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さるとらへび  作者: しーた
純愛編
42/100

第42話

 8月15日。

夏真っ盛りの夜8時ごろ。場所は高賀こうか神社前。

4人の男女は、それぞれの思惑を胸に、この時を迎えていた。


瞳がパトカーを降り、急いでドアを閉める。

類はドアロックを直ぐにかけた。

所謂チャイルドロックになっていて、中からは開ける事は出来ない。

これで万が一にも光司が外に飛び出すのを防ぐ。


助手席に座るゆかりも固唾を飲んで見守った。

瞳には伝えていないが、もしも形勢が不利なら類が瞳を助けて、紫が車を走らせようと二人だけで話し合っている。

その為に紫はやってきた。


なのでパトカーは駐車場を背にして駐車してある。

つまり進行方向は下山する方向だ。

いつでも逃げられるようにしてある。

もちろん、成否はともかく瞳を病院に連れていくにも、一刻を争う状況になることは分かっているので、その時にもスムーズに向かえるという意味もある。


瞳は駐車場の片隅にある丸い大きな石に向かってゆっくりと歩く。

外灯に照らしだされた彼女には、気迫が満ち溢れているのが類と紫には分かった。

パトカーから丸い石までそれほど距離は無い。

逃げるのにも、病院に連れて行くにも、離れすぎていては都合が悪い。

もちろん闘いの状況によっては、パトカーでこの場を離れるという選択肢もありえる。


瞳は類へこっそりと、敵が素早い事を伝えてある。

その辺も考慮して動くだろう。

瞳は、締縄の巻かれた丸い大きな石と少しだけ距離を取り立つ。

いつの間にか半透明の鎧武者が背後より近づいてきていた。

彼女は知っていたのか特に驚く様子はない。


そして藤原 高光の愛刀である朱雀を受け取る。

「意外と軽いのですね。」

「それはそなたに流れる巫女の血のおかげじゃ。」

そんな簡素なやり取りをし、場の空気の緊張が高まっていく。

その時、丸い石が薄っすらと光だした。


いよいよその時が来たのである。


瞳は刀を抜いていない。

真剣の、研ぎ澄まされた姿が怖いというのもある。

何回か本物の真剣を振った事はあるけども、人を殺す為の道具だと思うと嫌な汗をかくこともあった。


刀身の長さを鞘から確認する。

意外と短いが扱いやすそうだ。

これならいける!

そしてこれを抜いた時は敵を斬る時である。


一瞬石が強く光ると、ぬぅーっと妖怪が現れた。

「さるとらへび!」

高光が叫ぶ。腰を落とし右足を少し後ろで踏ん張る。

そして直ぐに印を結び霊力を高める。


三者は微妙な距離を取りながら、相手の行動を伺っている。

さるとらへびは回復した鋭い目を、瞳と高光へと交互に向けて、ゆっくりと二人の周囲を歩く。

餌を狙う獣のように…。

その姿はまさに獰猛な獣。


 「何アレ…。」

車内では紫が思わず声を漏らした。

類が直ぐに黙らせる。

光司にバレては元も子もないからだ。


光司は未だに嫌な予感を捨てていない。

それどころか、車外から感じる大きなプレッシャーが、神なのか悪魔なのか判断がつかないでいた。

さっきから嫌な予感が止まらない。


「類!どうなっている!?」

聞かれた類は、この状況をどう説明して良いか迷ったが、答えない訳にもいかず、

「神様が現れたけど、ちょっと機嫌が悪いみたいだ。」

と、そんな風に答えた。

「ちょっとどころじゃないでしょ!」

と叫びそうになった紫が慌てて口を塞ぐ。

状況は緊迫しているのは遠目にも分かった。


 さるとらへびの表情はわかりづらいが、ニヤけていると言われればそうも見える。確かにそうかも知れない。

1000年以上待ち焦がれた瞬間が直ぐ目の前に訪れているのだからだ。

「嬉しいぞ、高光。我はこの時を千年と余もの間、心待ちにしておった。」

さるとらへびの声は低く心に響く。

まるで心臓を鷲掴みにされているようだ。

妖怪は更に目を見開く。


カッ!


