街の外には―――――?
ルッピと他愛無い会話をしている内に、リンダさんに夕食に呼ばれた。
俺が部屋から出て行こうとすると、ルッピは俺の方に飛んできて頭にちょこんとすわってきた。元が妖精のせいか、飛べるらしい。
俺も風魔法極めれば、いつか飛べるかもしれない。
1階に降りて食堂に入り、席についた。
今日のメニューは、どうやらパスタとミネストローネ?のようだ。ナイフとフォークもある。
異世界にミネストローネがあるかは知らん。なんとなくそれっぽい。
パスタはなぜか黒かった。一瞬きょとん、としてしまったが、イカ墨のようなものだろう。きっとそうだ。きっと異世界にもイカいるんだ。
…女神の仕業な気がしてならない。絶対狙ってる。
パスタを一口食べてみる。……予想通りイカ墨の味だ。
俺はイカ墨スパゲッティは好きなので、そのまま完食しようとしたら、ルッピが涎をたらしそうなほどパスタを見ていたので小さく切って一口あげてみた。
「いいのですか?ありがとうございますー(もぐもぐごくん)」
「いや、ちゃんと噛んで食べろよ」
「これすごく美味しいですね!もうすこしだけ食べてもいいですか?」
「ああ、むしろ全部食べてもいいよ。俺はあんまりお腹がすいてないからさ。あ、その体じゃ…無理か」
またルッピに小さく切って食べさせる。5口目くらいで満足したようなので残りは俺が食べた。
ミネストローネもどきも普通に地球のものと同じような味だった。
文化は違うくせして食べ物の味は同じ。異世界ほんと不思議。
気がつくとルッピは何故か俺の頭の上で寝ていた。落とさないように慎重に部屋まで戻り、ルッピをベッドに下ろす。
そういえばルッピを鑑定してないな。やってみよう。
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鑑定をブロックされました。
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………明日はクエスト受けるのやめて城塞都市の外に行ってレべ上げしよう。これじゃ主人としての誇りもあったもんじゃない。高速成長のスキルもあることだし、案外早くレベルが上がるんじゃないだろうか。
ルッピの寝顔を見ていると俺も眠くなってきた。
ベッドにはルッピがいるけど…どうせ15cmの妖精ちゃんだしいいだろう。
俺はそのままルッピの横に寝た。
…ん?なぜか髪の毛を引っ張られる感じがするな…。頭の辺りをごそごそすると、なにかが手に当たった。軽く掴んで顔の前まで持ってくる。
「ルッピ、何してんの…」
「いえ、あの、マスターの髪の毛の色が珍しくて、その、つい」
…?黒が珍しい?そういえば街中で黒髪の人はまだ見たことがないな。
黒髪ばっかりだった日本から来たからか、ゲームとかにしかなかった赤髪や青髪に目をひかれて全然気がつかなかった…。
「黒髪だとなにか都合が良くないこととかあるのか?」
「いえ、そういうことはありません。強いて言うと、街中で目を向けられることが多くなるかも知れませんね」
それだけならいいか。目立つのは嫌だが、これくらいはしょうがない。
あまりお腹もすいてないし、早速外にいって魔物を倒してくるか。素材を売ってお金にできるかもしれない。いつまでも無一文だというわけにもいかない。
一階に降りて、カウンターのリンダさんに話しかける。
「おはよう、リンダさん。街の外にいってみたいんだけど、ここら辺で一番安全に狩りができるところってどこか分かる?」
「それなら、住宅街を通った先が一番安全だよ。すこし遠いけど、初心者ならみんなそこで戦ってるよ」
「ありがとう、早速いってみるよ」
住宅街ってことは40分ほど歩かないといけないのか…
めんどくさいが、そこが一番安全なら仕方ない。ゆっくり歩こう。
確かに意識していると、周りから目線を向けられることが多いことに気づく。注意していないと分からないくらいだ。この世界の人はこういうことが得意なんだろう。一見平和そうだが魔物とかいるんだもんな。きっと足音とか消すのが得意な人とかいっぱいいると思う。
45分ほど歩いただろうか。やっと門についた。門番さんがいたが、出ようとしても何も言われなかった。街から出る人はみんな安全な人なんだろう。
城塞都市をはなれ、草原に出た。
あたりを見回すと、なんか風船みたいのがある。なんだあれ?
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バルーン
レベル.1 魔力なし
スキル なし
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…いやバルーンって。そのままじゃん。魔力なしってことは魔法が使えないんだな。俺もまだ魔法の使い方は分からないから、ラグナロクで切りつけてみるか。
パァン!!
