銀鳥の止まり木
なんだ今の咆哮は!?かなりやばいぞ!なんで異世界来たばっかでやばいやつと会いそうになるんだよ!こういうの普通安全なところにトリップするだろうが!
「グオオオオォォ!!」
こっちに走ってきやがった!とりあえず隠れよう!
おっ!木がある。そこに隠れるか。
「ガアアアアァァ!!」
ヤツは、俺のことに気づくそぶりもせずに、俺の隠れた木の横をまるで銃弾のようなスピードで走っていった。
ほんの一瞬しか見えなかったが、やつは黒い竜のような形をしていたのを俺は見た。
「まったくっ…なんでいきなりあんなのと会うんだよ…。
そういえば、女神がプレゼントくれたっていってたな。これからあんなのとまたあったりしたらたまったもんじゃない。ひとまず開けてみるか」
………。
……………どうやってアイテムボックス開くんだ?
『アイテムボックスと唱えれば開きますよ、マスター』
うおっ!誰!?
『それは酷いです、マスター。アルシア様から聞いたはずです。マスターのヘルプとアナウンスをするルッピですよ』
……そういえば女神がヘルプとしてつけてくれたんだっけ。
ていうか女神ってアルシアっていうんだ。初耳だ。
『アルシア様………。
それよりマスター。はやく唱えてみてください』
おお、分かった。
<アイテムボックス>
すると、俺の前にアイテムパレットが表示された。
なんかゲームっぽいな…と思ったのは秘密である。
・ラグナロク
・皮の盾
・皮の服
・皮の帽子
・皮の靴
・皮の篭手
・皮のズボン
・皮の腰当て
………明らかに格が違う装備入ってるんだけど一個。
とりあえず鑑定してみるか。できないと思うけど。
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ラグナロク
攻撃力 3
装備に必要なパラメータ なし
〔戦いを終焉へと導くと云われている剣〕
――――――――――――――――――――
………できた。しかも普通だった。すごいのは名前と説明だけだった。
きっと終焉へ導かれるのは自分だよ。だって弱いもん。でも見た目はかっこいい。剣だけ強そうとか、変な目で見られそうだ。
…ま、とりあえず全部装備してみるか。
……これってパレットをタッチしたらアイテムがでてくるのはいいんだけど、装備するのは普通なんだな。着るのめんどくせえ。……だけどこれで多分ゴブリンぐらいは相手にできるだろう。うん。
この世界にゴブリンがいるかは知らんけど。
そうだルッピ、街か村はこの近くにあるのか?
『ありますよ、マスター。このまま右にまっすぐいけば10分ほどでつきますよ』
じゃあまずはそこにいってみるか。
『はい、マスター』
そういえば、ここはなんていう世界なんだ?
あと、職業とかないの?戦士とか魔法使いとかさ。
『この世界はクリッドサイスという世界です、マスター。
職業については、はい。存在します。たとえば、戦士でレベルをあげるとそこからシーフと闘士、の二つに派生したりします。なお、二つの職業がどっちも育っていないとなれない職業もあります。職業、この世界ではジョブといいますが、ジョブの数は千とも万とも言われています。まさに無限大ですよ、マスター。っていうか、アルシア様から聞いてないんですか?』
聞いてないからルッピにきいたんだよ。あの女神どこか抜けてるしな。
じゃあ俺はなんのジョブなんだ?
『マスターは今、冒険者のジョブです。冒険者はかなりの数のジョブに派生しますので、ラッキーっていうことですね、マスター。また、各ジョブで覚えたスキルはジョブチェンジしてもそのままです。でも、レベルは1からですけどね。パラメータは、もとのジョブの10%になってしまいますが、ジョブチェンジを続けていけば、かなり強くなります』
へー。っと、話している間に着いたな。
これはまた…すごいな。
そこはまるで、城砦のような街だった。いや、都市というべきか?
「おい、そこの君。この都市に入りたいのか?ここは手続きをしないと入れないからこっちにきなさい」
おっと、門番さんに止められた。さて、じゃあその手続きをさっさと済ませて、都市に入るか。
「門番さん、手続きってなにをすればいいんですか?」
こういうのはへりくだっていくに限る。無駄に争いたくないからな。…なお、学生のときの経験が為せるわざである。
「なに、簡単だ。ジョブが盗賊じゃないことを確認するだけだ。盗賊を都市に入れるわけにはいかないからな」
「盗賊じゃなきゃいいんですか?あと盗賊ってシーフじゃないんですか?」
「おい君、そんなことも知らないのか?