さるとらへびを中心に一瞬光りが広がると、明らかに体が大きくなっており、素人の瞳にまで今までよりも力が強まっているのが分かった。

それと同時に光司にも異変が起きる。

「ぐぅぅぅぅ…。目が…、頭が痛い…。」

「大丈夫か?」

類の呼びかけに答えられないほど頭を抱えてうずくまっている。


しかし瞳達には車の方を気にする状況ではない。

激しいプレッシャーと圧倒的な存在感。

全てを威圧する眼力を前に、隙を作るどころか、萎縮し続けている。


だが高光が動く。動かなければ、この嫌な状況を打破出来ない。

「え゛い゛や゛!!」

掛け声と共に右手を突き出すと、そこから薄く光る弾のような物が飛び出した。

妖怪の横っ腹に着弾し「く」の字に曲がる。


その一瞬に瞳が動く。

柄に手を掛け素早く近づいた。

だが、妖怪は踏ん張り瞳を睨みつける。

彼女は直ぐに後退する。


しかし、今の連携が今後の戦いのヒントになった。

瞳は高光を見ると、彼は軽く頷いた。

今のでいけると言う意味だ。

高光にもそれは伝わった。


彼女の動きは悪くなかったし、もしも妖怪がよろめいていたなら大きなダメージを与えていただろう。

攻略の糸口は見えた。

だが、その考えは直ぐに吹き飛んだ。


今度はさるとらへびの方から動く。

「な!?」

一瞬の出来事だった。

高光が吹き飛ばされた。瞳には、その姿は捉えきれなかった。

さるとらへびの動きが消えたと思った瞬間には、高光は吹き飛ばされていた後だったのだ。

ただの体当たりだけだったのは、瞳の動きを見る為だったのだろう。

直ぐに彼女の方に視線を移し、動きが無かった事を確認する。


敵にも、この闘いの攻略の糸口が見えたようだ。

高光は直ぐに立ち上がり、さるとらへびを睨む。

多少ダメージはあるようだが、大きな問題はなさそうだ。

直ぐに次の手を打つ。


「せい!!」

短い掛け声と共に先ほどよりも小さめの弾のような物が高光の右手より現れ、今度はさるとらへびの上から土砂降りのように降り注ぐ。

何発か当たると妖怪がよろめく。

瞬間的に移動しようにも、細かい弾があちこちに当たり動きづらそうだ。

特に目をやられることを嫌っているようにも見える。

過去のトラウマだろうか、そのせいで動きが止まる。


チャンス!


瞳は直ぐに距離を縮める。

柄にかける手に力がはいる。


「えい!!」


だが、鞘から刀が抜けない。


「え?あれ?」


妖怪の動きをチラチラと確認しながら後退りする。

何度も抜こうとするが抜けない。

「いかん!」

高光はこの想定外の事態に原因を見いだせないでいた。


その様子は車内からも分かった。

口を塞ぎながら慌てる紫を横目に、類は助けに行くかどうかの判断をしていた。

その微妙な空気を光司が感じ取る。


「どうなってるんだ!?」

珍しく声を荒げるが、類は慌てなかった。

「ちょっと神様の虫の居所が悪いみたいだが、今まさに交渉中のようだ。」

「嘘つけ!」

「嘘ってなんだよ。」

「この俺が見ている映像は何なんだ!?」

「何?」

「見覚えのある女性と鎧武者…、半透明の鎧武者の男がこっちを見ている…。まさか…、これって…。」

類はマズいと思った。

彼が伝える状況は、今まさに行われている戦闘そのもので、その視点は…。





さるとらへびのものだったからだ。


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