紹介
目の前には自分より僅かに背の低い妖精が並んでいた。
「……おはようございます」
寝て起きたら夢になってないかななんてちょっとした希望はあっさりと崩れ去って。最初ほど絶望感を抱いているわけでもないけれど、現実が重すぎることに変わりはなかった。
「おはようございます、加宮様」
最初に説明を受けたときと同じような表情でメロディーがぺこりと頭を下げた。彼女は並んでいる妖精の中でも確かに背が低かったが、ファーンほど高い人も多くはなかった。
「こちらが我が派閥の主要メンバーでございます」
「カスカード、水属性防御型。こちらのグループの隊長です」
「ジェイク、光属性遠距離攻撃型。副隊長をやっています」
「エティカ、火属性攻撃型。参謀」
三人が順番に名乗ると、メロディーがぺこりと頭を下げる。
「繰り返しにはなりますが、メロディー、水属性遠距離攻撃型です。参謀を務めております。これからよろしくお願いします」
あれ、ファーンさんは。
首を傾げると、メロディーはあぁ、と頷く。
「ファーンは特に派閥の主要メンバーなわけではありません」
「あんなに詳しそうな雰囲気だったのに、ですか?」
「はい」
カスカードを先頭に、全員が頭を下げたために芽依は以降の質問をやめて頭を同じように下げた。
メロディーと同じ、青髪青目のカスカード。茶髪金目のジェイク。黒髪赤目のエティカ。
確かに属性と目の色は一致しているらしかった。
「それで私は、何をすれば良いのでしょうか」
「特になんも」
言い捨てたエティカを呆れた目で一瞥するメロディーの姿に、芽依は戸惑うように首を傾げた。
特になんも。
それならば人間界に返してくれてもいいと思うのに。
「加宮様、戦術や戦争に対する知識に興味はお有りでしょうか」
「……ないですけど」
でも、覚えなきゃいけないんでしょう。続けようとした芽依にメロディーは首を横に振る。
「でしたら、こちらで戦術は話し合って決めます。加宮様にはそれに従って直接私達に命令を下していただきたいのです」
命令の仕方は単純です。淡々とメロディーは続ける。
「『エティカ!!』のように、ただ名前を呼び捨てにしてくださればいい。それだけです」
名前を呼ばれて不機嫌そうに眉を寄せるエティカからメロディーは顔を背ける。そのまま芽依の方に向き直ると返事を待つように黙った。
(なんだか……)
単純だ。あれほど覚悟を決めようとしていたのに。芽依は拍子抜けしたようにメロディーを見る。
「わかりました」
こくりと頷くと、ありがとうございますとメロディーは頭を下げた。
「何か質問等はございますか?」
「いえ、特には……」
「わかりました。何かありましたらいつでもお尋ねください、加宮様」
揃って部屋を出て行く四人を見送りながら、芽依は一人、運ばれてきた朝食に手をつけた。
◆ ◆ ◆
「それはなんか酷い話ですねー」
隣に座ったファーンがそう頷くのを見ながら、芽依はふて腐れるように頬を膨らませた。
「別に酷いってほどじゃないですけど、拍子抜けすると思いません?」
「思いますね」
「ですよねー!?」
ファーンは笑うように頷く、なんだかメロディーが彼には心を許しているのがわかる気がすると芽依は内心呟いた。彼は人の話を聞くのがすごくうまいのだ。
「それによくよく考えたら日頃何してていいのかわからなくて……名前を呼ぶだけでしょう?」
「確かにそうですね」
「全員の名前を把握することは必要なのかもしれないですけど……」
ふむ、とファーンは顎に手を当てて考え始める。ちらりとこっちに視線をやるとあ、とファーンは声をあげた。
「芽依様、魔法がどんな感じで使われるか見たことないですよね?」
「ないですけど、」
「見せましょうか?」
いい思いつきでしょ。そう言わんばかりの目に思わず頷くと、ファーンはメロディーの手を引く。
「練習室と呼ばれるものがあるのです。ここの建物の一階にあるのですが、案内してもよろしいですか?」
(ちょっと、楽しみかもしれない)
「はい……!」
メロディーが立ち上がると、ファーンは先導するように歩き出した。
更新に何気に時間がかかりました(。-_-。)
まだまだ導入部です!