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過去

今回はミーシャ視点です。

わたしは、猫の獣人です。

わたしは、アルカイド王国と言う大きな街で生まれました。

アルカイド王国は、獣人を毛嫌いせず、きちんと対応してくれるので、母様がそこで生んでくれたらしいです。

わたしが楽しい生活を送っていけるように、と。


わたしの父様は、冒険者でした。

父様は、人間だけで構成されたパーティーに加わって戦っていました。

獣人は、一人の戦闘力が高いから戦いでは重宝される、と父様は言っていました。


3歳だったわたしは、冒険者というものに憧れました。

わたしも将来は冒険者になって、父様と一緒に冒険したいと思いました。

父様に話すと、とても嬉しそうに笑ってくれました。

母様は、横でわたしを心配そうな顔で見ていました。

女の子のわたしが、危険な冒険者になることはない、と思っていたのでしょうか。



わたしが5歳のときでした。

いきなり家に黒い服の人たちがぞろぞろ入ってきて、わたしと母様を馬車に引き込んで、どこかに連れていきました。

わたしはすごく不安でした。

とても怯えていて、震えが止まりませんでした。


そんなとき、母様が一生懸命わたしを慰めてくれました。

母様もすごく不安なはずなのに、わたしにずっと付き添ってくれました。

わたしは少しだけ、不安が消えました。


どんなことになっても、母様が一緒にいてくれる。

そう思えました。



1日経って、これからどこに連れて行かれるんだろう、と思っていると、父様が来てくれました。先頭切ってわたしと母様の名前を叫びながら、黒い人たちにつっこんでいきました。


