~テーマパーク・ワールド~
ワールドパークに入ると、目の前に異世界が広がる。
あちこちに、着ぐるみが歩いている。
着ぐるみの周りには、子どもたちが集まり、親はケイタイを構えている。
あの時千里は、着ぐるみと握手したいと騒いでいた。
『久! 見てみて、トラだよ! ほら、あっちにはライオンさんがいる! キャー、クマのクルミンがいる!』
『握手してくれば?』
『えー してくれるかな。握手ー!』
そう言って走っていく姿は、どう見ても中学生だった。
「なんで千里はいないんだろう……」
『来年も一緒に来ようね』嬉しそうに、そう言ってはしゃいでいた。
同じ年齢なのに、千里のテンションにはついていけず、終始苦笑するしかなかった。
俺の手を引っ張って、あっちこっちと走り回る彼女は、まるで妖精のようだった。
俺は、ゆっくりと園内を歩き出した。
色とりどりに飾られた店が縦横に並ぶ。小さな町並みを通過すると、広場に出る。
誰もが、心躍らせながら、マーチングバンドの演奏に体を揺らす。
「ひとりがこんなに寂しいなんて……思わなかったな」
俺は、風の冷たさに身を縮めた。
「寒い寒いって! 若さがないな~ オジサンになったね~」
明るい千里の声が聞こえたような気がして、俺はあたりを見回した。
心の中では『まさか! まさか!』と繰り返していた。
「何をキョロキョロしてるの? 変な人に見えるよ」
視線を声のする方に移動させると、そこに千里がいた。
俺は目を疑った。
いるはずのない千里がここにいるのだ。
「なんで……」
「えへへ」
はにかむように笑って、千里が言った。
「また来ようねって約束したじゃない。
来年もクリスマスに来ようねって。
だから、久も約束守ってくれたんでしょ?」
確かに、去年千里と交わした約束を、守った形にはなったが、実際は一緒に行くはずの千里はいない……。
これは、俺の……。