~最後の約束~
「そんなこともありました~」
目の前の千里が元気な笑顔を向ける。
おどけて、まるで生きているように笑うのだ。
「久。今日は約束の日だよ。
時間はたくさんあるようでいて、短いんだ。
思いっきり楽しもうよ!」
死んだはずの千里が、しっかりと俺の腕を掴んだ。
これは夢だろうか。
夢なら覚めないでくれ。
約束のクリスマスを一緒に過ごすためだけに、千里が生き返ったのなら、もう二度と離したくない。
俺は、しっかりと千里の手を握った。
「冷たい……」
千里の手は、氷のように冷たく。
体温を感じることができなかった。
「ねぇ、久。周りを見て」
言われるままに周囲に目を向けると、今まで多くの人で賑わい、元気に走り回っていた子供の姿がなかった。
マーチングバンドは、ドラムやトランペットを鳴らし
風船をもつ着ぐるみは、確かにさっきと同じようにいるのに。
俺は、寒々とした園内に違和感を覚えた。
「これは……?」
「貸切りってわけじゃないよ。そう思ったでしょ?」
いや、遊園地を貸切りに出来るなんてことは、考えたこともないさ。
でも、あまりにもさっきと違いすぎるじゃないか。
「ほら、あっち」
千里が指差す方を見ると、幸せそうに肩を寄せ合う恋人同士の姿が目に入った。
「他にも、ほら、ほら」
あっちこっちと指を向ける。
確かに、あちこちに恋人同士ばかりか、親子連れの姿も見ることが出来る。しかし、それらは、さっきと違って圧倒的に少ないのだ。
「おかしいよ……」
「いいんだよ。みんな、最後の約束なんだから」
千里が哀しそうに俯いた。
「ね! だから、時間の限り楽しもうよ!」
千里が懇願するように、俺の顔を見た。俺は、力強くうなづいた。