仲間の人も一緒になって、わたしと母様をさらった人たちをどんどんなぎ倒していきました。

黒い人たちはあっという間に倒されてしまいました。


父様はわたしと母様の前にきて、だいじょうぶか、と言ってくれました。

わたしは泣きました。

泣いて、父様の胸に飛び込みました。

父様はわたしの頭を撫でながら、わたしをあやしてくれました。

母様も涙を浮かべて、隣で泣きながら笑っていました。


父様は、ヒーローなんだと思いました。




しばらくして、わたしは泣き止みました。

父様が、じゃあ帰るか、と言って立ち上がりました。

わたしと母様は父様についていこうと後ろを歩きました。


すると、父様の仲間の一人が父様に近づいて、こう言いました。


「お別れは済んだか?」


父様が反応できずにいると、その人は剣を抜いて、父様にいきなり切り付けました。


「え――――」



わたしは、頭が真っ白になりました。

何が起こったか、理解できませんでした。


父様が倒れていくのがゆっくりに見えました。

わたしはただ、赤い血を眺めていました。

母様は、涙を流していて、すごく悲しそうな、でも怒りのこもった顔をして、その人を睨み付けていました。




父様の仲間だった人は、本当は黒い人たちの仲間でした。

わたしと母様はまた捕縛され、さっきとは違う馬車に連れ込まれました。

そこには、わたしのように捕まった獣人がいました。

獣人だけじゃありません。

鳥人に半魚人(マーマン)、人間もいました。




わたしは一度、友達から聞いたことがありました。

人間に捕まったら、奴隷にされるぞ、と。

お前は顔がいいから狙われるぞ、と。


わたしは感覚的に、これから奴隷になっちゃうんだ、と思いました。

まわりにいる子たちは、みんな奴隷にされてしまうのでしょう。

奴隷になってしまったら、母様と一緒には居られなくなってしまうかもしれません。

わたしは、生まれて初めて、孤独を感じました。



アルカイド王国の人間たちはすごくいい人ばっかりだったのに、人間にも悪い人がいるんだと分かりました。


獣人にも悪い人はいます。

人間も同じなのだろう、と思いました。




数日経って、わたしと母様は大きな壁のある国へ連れ込まれました。

ウルス、という国らしいです。


黒い人たちは、わたし達を路地裏の小さなお店に連れていきました。

お店からは、面白い言葉遣いの人が出てきました。


黒い人とお店の人は30分ほど何かを話していました。


話が終わったら、お店の人は、お金を何枚か黒い人に渡しました。

黒い人は、お金を確認してお店から出て行きました。


わたしは、これから奴隷になっちゃうんだ、とまた思いました。

あまり実感は湧きませんでした。



お店の人は、わたしたちに近づいて来て、何かを唱え始めました。

30秒ほどでそれは終わり、わたしは手に違和感を覚えました。


手の甲に、何か模様がついていました。

これが、奴隷紋、というやつなのでしょう。

やっと、奴隷になってしまった、という恐怖が襲ってきました。


これがあると、わたし達は逃げられない、だからしっかり働け、といわれました。






奴隷になってから、3年が過ぎていきました。

この3年間で、色んなことを教わりました。


言葉遣い、奴隷のすべき事、奴隷の立場、それに人間達の文字の勉強。

買って貰えるように色んな事ができるようになっておけ、ということです。


この3年で、一緒に奴隷になった子達はどんどん買われていきました。

主がつくと、奴隷はなんでもかんでもさせられるらしいです。


洗濯、掃除、料理、雑用。

戦闘時の捨て駒にもなるそうです。

母様とは最初に奴隷になってからすぐに別れてしまいました。

母様はなんでもできる人なので、真っ先に買われた、と聞いています。


母様が酷い目に会っていないか、すごく心配でした。





奴隷になって、3年と半年が過ぎました。

わたしは、穀潰しだと言われて、働かせされました。

毎日毎日、一生懸命働きました。


するとある日、わたしに手紙だ、とお店の人に呼ばれました。


わたしに手紙を書いてくれる人なんて、母様しかいません。

わたしはわくわくしながら、封を開けました。



中には、二つ折りにされた白い紙が一枚だけ、入っていました。

それは、母様の死亡通知でした。

迷宮で魔物に殺された、と書いてありました。



わたしは、目の前が真っ暗になりました。


こんなのは嘘だ。母様はまだ生きている。

そう、何度も自分に言い聞かせました。


それでも、現実はわたしを覆いつくし、希望を抱くことすら許されませんでした。

わたしは、もうこれからどれだけ過酷な生活をして、どんな死に方をするのか、考えざるを得ませんでした。



『奴隷に、希望はない』

誰かが、そう言っていたのを思い出しました。





奴隷になって、4年が過ぎました。

お店の人はわたしをいい加減手放したいらしく、外に出てはお客さんを引っ張ってきました。

けど、やはり誰もわたしを買いませんでした。



そんな光景も見慣れたとき、また一人、お店の人が引っ張ってきました。


その人は、黒い髪の毛に黒い眼をしていました。

顔はそれなりに整っていて、やさしい雰囲気でした。

頭には妖精(フェアリー)がのっていました。

珍しい人だな、と思いました。


お店の人は、わたしと何人かを並ばせました。


黒髪の人は、わたし達を一人一人見ました。

その人はわたしを見た途端、何故かすごく驚いていました。



黒髪の人は、最後にわたしを指名しました。

お金もすぐに払っていました。


すごくびっくりしました。

まさかわたしを選んでくれる人がいるとは思いませんでした。

わたしは、いい人だったらいいな、と思いながら、挨拶をしました。


その人はわたしの手の引いて、外に出ました。

数年ぶりに、わたしは外の空気を吸いました。



どこへ行くのだろう? と思っていると、その人は高そうなレストランにわたしを連れて行きました。


音楽も流れていて、いい感じのお店でした。

わたし達は開いていた席に座りました。


黒髪の人はメニューを手に取って、少し見たあとに、叫んでいました。

「よーしょく」が何か分からなかったので、

どうしたんですか? と聞きました。

返事は曖昧だったけど、奴隷の身分ですし、深くは聞かないことにしました。



その後、名前を聞かれました。

ミーシャ、と答えると、

