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神体2

「それでさ、妖魔ってやつは分かったよ」

 先ほど、隆也は百合から、妖魔――人を喰らい、呪力を集める異形――の存在を知らされた。しかし、隆也の疑問の全てが解消されたわけではない。

「それで、君たちは何なんだ? 九家達くかたちさんと、そのよく分からん声は」

「よく分からんって……。ホント失礼だな、お前は」

 と、隆也に文句を言ったのは、この場に居る二人のどちらとも違う声。

「俺たちは、いわゆる神様だよ。……おい、なんだその目は!」

 とんでもないことをさらりと言った姿無き声に、隆也は胡散臭そうな瞳を向けていた。当然といえば当然の反応であるが、声からしてみると心外だったようである。

 そんな二人(?)の様子を見て、百合はため息をつく。

「本当よ。このミカヅチは、確かに神様なの。荒っぽい口調だから、そうは見えないでしょうけど」

「おい!」

 ミカヅチと紹介された声は、説明を付け加えた百合にも食ってかかる。

 その姿に

(こんな俗っぽい神様がいるのか)

 と思った隆也だが、

(まあ、漫画とかでも、結構こういう神様もいたか。そもそも神様って、神話でも割りと無茶苦茶やるし)

 と思い直す。ここらへんの思い込みの激しさと柔軟さのバランスは、厨二病のなせるわざか。

「確かにミカヅチに威厳はない」

「私たちまで信じてもらえなくなるから、ちょっと勘弁してほしいわね~」

 そう言ったのは、重々しい声の男と、楽しげな間延びした声の女。どちらも姿はなく、声だけがする。

「それじゃ、今の二人も……」

「ええ、アマドリよ~。神様をやってるわ」

「同じく、フツと言う。我々は妖魔を滅ぼすことを使命とし、この九家達百合に力を貸している」

 そう言われ、隆也は百合を見る。神様に力を貸してもらえるとは、流石は神社の娘である。そう考えると、彼女の美しさには、神がかったものすら感じる。

 見られた百合も、どこか誇らしげにその視線に答えた。

「そうよ。私はこの三柱に力を借りて、退魔師として妖魔と戦っているわ」

「駆け出しだけどね」

「弱っちいけどな」

 誇らしげな態度は、アマドリとミカヅチの茶々入れによって、あっという間に崩れ去った。

「じゃあ、あの不思議な弓は……」

「あれは、ミカヅチの神体だ。我らは自らの力を神体と呼ばれる物質に宿らせ、それを用いて退魔師に、妖魔と戦ってもらう」

 ミカヅチは雷の黒弓を。

 アマドリは防具となる巫女服を。(地竜鯨の攻撃を受けても平気だったのは、これのおかげらしい)

 フツは高速の打刀を。

 それぞれ与えてくれている、とは百合の弁。

 その説明を受けながら、隆也はふむふむと頷く。もっとも、

「つーか、理解出来てんのか?」

 というミカヅチの言葉には、

「退魔師って、髪が紅くなったりとかはしないのか?」

 と、いつもの調子で返している辺り、本当に理解しているのかは、分からないが。

 だが、そもそも百合からしてみると、隆也が理解していようがいまいが、関係はない。

「さて、これであなたの疑問にはだいたい答えられたかしら?」

「ああ、大丈夫だ! 如何にもそれっぽい設定で、満足してるぞ! いやあ、これからそんな非日常が」

「それじゃあ、帰って頂いて、結構よ」

「待っていると考え……、え?」

 思わぬ言葉を聞き、素っ頓狂な声を上げる隆也と対照的に、百合の声は落ち着いていた。

「だって、これで理解したでしょう? 私たちの戦いは、決して人前には出ない。そして、退魔師として戦うには、神様の協力が必要」

 そこで百合は言葉を区切ると、宣告した。

「あなたには何も出来ないわ。だから、日常に戻って、普通の人として暮らしなさい」

 しかし、そう言われて、そうですかと引き下がれるほど、隆也は常識人ではなかった。

「そんなの嫌に決まってるだろ! 折角こんな非日常がやってきたのに! 主役に、主人公になれるチャンスがやってきたのに!」

 思わず声が大きくなってしまう。

 そんな大声に、目の前の小さな肩がビクリと震える。しまったと思い、深呼吸。少しボリュームを落とした声で、なお食い下がる。

「頼む。俺に出来ることがあったら、手伝わせて欲しいんだ。ほら、例えばさっきみたいに、作戦を立てるとかさ」

「あんなもん、お前みてえな雑魚にやられたら、こっちが恐ろしいだけだ」

「あんな無茶をする度に、私たちに助けてもらう気なの?」

 そんな抵抗も、あっさりとアマドリたちに一蹴される。

「だいたい、あんなん作戦って呼べるか! 自爆だ、自爆!」

 ビクッ!

「でも、それで倒せたじゃないか!」

 ビクッ!

「たまたまだろうが! 調子乗んな、雑魚!」

 ビクッ!

「っていうか、さっきからちょっと震えすぎじゃないか!? 痙攣みたいになってるぞ!?」

 段々とミカヅチと言い争いのような形になってしまった隆也の前で、百合は先程からどちらかが声を発する度に、驚いている。

「あなたのせいでしょう!」

 そうやって睨む瞳は鋭いが、またも目に涙が浮かんでいるせいで、いまいち迫力にかける。

 隆也としても、声を荒らげたことは申し訳なく思うが、いちいち百合が驚くので、正直少し慣れてしまった。

 思い出されるのは初めて会った日のこと。妖魔と戦う前、彼女がやけに緊張していたことを思い出す。やけに大声を怖がり、挙句逃げ出したことを考えると。

「もしかして、すんごいビビリ?」

「ビビリじゃないわ。ただ、ほんの少し、大きな音が苦手なだけよ」

 取り繕う百合に対し、隆也の目は冷ややかである。大きく息を吸い込むと、

「嘘つけ!」

 と、わざと大声で言ってみる。またもビクリとする百合。最早言い逃れのしようがない。

「明らかにビビッてんじゃねえか! ってか、こんなにビビリが出来るんなら、俺にも出来る! 俺にも退魔師とやらをやらせろ!」

「ビ、ビビってないわ」

「ああん!? 百合がビビリだからって舐めてんじゃねえ! お前なんかに出来るわけねえだろ!」

「だから、ビビってないわ!」

(ああ、もう……)

 またも言い争いを始める隆也とミカヅチの傍ら、アマドリはため息をつくばかりであった。だいたい、百合が毅然とした態度を初めからしていれば、この男に何かを言われる必要も筋合いもなかったのだ。

(もうこの男の記憶を、今からでも奪ってしまおうかしら。適当な妖魔の前に連れて行けばいいし)

 いい加減言い争いに飽きた彼女が、物騒な提案を考え始めた時、それは来た。

「あん!?」

 声を上げたのはミカヅチだけ。しかし、隆也を除くその場の全員が気づいた。

「これは……」

「え、どうしたんだ?」

 突然雰囲気の変わった一人と三柱に、戸惑いを見せる隆也に対し、先程まで黙っていたフツが告げる。

「大神隆也と言ったな。よく見ていろ。――廃退世界に巻き込まれたようだ」

 戦いの到来を。

説明回って難しいんですね。

文章力を、物語の動きでごまかすことが出来ない……。

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