収穫と発覚
迷いの森という名の通り、森全体が迷路になっていて先へ進もうとするのを阻む。
が、メニューで地図を見れる雪兎には障害にはならず、逆に寄り道をしながら先へ進む。
とりあえず採取、バトルはおまけ。
コレクターはバトルより採取の方が好きです!
未知のダンジョンはワクワクします!
「そういえば人間相手の商人はいるけど、モンスター相手の商人は聞いたことないなぁ」
そう呟いた理由は。
魔癒草〈まゆそう〉
モンスター用の薬草
モンスター限定で効果大
うん、ゲームにはなかったぞコレ。
まあトリップにはよくあることですよ。
それにしてもモンスター専用、か。
モンスターだってケガはするし病気にもなる。
親、兄弟、配偶者、子、仲間。
同じ生き物だもの、いて当然。
モンスター専用アイテム。
なんだか新しい職業が見つかりそうな予感がする。
そんなことを考えてながらプチプチ魔癒草を摘んでいく。
プチプチ
ニョキニョキ
プチプチ
ニョキニョキ
採っても採っても生えてくるのはどうしてだろう。
試しにゴソッと採ってもワサッと生えてくる。
これを地味に採っていたアタシって…。
おかしな光景だが、自分も非常識なのでまあいっかと採取続行。
「そういえば称号チェックしてなかった」
職業とかスキルとかアイテムとか、そういうのを優先して見たので称号のことを忘れていた。
4つあったな。
なんとなーく予想できるけど一応見ておこう。
貰った特典なんだし。
超越者
全てを超えし者の証
常人では辿り着くのが困難な位置にいる者へ贈られるもの
神の手
その技術は神の域
生み出されるものは全て神級
異界の賢者
この世界にない知識を持つ者へ贈られるもの
絶対安全域
超越者という高み、もはや絶対王者に達した者のそばはどんな猛獣だろうと戦意を捨てる
歩く安全地帯!
……アタシはビックリ人間か。
いや自由人だからなんでもアリなんだろうけどさ。
アタシ、ビックリ人間になるつもりはなかったよ。
つまり絶対安全域っていうのはアレだね、人間には効果があるかは不明だけど教われないってことだね。
逆に甘えてくるとか?
そうかそうか。
それで。
「こうなるのか」
現在、モンスターに懐かれ中。
頭の上には触ったら熱いでは済まなそうな炎の鳥、脚に寄り添う体毛が緑の森狼〈ふぉれすとうるふ〉、そばでは体毛が紫で額に角がある角兎〈つのうさぎ〉が雪兎を真似て魔癒草をプチプチ摘んでいる。
採取→モンスター発見→様子見→モンスター気付く→モンスター接近→擦り寄る→現在。
目が合ったのに襲ってこないのはおかしいと思っていたのだよ。
まさかこうなるとは、予想外です!
種族の異なる3匹がこうなるんだからたぶん全モンスターが対象。
つまり戦闘不可。
モンスター素材入手不可能。
採取中でなければozrポーズをしていたかもしれない。
コレクターとして絶望的状況。
森狼の頭を撫でると嬉しそうに尻尾を揺らす。
こんなに懐いてくれているのを攻撃なんて、できるわけがない。
素材は惜しいけど、こればっかりは仕方ない。
そう考えていた雪兎の脚を誰かがつっついた。
「ん?」
角のない角兎が器用に前足で角と尻尾を抱えてこちらを見上げていた。
アゲル
「んん!?」
今この子喋った!?
思わず二度見しちゃうくらいびっくりした。
「アゲル」
今度はちゃんと聞こえた。
さっきのは頭に直接届いてる感じだった。
アタシ、本当にビックリ人間になっちゃったんだな。
ま、いっか!
アタシ戦闘狂じゃなくコレクターだし!
争い関連お断り。
「ありがとう」
お礼を言って受け取ると、森狼も何かをくわえてこちらを見ている。
緑色の毛皮。
君、もしかして脱皮したの?
それも受け取ると、今度は炎の羽根が降ってきた。
君もか炎鳥よ。
戦わずにモンスター素材ゲットしました!
いいねこれ!
こういうの大歓迎。
貰ってばかりでは悪いので魔癒草を束にして渡した。
等価交換、交易だね。
今のアタシは商人か交易商といったところか。
いいね。
モンスターというか人間以外専門商人。
モンスターに襲われるどころか懐かれる雪兎にしかなれないであろう職業。
固有職業 魔商人を獲得しました
これも固有ですか。
まあ他の人にはなれないだろう。
普通は喰われるだけだ。
人間相手の商人はいてもモンスター相手の商人がいない理由はそこにある。
ところで何故急にモンスターの言葉が解るようになったのか。
……会話できるようになったんだから難しいことを考えるのはやめよう。
もうスキルってことでいいや。
遺跡に戻ったらもう一度全部チェックしよう。
「なくなっちゃったね」
角と尻尾がなくなった角兎を撫でていると、ポンッ、とそれらが生えた。
……こうくるのか。
さっきの魔癒草と同じパターン。
コレは自分限定の現象なんだろう。
そういうことにする。
せっかくなので3匹にはもう少し採取に付き合ってもらうことにした。
探してみると魔癒草以外にもモンスター専門アイテムはあった。
毒消し効果の魔解草〈まかいそう〉、毒効果の魔毒草〈まどくそう〉、睡眠効果の魔睡草〈ますいそう〉、麻痺効果の魔痺草〈まひそう〉、万能効果の魔治草〈まちそう〉etc。
採取中、色んなモンスターが来る来る。
ケガとか状態異常とか体調不良とか、純粋に惹かれてきたのとか。
もちろん対応した。
ケガには魔癒草、状態異常には魔治草、体調不良には何もしなくてもしばらくそばにいるだけでよくなる。
本当にビックリ人間だねアタシ。
害どころかアイテム入手という得があるので文句なし。
むしろ大・歓・迎!
トリップ初日でこんな得得尽くしでいいんだろうか。
もちろん色々貰ったのでお返しはしましたよ。
またねーと解散して一人になった雪兎は、山になっている頂き物をアイテムボックスに入れた。
これも後でチェックしよう。
現時点での不安が大部分消えた。
残すは。
「住居の確保だな」
集めることを優先してしまったが、家がなければ生活できない。
採取はこれくらいにして一度遺跡に帰ろう。
拠点登録してるから一瞬だ。
「建物はあるからリフォームすれば住めるよね」
どんな家にしようかとワクワクしながらメニューを開き、拠点へ帰るを押した。