「可愛い名前だね」と言われました。


生まれて初めて名前を褒められました。

照れくさくて、むずがゆくて、どこか恥ずかしい気分でした。

自分でも顔が赤くなるのを感じながら、

「ご主人様って呼んでいいですか?」

と聞きました。



するとご主人様は、何かにやられたかのようにテーブルに倒れました。

びっくりしました。わたしのせいかと思いました。


慌てて、

「だ、大丈夫ですか?」

と聞きました。



するとご主人様は何事もなかったかのように普通にもとの体勢に戻って、メニューに視線を落としました。


よかった、何もなかった……。

この人となら、例え奴隷になった今でも、楽しく生きていけそうな気がしました。


そのあとは、ドリンクバーでジュースを入れて、お料理を頂きました。

他所で聞いていた話とは全然違いました。

ご主人様は優しい人でした。

わたしは本当に運がいいと思いました。




それからは、ご主人様の滞在している宿に行きました。

なにやら手紙が届いていたようで、ご主人様はそれを見たあと、慌ててギルドへ走っていきました。わたしたちもそれをおいかけました。


ギルドへつくと、怖い顔をしたおじいちゃんが立っていました。

その人はご主人様を赤い扉の中に連れて行きました。

わたしは外に立っていました。


赤色。奴隷館でもそれを見ると、吐き気がしました。

胸が張り裂けるような気持ちでした。


ふと、父様のことを思い出しました。

父様と母様は、天国でわたしを見てくれているのでしょうか。


父様、母様。わたしは元気です。

いいご主人様に会えました。

だから、心配しないで下さい。

奴隷になっちゃったけど、このご主人様となら楽しく生活できそうです。




しばらくして、ご主人様が出てきました。

そのままギルドを出て、宿に戻る道を歩きました。


ルッちゃん(わたしが勝手に決めました。許可は貰っていません)と、何か話しています。



「マスター、なんで断っちゃったんですか? ギルド専属ハンターといえば、冒険者の憧れですよ?」

「そりゃお前、面倒臭そうだったからだよ」



ギルド専属ハンター。

一度だけ聞いたことがあります。

すごい功績を出したハンターにしかなれないのだとか。


思わず、

「ご主人様ってすごい方だったんですね…」

と、口が勝手に言っていました。


「当たり前です! マスターですから!」

「いやお前意味わかんねーって」


2人がおかしくて、笑ってしまいました。



   ◇



朝起きると、そこはいつもの硬い床ではなく、やわらかいベッドでした。

寝るときは床で、と主張しましたが、やむなく却下されました。

奴隷としてはダメなんでしょうけど、すごく嬉しかったです。


ご主人様はいませんでした。

ルッちゃんも置いていかれたようで、横でぐっすりと気持ちよさそうに眠っています。


置いていかれたんだ、と思いました。

でも前から一緒のルッピちゃんも連れて行ってないので、何かあったのでしょうか。


10分くらいして、リンダさんが部屋に入ってきました。


「あんたたち、準備しなよ!」

「なんの準備でしょう?」

「避難する準備に決まっているじゃないか、今街に竜が襲ってきているんだよ!」


り、竜なんて大物がなんで……。

それより、ご主人様はどこに行ったのでしょうか。


「ご主人様はどこですか?」

「ああ、あいつなら竜倒しに行ったよ。あんたらは私に任せる、と言ってね」

「竜を倒しに、なんて無謀すぎます! なんで止めなかったんですか!」


わたしは、自分でも声が大きくなるのが分かりました。


「あいつはお前らの安全を第一に考えている。だから私に頼んだ。違うかい?」

「いくらなんでも会って1日の人に命を懸けるなんて、そんなはずは…」


リンダさんは「はあ」とため息をつきました。


「あんたがそう思うのは勝手だよ。でも、私にあいつにあんたらを託された。私にはあんたたちを守る義務がある」


わたしは観念して、ルッちゃんを起こしました。

奴隷のわたしには、所持品がありません。

フェアリーのルッちゃんも同じです。(ものが持てませんから)


ルッちゃんは、

「マスターのバカぁ!! 竜に一人で適うわけないじゃない!」

とか叫んでいました。


わたしも同じ気持ちです。

でも今は、無事だと祈るしかありません。



  ◇



宿を出て、街の中央広場に集まりました。

何故広場か? というのは、街中で一番堅い壁が、城壁なのだそうです。


つまり、城壁を突破されたらどこに行っても助かりません。

なら、移動しやすい広場がいい、ということらしいです。



ときどき聞こえる話によると、もう3体の内2体が倒されているそうです。

あと1体なら、城壁は突破されないでしょう。

助かりました……。



そう思っていると、突然警報が鳴りました。

次いで、魔法によるアナウンスがありました。


『みなさま、今すぐ避難をして下さい。繰り返します。今すぐ避難して下さい。繰り……』


避難? どういうことでしょうか。

広場にいる人達が、会話しているのが聞こえます。



「おい、城壁が突破されたらしいぞ!」

「はぁ!?」

「おいみんな、逃げろ! 竜に()られるぞ!」



城壁が突破された…?

ということは、ご主人様は負けたのでしょうか?

わたし達は、ここで死ぬんでしょうか……?


「嘘だ……っ! マスターが負けるはずない!」


ルッちゃんも慌てています。




「お、おい……。来た、来たぞ! 赤竜だ!」


彼が指差した方に視線を向けると、赤い大きな竜が、家やお店を破壊しながらこっちに近づいてきます。


わたし達が逃げるスピードなんて竜に比べたら、それこそうさぎと亀です。

わたし達にあっという間に追いついた赤い竜は、足を振り上げて、わたし達を踏み潰そうとしてきました。


その色を見て、また恐怖に支配されそうになりました。

わたしは動けなくなりました。


「父様、母様、ご主人様。ごめんなさい……。ここでお別れかもしれません」

赤い、大きな足が、どんどんわたしに近づいてきます。




体から何かがふわっと抜けていく感触と、だれかの叫び声が、消えていく意識の中で、かすかに感じ取れました。

敬語難しい。

でも奴隷だから敬語じゃないとおかしい。

というジレンマ。

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