消失と建設
「まさか家作りからすることになるとは。まあ、好き勝手やるつもりだったからいいんだけどね」
建物一覧を眺める雪兎の前には不自然な更地。
そこにあったはずの神殿は、探索から戻ってきたらなくなっていた。
最初からそんなものなどなかったというように。
残っていたのは。
覚醒の守護石
異世界からの来訪者を受け入れた古の神殿が遺した至宝
身に付けると不思議な力によって守られ、全能力が強化される
固有所有者 雪兎
「アタシだけのお守りかぁ」
やっぱりゲームとは違う。
そして安定の固有表記。
そして最強ステータスを更に強化するというおまけ付き。
明らかに何者かが最強勇者とかいう面倒事を押し付けようとしているが、お断りだ。
そもそも、本当に勇者をさせたいのならその職を得ているはず。
ざっと見た職業にそういうのはなかった。
やっぱりもう一度全部見直す必要があるなと頷きつつ、自宅にする建物のアイコンを押す。
更地だった跡地に僅か数秒で立派なログハウスが建った。
これなら森の中でも違和感はない。
ベッド、棚、テーブルセットなんかを設置してとりあえず終了。
生産系の作業場は必要になったらということで。
家はOK。
ついでに家周辺も安全地帯にしよう。
自分は襲われないが出入りするだろう者達はほとんどモンスター。
人間の勝手な都合だが世間的には害となるもの。
しかし雪兎にとっては大事なお客。
少なくとも自宅周辺で手出しはさせない。
とりあえず正当防衛以外の攻撃不可。
ちなみに家主の雪兎は含まれない。
【創作】で周辺を安全地帯にした。
これでアタシの所へ来るモンスターいやお客は気楽でいられるでしょう。
モンスター専門アイテムがあるんだから需要はあるはずだ魔商人。
そういえば魔商人てどんな職業だ?
固有職業 魔商人
モンスターと交易を行う者
モンスターに限らず人間以外の種族全てが含まれる
つまりビックリ人間てことですね解ります。
固有職というか専用職だね。
アタシ以外が修得するのは大変そうだ。
それはさておき。
「やっぱり付かないんだな」
貰った素材には王冠マークが付いていない。
採取品もだ。
これらを調合とか手を加えれば王冠マークが付くんだろうか?
モンスター用で試してみよう。
魔癒薬 〈まゆやく〉
モンスター専用 HP超回復
手を加えたからなのか魔癒薬には王冠マークが付いている。
他もこうなると解っているが一応やろう。
魔解薬、魔毒薬、魔睡薬、魔治薬etc。
効果は特大など様々。
未使用なのではっきりしないが表示以上の効果がある気がする。
効果が高いなら瀕死か重症、もしくは大型以上にしか使えないのかもしれない。
草の状態でも効果は高いから大丈夫だろうたぶん。
そして1個しか作っていないのに複数できたのは何故だろう。
もうアタシだからでいいや。
手間が省けて大助かりですよ。
ビックリ人間ですからね!
こうなりゃなんでもありだ。
「あ、ポーションはどうだろ」
主に人間用回復薬。
採取した中に薬草もあったからついでに試そう。
神薬 〈しんやく〉
HP超回復
神の手を持つ者によりポーションが進化
瀕死状態をも一気に全快させる
神の手を持つ者が生み出した究極の一品
魔癒薬の時は平然としていた雪兎もこの説明には頬が引きつった。
「ポーションなのに名前変わってる!?何コレどういうこと!?……アイテムって、進化するんだ」
おかしなことではない。
職業だって極めれば上級職へ進化するのだから。
普段は草状態か回復魔法を使うことにしよう。
コレクターなので一通り作ったら同じ結果となり、非常時以外使えないというオチがついた。
やっぱり調合しない草状態がいいのか?
しかしながら、手持ちには限りがある。
【創作】でアイテム無限増殖とかにしてしまえば早いがそれはちょっと。
「んー」
ゴソッと採ってもワサッと生える。
採掘と伐採はまだしていないがたぶん同じことが起こるんだろう。
採掘ならカンッと打ったらポロポロポロっと鉱石やら宝石やらが大量出現。
伐採なら1本切ったら木材が大量出現。
基本的に素材は大量入手。
「……そっか。アタシ用ダンジョン作っちゃえばいいんだ」
採取無限、宝箱無限出現のまさに夢のダンジョン。
絶対安全域は自作ダンジョンでも有効だろうからモンスター出現の有無はちょっと置いておく。
フィールド色々の採取用ダンジョンにするつもりだ。
食材なんかも採れるようにすれば、誰もが一度くらいは夢見る完全自給自足。
他にもアレコレと詰め込んだ結果。
異界のダンジョン
雪兎の希望と知識がつめこまれた超反則級ダンジョン
まだ実行は押していないが、ついに説明にまで反則と表示が。
規格外の作った物はそうなるのですよ。
うん、何もおかしくない。
設定を確認して実行。
ログハウスの横に現れた渦巻く禍々しい黒霧。
これが出入口ならうっかり入っちゃうとかはない。
どう見ても待っているのは命の保証はできませんよ的な展開。
もし自分が力のないただの一般人なら、金を積まれたとしても絶対に入らない。
「さーて、行ってみますかね」
バトルの心配はしていない。
だって襲われないから。
コレクターな雪兎にとってバトルは採取のついで。
ただ、稀少アイテム持ちのモンスターというのはちょっとどころではない強さ。
本来ならパーティーをくんで挑むものを、雪兎は単独で撃破する強者。
それもシャレにならないくらいの。
元からそうなのに特典や守護石によって強化されまくった雪兎は、伝説級というより神級の表現が正しい。
称号があるのでその無双っぷりを他者へ見せる機会は今のところないが。
「採取=運動にならなきゃいいなぁ」
絶対肥えるわと禍々しいマイダンジョンへ入っていった。