究極の選択
チョコレートが手造りが欲しいと要望したのは確かに私だった。
「ふむ」
爆発し外れたレンジオーブンのドアがぎっこぎっこ揺れている。
流れる匂いは微妙な甘ったるさ。工場系のアレだ。有毒そうな甘ったるい匂いだ。
止める間もなく、作業手袋で彼女はカオスに手を突っ込んだ。
「チョコレートケーキだ。食うか?」
差し出される黒い物体。
今日はバレンタインディ。
普段の感謝を伝える日。
ハンカチを。花を。そしてプロポーズにも向いている日。
無論、彼女と私はそこまでの仲ではない。
起き抜けにホットチョコを差し入れて「はっぴーばれんたいん」と挨拶し、「お返しは君の手造りチョコレート」とせがんでみた。
そして、目の前にいたる。
食品、テーブルにあるのは市販のキット。
黒煙を吐く設備。
じっと見てくる彼女。
「い、いただこう」
フォークを手に取り、物体に突き立てる。
がちっとなってはいけない音が聞こえた気がする。
「おねーちゃん! 着ぐるみヤローはどこ! 勝負よ! どっちが着ぐるみ一番か決めて、て、いたー!」
黒猫着ぐるみが指さしてきて、ついでにチョコケーキをかっぱらって口に放り込んだ。
「あっちゅい」
「感想はそれだけか!? こんのドロボーねこがぁ!」
「勝負にゃ!」
キャラを作ったかと思うとくるりと黒猫は彼女を振り返る。
「おねーちゃん、べろ火傷したぁあ」
「とりあえず、冷やせ」
妹にミルクを与えながら、彼女はいつもどおり冷静だ。
「さぁ、勝負に行くか、それとも?」
オーブンの中から取り出されるもうひとつのチョコケーキ。
選ぶべき、道は……。
着ぐるみ男女と探偵さん。