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Happy Halloween!!  作者: もふじ
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命がけゲーム 中

 花の言葉に、全員が目を丸くした。


「え、えぇ!? ちょっと待って、どういうこと?」

 ヌスクは右手で頭を支えて、ヴォルフの方を見る。ヴォルフも肩をすくめて、ヌスクを見返す。


「でも、それってここから逃げ出したいとか、そういう意味?」

 シャーフは、口元は笑っているが目は花を睨んでいた。とにかく彼には、全く似合わない顔だった。さすがに花もその表情には、ゾクッと恐怖を感じる。シャーフのその一言で、4人の疑いの目が花に向けられた。


「あはは、そう言われるんじゃないかとは思っていたんですけどね。それでも、今年の私の作戦はやっぱり皆でお買い物に行くからこそ意味があると思うんです。……ダメ、ですかね?」

 花は困ったようにへなっと笑う。ハーゼはニコッと満面の笑みを見せる。


「いいよ! だってここで終わりだなんて、面白くないもの! でも、外に出るなら私の手を離しちゃダメだよ?」

 ハーゼは花の手を取ってブンブンと揺らす。花は嬉しそうに笑って、ハーゼにお礼を言った。シャーフも慌てて、花の手を取りに行く。


「ごめんね、疑っちゃって……。僕のこと、嫌いになっちゃった?」

 シャーフは何かを恐れるように強く花の手を握る。その手は細かに震えていた。そして、小さな声が……。その声で、笑顔を見せていたハーゼも不安そうな顔でシャーフを見る。


  捨てないで


 本当に小さな声だった。消えてしまいそうな声。

 

 でも、その声はしっかり花の耳に届いた。ギュッとシャーフとハーゼを抱きしめる。その姿を見て、ヌスクとヴォルフ、ヘクセは顔を見合わせて静かに笑顔を見せる。


「マイネリーベ、俺たちからも謝るよ。疑ってごめん。なんせ俺たちは、人間に捨てられたおもちゃだからな。信じることが苦手なんだ」


「気にしなくていいですよ。そんなことで、嫌いになるわけないじゃないですか。……それで? 一緒にお買い物に行ってくれるんですよね!」

 花は答えが分かっているかのように、リュックを背負い、ヌスクたちに笑いかける。ヌスクは頬をかいてから、帽子をテーブルの上に置く。


「仕方ない。買い物だけだからな?」

 ヌスクはポンと花の頭に手を置いた。花は嬉しそうに微笑む。他の3人も花にもらったものをしっかりと身に着け、2人の後を追った。



 外に出て少し経つと、ヴォルフが花の肩をポンポンと叩く。花と話していたヌスクも不思議そうに首を傾げた。

「俺たちは耳とか見せないようにすればいいんだよな?」

 ヴォルフは帽子でしっかり耳を隠せてはいるが、気になるのか頭を何回もモフモフと触る。シャーフは角も隠さなければいけないので、耳あて付きにしてはいるが、ずっと耳を押えている。ハーゼとヘクセは何も気にならないのか、楽しそうに話していた。


「あ、そうですね。……でも、まぁ、もし見られたとしても、今日は大丈夫だと思いますけど」

 花は「きっと大丈夫!」と言いながら、頷く。ヴォルフとシャーフとヌスクは顔を見合わせて、不思議そうに首を傾げた。その様子を見て、ハーゼとヘクセも首を傾げる。


 数分歩くと、花たちの前にはショッピングモールが現れた。花以外の5人は、口を開けてそれを見上げる。


「大きいな」

 ヌスクがそういうと、うんうんと4人が頷く。

(そっか、ヌスクさん達は初めてなんだよね)

 花はクスッと笑った。

 中に入ると、生活に役立つ物がたくさん売られてある。ヌスクたちは初めて見るものを見つけるたびに足を止めた。特にヴォルフは狩りをする狼のように商品を真剣に見ていた。花はそんな彼らの背中を押して、食品売り場に行く。その中でも、お菓子売り場……ではなく、小麦粉や卵、牛乳、砂糖などをヌスクたちに協力してもらいながらカゴの中へ入れていく。シャーフとハーゼはカゴの中を見てから、花を見上げる。でも、花は何かを考えているようだった。


「どうしたの?」

 シャーフが花の右腕を掴む。


「考え事?」

 ハーゼは花の左腕を掴んだ。

 一緒にニコッと笑うシャーフとハーゼを見て、花は2人の目線と合うようにしゃがむ。


「2人とも、お菓子は何味が好き?」

 シャーフとハーゼは、顔を見合わせるとコクッと頷きあう。


「「チョコ―!!」」

 2人はバッと両手を上げながら言う。花は「そっかぁ」と言って笑うと、カゴの中にココアパウダーを入れた。花がカゴの中身を確認していると、聞いたことのない女性の声が聞こえてくる。


「あら?」


「ひっ!」

 シャーフの怯える声もした。

 花が振り向くと、シャーフの帽子が床に落ちてしまっていて、その様子を女性が見てしまっていた!

