仲間入りと始まり
自由気ままなセカンドライフを。
SFL―セカンドフリーライフの売りは、多種多様な職業と生き方。
種族こそ人族しか選べないものの、職業は現実のものに加え幻想職を合わせると軽く千を超える。
各職業スキルは更に多く、一部職業専門スキルなどもあるが、基本的にどの職業でも使えるものの方が多い。
ダンジョンを攻略し、クエストを受け、モンスターを倒す冒険者として生きるもよし、もの作りに没頭する生産者として生きるもよし。
ダウンロード型だが不定期にクエストやダンジョンが追加されるので飽きはこない。
通信による協力プレイはあるものの、オンラインゲームでもないのにこのクオリティは異様だった。
データ量のアレコレで保存媒体は容量の多い物を求められはするが、それ以外はただのRPG変わらない。
SFLの売りに惹かれて始め、廃人化する者が少なくないのも頷ける。
神威雪兎<かむいゆきと>もその1人で、自称廃人寸前プレイヤーだ。
休日や寝る前などにやっていたのだが、とある理由によりこの2ヶ月、食事、トイレ、買い物、適度な休憩、運動、就寝以外はずっとやっている。
「あのくされ社長の毛根死に絶えろいやすでに尽きてたなざまあみろ!」
呪いの言葉を口にしながらのモンスター討伐はなかなかエグい。
八つ当たりなので高位魔法や上級剣術等々を使う使う。
それでも解消できない時は大きなふかふかクッションを壁に押し当てて、某幼女のように殴る殴る。
それでダメなら1人カラオケで大熱唱。
つい先日も7時間ほどやったばかりだ。
そして、自称廃人寸前が真の廃人となる時がきた。
画面に表示された、伝説<レジェンド>、の文字。
「やったー!伝説だー!」
イエーイと万歳をして喜ぶ雪兎の腹が盛大に鳴り、疲労に襲われ、ぐったりと床に倒れた。
「あー……完徹子予備軍だ。空が白いぞばかやろー」
飛び抜けたプレイ時間には笑うしかない。
立派な廃人プレイヤーだ。
そもそも、伝説称号を得て廃人ではないと言えるはずもない。
「オールコンプ、長かった、なー」
一通りの職業に就き、職業レベルを上げ、スキルを覚えての繰り返し。
職を変えても使える採取、採掘、伐採、釣り、鍛冶、錬金、調合、料理などをレベル上げの合間にやってほぼカンスト。
そうやっているうちに新しい職業を発見して育成してまた発見して。
スキルのレベル上げはわりと楽。
コツコツやるだけ。
地味な作業は嫌いじゃない。
派手なことばかりが重要じゃない。
優れた人も影の努力は必ずしている。
そんなこんなで現段階オールコンプ。
もう一度言う。
本っ当に長かった。
色々なくした気がするけど満足だ。
「そういえば特典は?」
伝説称号になると何かが起こると、数あるサイトの1つに載っていて、コレクター魂に火がついた。
何かを極めれば取れると思い、それでやっていたのが職業・スキル集め。
結果、見事獲得しました。
その対価は心身共にボロボロ。
「特典、特典、とく……ねみぃ」
睡魔の襲撃、逆らえません。
確認は寝てからにしよう。
根性で歯磨きと洗顔を済ませて、布団に潜り込むと、某眼鏡少年のように数秒で夢の世界へ旅立った。
雪兎の寝息が聞こえ始めた頃、開きっぱなしのゲーム機の画面から紫色の光が放たれ、ベッドを中心に巨大な魔法陣が出現した。
光の柱がベッドを飲み込み、それが消えた後、雪兎の姿はそこになかった。