている。
小さい頃は時々、岐阜市の大きな総合病院に行っていたのも覚えている。
だからママが心臓の病気だったのは本当だと思う。
ネットで調べてみたら、ママの病気が国内で治療出来るようになったのと、この物語の手術時期は合っている。だからこれは本当。
だけどパパが失明したってのは嘘。
だって考えてもみてよ。
一度失明して元に戻るなんてありえない。
目が見えないというのは演出で、実際には大スランプとかそういうヤツ。
で、絵が書けなくなったのを12年かけて描けるようにしたって感じ。
どう?名推理でしょ。
ただし、ネットにはパパが目が見えなくなって~、というくだりが沢山出ている。
だけどそれと同じぐらい、見えていたという噂も載っている。
まぁ、どっちにしろちょっと信じられない話だよね。
パパの絵が世界的に有名ってのは本当。
トムさんは未だに我が家に遊びにくるし、物語で書いてあるように世界的に有名な画商であり画家で、ネットにも乗ってた。
パパとの出会いにも触れられていて物語と合ってる。
パパの名作「初恋」は、フランスの画商が何十億という値段で交渉してきたのも聞いたし、テレビでもやってた。
まぁ、確かにあの絵は凄すぎ。
初めて見た時は、ベッドに入っても涙が溢れて、眠れないほどの衝撃をうけた。
あの絵を見たいという世界中の画家さんが時々訪ねてくるぐらい。
兎にも角、失明が完治するなんて…、ねぇ…。
ママは病院に勤めていたのは、ママの友達の彩さんから聞いた。
その彩さんは外科医として日本では有名なお医者さんが旦那さん。
色々話を聞いてもだいたいは合っている。
で、ママは今、病院を辞めて、パパのマネージャーをやってる。
パパはスケジュール管理もお金の監理も下手くそだからね。
飛行機のチケットの手配だとか個展の段取りだとかは全部ママの仕事。
手のかかる画家さんだこと。
何でママはこんなパパを選んだのだろうって時々思う。
絵を描く以外なんの取り柄もないよ。
源爺さんや梅婆さんは今もご健在だけど、ちょっと忘れっぽくなってて頼りにならない。
目の前の家に住んでるけど、海外出張が長期の時はよくお世話になってるし、勿論その時は家事の手伝いもしているよ。
パパのお爺ちゃんとお婆ちゃんも元気。
時々お爺ちゃんと釣りにいったり、お婆ちゃんのところにいって、パパやママの昔話を聞いたりしてる。
だけど肝心なところは笑ってごまかすんだよなぁ。
パパが雑誌に載る時は、美波さんが必ず来る。
専属カメラマンって奴?
プライベートでも遊びにくるぐらいで、凄い写真とか見せて貰ってる。
正直格好良くて憧れる。
最近、契約している大手雑誌社の記者さんと結婚したと聞いた。
あの人の写真も見入るぐらい凄い。
そう言えばパパがライバルだって言ってたけど、絵と写真じゃ違うんじゃないかなぁ?
真相を探る為に一番期待しているのはパパの友達の類おじさん。
あの人天然だし絶対ボロを出すと思うんだよね。
奥さんの紫おばさんがいると、何かを言いそうな時に蹴り入れたりして注意しているところを何回か見たことがあるから、絶対にチャンスはあると思う。
崩すならここね。
3人子供がいて、長男、次男、長女といる。
長男は同級生で武藤 天大っていう変わった名前。
お父さんに似て天然だし空気読めないし馴れ馴れしいし、足が速い以外は取り柄もないバカで、正直あんまり好きじゃないし興味もない。
ただ、よく顔を合わすから知ってるだけ。
弟と妹の面倒はよくみているから、アレを見ると私も兄妹が欲しかったなぁ、なんて思ったりもした。
因みにアダ名は韋駄天。
天大って変わった名前からもじってるのと、足が速いところからきてる。
これを考えた奴は天才だよ。
ちなみに私も何の取り柄もない。
高校1年生にもなって、将来のこととか何にも决めてない。
どちらかと言うと人の事をどうこう言える立場じゃないよね。
昔はパパやママの喜ぶ顔が見たくて絵を描いていたけど、パパの絵を見る度に比べて嫌になる自分がいる。
パパは絶対に超えられない。これはガチ。
超えられる気がしないと、描けば描くほど実感する。
周りの期待が高かったのもあって、そういうのが辛いから辞めた。
小中と美術で絵を描いたこともない。全部白紙。
今年から高校に通っているけど選択科目で美術は外しちゃった。
ママが剣道でちょっと有名だったのも知ってる。
だから剣道もやらなかった。
目下、何になりたいか模索中。
自分探しの旅?ってヤツ。
でも1つだけ特技がある。
空気読むのだけは得意だったりするんだよねー。
何故か敏感に分かる。
だから友人関係は良好だし、まとめ役やったり司会役やったりするのは得意。
喧嘩の仲裁や、他人の恋路の手伝いなんかもする。
頼られるのは嬉しいけど、あんまり姉御肌を見せると女の子から告白とかもあって面倒だから、ほどほどにしてる。
忘れるところだった。我が家にはもう一人家族がいる。
猫の蘭丸。
私が生まれた時に拾ってきた子猫らしい。
生まれて間もない蘭ちゃんは大怪我していたらしくて、蛇に噛まれたんじゃないかってママが言ってた。
だから同じ年。今年16歳。
もうおじいちゃん猫だね。
とてもよく懐いていて、私が一人で川へ遊びにいっても付いてくる。
小さい頃、急に高熱が出て緊急で病院行った時も、車に乗ってきて付いてきたのも知ってる。
高賀神社へ遊びに行っても付いてきた。
私が一人で出かけるといつも付いてきて、何をするわけでもなく寝てたりする。
そんで帰る時も一緒。
そういう意味では蘭ちゃんは私の弟みたいな感じ。
だから長生きしてくれるといいなぁ。
でもね、最近は立つのも辛そうなの…。
いつも寝たきり状態だし、ご飯もほとんど食べてくれない。
そう言えば、明日のお祭りも一緒に付いてくるかな。
無理はしてほしくないなぁ…。
そうだ、祭りに行ったら、物語に出てくる丸い石や、祭り会場にある小さな祠を調べてみよう。
行く度に調べてるけど今年は違う。
物語ではママは髪の毛を献上したとあった。
この前美容室に行った時にちょっともらってきたんだよね。
私の髪を奉納して藤原の高光?とやらが現れたら、きっと面白いし物語は真実だということになる。
パパとママは雑誌のインタビューがあって早めに帰るはずだから、私は残って試してみようと計画している。
フフフ。ちょっと楽しみ。
何も無ければ無いで、それはそれで一つの答えだしね。
さーて、どうなることやら。