心は叫ぶ 二
辛くないわけが無かった。
その日の放課後も、彼は自宅に着くなり自室に引き籠もっては部屋の隅っこでうずくまって震えていた。
辛い、苦しい、悲しい。
様々な負の感情が、彼の心を体中を駆け巡り、精神的な苦痛として彼に反映される。
「母さんっ……詩織っ」
泣きそうに震えた声で、今は亡き家族を思い出す。そして、思い出す度に、本当に頭が割れるんじゃないかと錯覚するほどの激痛が彼を襲う。
泣きたい、叫びたい、辛いことから逃げ出したい。
心は、本音は彼にそう叫び訴えかける。
しかし、彼の理性が「父さんとの約束を破る気か?」と抑えにかかる。
彼の心と理性は、もはやどうしようも無いくらいの乖離をしていたのだった。
彼はただ、部屋の隅でうずくまる。
うずくまり、やり場も逃げ場も無い苦痛に苛まれる。
彼女は、普段は女性としては比較的よく食べる方だった。
過去形にするだけあって、事実ここ数週間は親どころか彼女の友人でさえ驚くほどに食べなくなっていた。
原因は分かりきっている。伊織の件だ。
本当の別人に変わり果てているのに、自分は何も助けてあげることが出来ない。彼が壊れかけているのに、何も出来ない。
その無力感。
何が幼なじみだ。伊織との付き合いも、誰よりも長いくせに何も出来ないじゃ無いか。
そこに自惚れが無いとは言わない。それでも、彼女は嫌だった。
箸がなかなか進まない。
「ちょ、まこと。私たちのよりも小さなお弁当で大丈夫なの? 午後一の授業体育だよ!?」
彼女の友人の一人が、半ば血相を変えた様子でそう問い詰める。
それだけ、本当に少ないのだ。
「ん、大丈夫だよ。ちゃんと身体は動くし、何たってそもそも午前動いてないもん。むしろ持て余し気味だったし、これくらいで良いの」
どこか乾いた雰囲気を漂わせながら、元気そうにそう返すまこと。
しかし、それは空元気であり、それは彼女自身も自覚している。
そして、何よりも彼女を悲しませているのは、自分と家族以外に唯一自分の空元気を見破ってくれるはずの人間が、一番気付いていないことであった。
ご飯の味は感じない。
それでも、自分だけは元気に見せないと。
彼女はそう言い聞かせて、空元気を回す。