 シャーフは慌てて、ハーゼの後ろに隠れる。ハーゼもどうしたらいいのか分からなくなったのか、今にも泣きそうな顔になっていた。女性は優しい笑顔を見せながらしゃがむと、シャーフに目を向ける。


「あなたは何?」

 異変に気付いてこちらに向かってきていたヌスクたちの動きがピタッと止まり、顔が青ざめていく。花はシャーフとハーゼの後ろに回って、ハーゼの帽子も脱がせてしまう。女性は目を見開く。


「は、花!」

 ヌスクの()めるように訴える声が聞こえてくる。花はヌスクの声を無視して、女性にニコッと笑いかける。


「うさぎちゃんと羊くんですよ! 可愛いでしょ?」

 ヌスクは一瞬で絶望したような表情になり、グッと拳を握る。ヴォルフも諦めたようにため息をつく。ヘクセはそんな2人を見て、焦る様子を見せた。3人の間には、負の空気が流れ込む。

 ― やっぱり信じるんじゃなかった

 ヌスクは目を瞑って、俯いた。

 花はそれには気付かず、シャーフとハーゼの耳元にボソッと2人に指示をする。2人はコクッと頷いた。


 せーのっ


 「「「 Trick or Treat! 」」」


 ピクッとヌスクの体が反応する。


 これは、ヌスクたちの呪文か? いいや、今は……シャーフたちを守るための魔法の呪文。

 ヌスク、ゆっくり目を開けてごらん? ほら、君の目の前には何が見える?


「まぁ!」

 女性はパァッと表情を明るくし、カバンの中から3つの小さな袋を取り出す。袋の中には、小さなケーキが入っていた。シャーフとハーゼの表情も明るくなる。


「お菓子を持ち歩いていてよかったわ! これあたしが作ったの。ぜひ、食べてちょうだい」


「あ、ありがとうございます!」

 花は袋を受け取って、シャーフとハーゼに渡してやる。シャーフとハーゼは花の後ろに隠れながらも、女性にペコッと頭を下げた。

 女性の姿が見えなくなると、花はふぅと安心の一息を吐く。そして、2人に急いで帽子を被らせた。


「よし! 買って帰りましょうか!」

 花はカゴを手に取ると、ヌスクたちに笑顔を見せる。ヌスクはただ頷いた。花がヌスクに背を向けて、レジに向かおうとする。ヌスクは慌てて駆け出し、後ろから花を抱きしめる。ヴォルフがヒューと口笛を吹く。


「ヌスクさん? どうしたんですか?」

 花が顔を横に向け、ヌスクの様子を見ようとする。ヌスクは花の肩に頭を置いた。


「ごめん! ごめん、また疑った。君が僕たちを裏切るような子じゃないって分かっていたのに……。もうしない、もう疑わない。絶対に。信じるから……。ごめん」

 花は自分の前に回ってきているヌスクの手を包む。


「疑ってもいいんですよ」


「え?」

 

「疑っても、何度疑っても、最後に信じてくれるなら。私はそれで十分。ね?」

 花の耳元で、クスッと笑うヌスクの声が聞こえた。

(でも、もう君を疑うことはないだろうけど……)

 ヌスクが花から離れようとすると、ヘクセがヌスクごと花を抱きしめる。


「もう! どうなるかと、思っちゃったじゃない! それに、ヌスクでも花ちゃんを独り占めだなんて許せないんだからー!」

 シャーフとハーゼも花に抱きつく。花は身動きが取れなくなってしまったが、少し嬉しそうに笑う。ヴォルフはその様子に何も口を出さず、花が持っているカゴを持ち、ジッと花を見た。


「買って帰るんなら、早く帰ろうぜ」


「あ、はい!」

 花が返事をすると、ヘクセも諦めて抱きしめるのを止めた。ヌスクは小さなため息をついている。花は急いでヴォルフの隣に並んで、財布を取り出す。ヘクセも花の隣に並んで、不思議そうにヴォルフを見た。


「いつものあんたなら、一番に私たちを外そうとするのに今回は大人しかったわね」

 ヘクセは財布の中身を確認している花の腕をギュッと抱きしめながら、言う。


「あぁ? ……まぁ、そうだな、ついさっきマイネリーベへの想いが変わったからな」

 ヴォルフは表情を一つも変えずに、淡々と言う。ヘクセは慌てて、ヴォルフを花から離して小声で話しかける。


「さっきの行動は、シャーフたちを守るための行動よ? 裏切ったとかそういうのじゃないんだからね!」

 ヘクセの言葉に、ヴォルフは呆れた目線を送りながら深いため息をつく。ヘクセは「な、何よ!」と、口を尖らせながら言う。ヴォルフはヘクセを突き放しなして、花の所へ向かう。


「そんなこと、分かってる。……今まで以上に、好きになってしまったからこそ、離れるんだよ。俺は人間じゃないんだから」

 ヴォルフが戻ってくると、花は笑顔を見せながら迎える。ヴォルフの耳が少し赤く見えた。ヘクセは、ヴォルフの様子を見てボンっと顔を赤くさせた。ヌスクはヘクセが急に赤くなったのに驚き、「大丈夫?」と声をかけていた。



 買い物をし終わって、花たちは館に帰ってきた。予定では今からワクワクするはずなのに、花の顔は真っ青に染まってしまっていた。


「ど、どうしましょう! 皆さん、大事件です!」


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