シーフは魔物から素材を盗めるジョブだが、盗賊は人から盗むんだ。あと、盗賊の上位ジョブである蛮賊と凶賊も入れないな。あとは海賊や山賊、暗殺者なんかも無理だな」
「へー、まあ僕は違いますけどね」
「鑑定すればわかることだ。俺のジョブは鑑定士だから、それが分かるんだ。もちろん戦闘訓練も受けているよ」
鑑定士…だと…。やっぱり存在したか…。鑑定スキルいらなくね?いやでもただでもらったやつだし文句は言えないな…。むしろ鑑定士になる手間が省けたと考えるべきか。
「はい、どうぞ」
「おう。<ジョブ鑑定>……うん、大丈夫だな。入っていいよ。この都市は王政だ。無駄に騒ぎなんかは起こすなよ。牢屋にぶちこまれるぜ。」
「ご忠告ありがとうございます。では」
あの人わざわざ<ジョブ鑑定>っていってたな。俺は鑑定って念じるだけなのに。やっぱボーナスなんだな。もらっといてよかったよ。
都市へ入っていくか。
道は広く、石畳が敷いてある。左右は石作りの三階建てくらいのいかにも中世ヨーロッパって感じだった。人もそこそこいる。都会育ちの俺は、タイムトリップしたようで少し楽しかった。…まあ、実際そうだが。
歩いているのは、鑑定できる中では村人、農夫、武器商人なんかだった。ちなみに、自分のレベルが低くてほとんど鑑定できなかったのはお察しの通りである。
さて、まずは住むところを探そう。宿屋だ。こういう異世界トリップは宿屋がもっとも重要といっても過言ではない。
金額、ご飯、風呂。あとは防音なんかもあったら助かるかもしれない。なんかいい宿はないかな。
よく見ると、どれも家だった。ここは住宅街なのかもしれない。そこらの人に聞くか。いい宿を教えてくれるかもしれんし。あのやさしそうなおじいさんがいいかな。
「すみません。」
「なんじゃ!」
うおっ!やさしそうな顔の割に大きな声。しかも気合入ってる。 殺気があるのは気のせいだろうか。
「ここらでいい宿知りませんか?この都市に来たのははじめてで」
「おおそうか!じゃあいいとこを教えてやろう!この道をまっすぐ10分ほど歩けば[銀鳥の止まり木]っていう宿がある!そこがお勧めじゃぞ!」
「はい。ありがとうございます」
なんかやけに元気なじいさんだったな。なんかまた会いそうな気がする。存在感パネェし。
とりあえず10分あるくか。あのじいさんを信用しよう。悪い人じゃなさそうだしな。
10分歩いた。まわりはやっぱり住宅街だ。
20分歩いた。やっとお店がぽつりぽつりでてきた。宿はほんとにあるのか?
30分歩いた。なんか人の往来が増えた。剣士とかもいる。鑑定はできないから装備で判断したのは言うまでもない。ギルドっぽいところもあった。レストランなんかもある。いいにおいが漂ってくる。
…そろそろじいさんを本気で疑ったほうがいいかと真剣に思った。
40分歩いた。見つかった![銀鳥の止まり木]だ!
あのじいさん10分って真っ赤な嘘じゃん!30分も違ったよ!
とりあえず入って休もう。もう喉がカラカラだ。
「いらっしゃい」
カウンターに向かうと、受付と思われる女性から声がかかった。
「すいません。部屋は空いてますか?」
「ああ、空いてるよ。長期滞在かい?」
「それでお願いします」
「長期滞在ね。分かったよ。部屋は一人部屋でいいね?」
「はい」
「長期滞在なら金額はいつまでいても一緒だよ。銀貨一枚だだ。ここはご飯も風呂もついているから安心しなよ。
あ、その分も入っているから心配しなくてもいい」
「ありがとうございます。水はどこでいただけますか?」
「水ならこれをあげるよ。うちの宿に泊まってくれるからね。サービスだよ。ところでその肩が凝るような言葉使いはやめてくれないかい?
私はただの平民だよ」
「いいのか?じゃあそうさせてもらうよ。
ところで部屋のカギくれよおば…おねえさん。はやく休みたい。」
「あいよ。これだ。あんたの部屋は3-2だ。この部屋なら通りも見えていいだろうよ」
よかったー!気にしてないみたいだ。次からは気をつけよう。
偉い人だったら即刻牢屋にぶちこまれかねない。
「ありがとう。じゃあ俺は部屋で休んでるよ」
「夕食になったら呼びにいくから、それまでゆっくりしてってくれよ」
3-2の部屋は、ベッドとトイレがあるだけの簡易な部屋だ。でも、たまにはいいかな。さて、水を飲むか。もう死にそう。
…ぷはぁ!うめえ!なんだこの水!すげーよ。地球のペットボトルの水とは大違いだ。なんかこう…まろやかでなおかつ芳醇な香りもしてそれでいて喉越しもいいとか最高!
…ちなみにこの評価の仕方は親譲りだ。聞いてるうちに俺もこんな感じになった。人には聞かせられない。恥ずかしい。料理評論家じゃないんだし。
なんかこの水飲んだら疲れが一気に取れた。すごい。
治癒効果もあるとかなにこれ。もっと欲しい。
この分だと夕飯もおいしいんだろうな。あのじいさんいいとこ紹介してくれたよ。感謝感謝。
30分の違いがあったのはきっとあのじいさんが歩くのがものすごく早いんだよな。そうだな。うん。今更気にしても意味がない。
夕飯が楽しみだなー。