……………割れた。まさに風船。八方に散らばった残骸が残っているが、ぶっちゃけ風船なので罪悪感はまったくない。
…ん?なんか残骸が黒くなって、粒子となって消えてしまった。この世界の魔物はそうやって消えてしまうのだろうか?まるでゲームだ。
パラララッパッパッパ―♪
『レベルが2にあがった!各パラメータが成長した!剣術スキルがレベル2に上がった!』
レベル上がるのはやっ!!
まさか風船割っただけでレベルが上がるとは思わなかった。
しかも剣術スキル安っ!一回切っただけだぞ。恐るべき高速成長。
スキル熟練度まで適用されてるとは。
レベルが上がったときの音も絶対ふざけているが、パラメータの説明略すな。ルッピちゃんと仕事しろよ。
「えー、だってこれすごくめんどくさいんですよ?」
頭の上から抗議の声が聞こえた。いやいや、しっかりやれよ。まあ自分を鑑定してみればいいだけのことなんだからいいけどさ。
…ん?あれは…。
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グミスライム
レベル.2 魔力なし
スキル:物理半減
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30cmくらいの青いスライムだ。物理半減のスキルを持っているが、魔法の使い方を知らないから普通に切りつける。
切りつけるとぐにゃり、と効果音が聞こえそうなほど変形した。
さすがに一回では倒せなかったようだ。
攻撃をしてくるかも、と少しばかり身構える。
……?切ったところが黒く変色している…?
2秒ほどたっただろうか。全身が黒くなって、粒子となり消えてしまった。
今回はレベルは上がらなかった。
粒子になって消えるなんて絶対におかしい。ラグナロクのせいか?
鑑定してみる。
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ラグナロク
攻撃力 3
装備に必要なパラメータ なし
〔神界で一番の鍛冶師が、神々の戦いの際に自分の家族が皆殺しにされた恨みを全身全霊を込めて、3日3晩かけて作られたと云われる終焉の魔剣。
使用者に敵意を持つ相手は、剣によるダメージを受けた瞬間、世界から完全に消滅する。神々の戦いはこの一振りによって終わりを迎えた。〕
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ちょ、えええええ!!?
説明文が増えてると思ったらこれそんな物騒なものだったの!?
女神なんてもんを送ってきてんだよ!!
幸い、味方には効かないようだが……。
あ、いや俺に敵意を向けてたら終わりか。
喧嘩とかしないようにしよう。
これがばれたら国どころか世界レベルの戦争になるんじゃないか?
他の武器が手に入ったらすぐアイテムボックスに入れておこう…。
ひとまず街まで戻るか。替えの武器を見つけられるかもしれない。
俺が街へ戻ろうとすると、それは唐突に木霊した。
「グオオオオオォォォオオ!!」
これは…。
頭の片隅に追い込まれていた記憶が蘇った。
あの黒い竜の咆哮だ!
危険極まりない相手だと、本能的に理解した。
まずい、どこにいる?
ラグナロクの正面に構え、四方を見渡す。見つけた、左だ。まだ300メートルほど離れている。
ラグナロクの切っ先を前にして構え、なるべく見つからないように俺は街へ行こうとした。
だが奴はすぐに俺を発見し、こちらに超スピードで突進をしてきた。
「マスター!避けてください!」
ルッピが声を張り上げて俺を呼ぶ。回避しようにも、あまりの恐さに俺は動けなかった。
まずい、殺られる―――――そう思って目をつぶった。
―――?
しかし衝撃はいつまでたってもこない。
目を開けると、頑強そうな、漆黒の鱗に包まれた頭部が、視界に入った。
剣に目を落とすと、ラグナロクが奴の頭にささっている。
え?これってまさか………。
奴は粒子となって、空に消えた。
「えええええ!? あっけなすぎるだろ!」
「嘘………」
顔は見えないがルッピも俺と同じような驚愕した表情になっているに違いない。
パラララッパッパッパ―♪
『レベルが283に上がった!各パラメータが上がった!
剣術スキルが13に上がった!スキルをたくさん習得した!』
俺の頭の中にルッピのアナウンスが聞こえてくる。
っていうか……マジであっけなすぎないか?あまりにも早く死んだぞ…。
意味ありげな登場の仕方しておいてあっさり終わってしまった。
俺は早々に狩りを切り上げることにして、微妙な気持ちで一人、街へ戻った。
はい、ここで伏線を回収。
みなさん気付きましたか?(笑)
楽しんでくれたら幸いです。(ラノベ作者風に)
次話は…明日か明後日に出そうと思います。では。