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楕円形のラビリンス  作者: 優雅みっくす(yugamix)
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第二章

【ナレーション】

招かれた二階の部屋の本棚には、

様々な推理小説とともに『歯ぎしり刑事』シリーズも並んでいた。


【鹿島】

ところで、この二階の窓からは、

お店の前の道路を見渡すことができますが、

昨晩は不審な物音などはなかったのですか。


【菜々】

ええ、昨晩は9時前に、

牛乳瓶を玄関に出したあと、

この部屋で、母と二人でテレビドラマを観て、

0時には寝ました。

ドラマが終わったのが23時で、

そのあと30分ほどお風呂に入りましたが、

それまでは、ずっと母と一緒に、

この部屋のテレビでサスペンスドラマを観ていましたから、

もし物音がしても気づくと思います。

この商店街は夜になると、車もほとんど通りませんし、

人の歩く足音でさえ響くほど、

ひっそりとしていますから。


【松井】

だとすると、犯行時刻は0時以降になりますね。

あとは血の痕が乾くまでの時間と、

お店の開店時間から推測すると、

犯行時刻がかなり絞れてきますね。


【鹿島】

たしかに、そうとも考えられるが…


【菜々】

刑事さん、もしかすると犯行現場は、

うちのお店の前ではなくて、

他の場所で亡くなった方を、

ここまで犯人が運んで来たとは考えられませんか?


【松井】

たしかにその線も考えましたが、

その場合、お店の前に遺体が引きずられた痕が

一切なかったのが腑に落ちません。


【鹿島】

たしかに、そうだが…


【菜々】

刑事さん、

私は、あの楕円の形にヒントがあると思うんです。

あの楕円は犯人が、被害者を移動する際に

使用した何らかの道具の痕だとしたら…


【松井】

たしかにそうですね!

鹿島さん、その線も洗い直してみましょうよ。


【鹿島】

たしかにそうとも考えられるが…


【ナレーション】

その後も菜々は、次々と鹿島と松井に、

今回の事件について自分なりの数々の推論を話しだした。

それにつられ、松井は、

菜々に『歯ぎしり刑事』シリーズの

全作品のトリックについての感想も話しはじめた


【鹿島】

ところで静子さん、

この部屋に飾ってある魚拓の数々は、

どなたの釣果なのですか?


【静子】

ええ、あれは夫の…

夫は3年前の大型台風のとき、

私が止めるのも訊かず、

釣り船を出して難破し、

夫の遺体は、結局見つからなかったのですが、

今ではこれらの魚拓だけが、

あの人の元気な頃の思い出になってしまいましたの。


【鹿島】

そうでしたか、

これは余計なことを聞き、大変失礼しました。


【松井】

3年前というと、

ちょうど『歯ぎしり刑事』シリーズが

終わってしまった頃でしょうか。

あのときは私も鹿島さんも、

毎月ペースで刊行される新作が途絶え、

意気消沈していましたから


【菜々】

たしかにあの頃は、

私も父が亡くなり家業を手伝うので手一杯になり、

小説を書くのを辞めた頃でした。

毎月楽しみにされてた読者の方々には、

今も申し訳ない気持ちで…。


【鹿島】

そうでしたか、残念です。

ところで、魚拓がご主人の思い出とおっしゃいましたが、

釣竿などの道具はいかがでしたか。


【静子】

それは、あの人が遭難したときに、

ほとんどの道具も船とともに沈み、

家に残されていた道具も、

釣り仲間の方々に使っていただいたほうが、

あの人も喜ぶと思い、菜々と相談し、

お世話になった釣り仲間の方々に形見分けいたしました。


【鹿島】

静子さんと菜々さんは、

ご主人とは一緒に釣りをされなかったのですか?


【松井】

そういえば『歯ぎしり刑事』シリーズの7巻では、

釣りが題材でしたが、

てっきり、菜々さんも釣りの名人だと思いました。

あのカジキマグロと格闘する歯ぎしり刑事の姿は、

文字からも、まるで映画のワンシーンのような

臨場感に溢れていましたから。


【菜々】

いえ、あれは普段の父の姿を想像して

書いただけのもので、お恥ずかしいかぎりです


【静子】

私もあの人とは釣りのことでは

全然、会話自体もありませんでしたし、

私は、お魚は料理するのといただくのが専門で。


【松井】

そうですねぇ、

釣りは男連中の楽しみという方も多いみたいですし。


【鹿島】

たしかに、そうとも考えられるが…


【松井】

鹿島さん、

さっきから同じことばかり言ってますが、

何かおかしいですか?


【鹿島】

すみません、静子さん、

ちょっとトイレをお借りしてもよろしいでしょうか。


【静子】

ええ、どうぞ、階段を降りて左側がトイレです。


【鹿島】

ありがとうございます、

申し訳ないです、

この歳になると何かと近くなりまして、

お恥ずかしい限りです


【ナレーション】

松井は、鹿島の普段ならありえない言動に疑問を感じ、

頭で考えた。


(第三章へ続く)

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