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大神隆也 2

「と、まあ。俺がここに居た理由は分かってくれたか?」

「ええ。あなたがとてもお馬鹿さんなのだということも分かったわ」

  ここは陽影学園ひかげがくえん第三実験棟屋上。

  大神隆也おおがみりゅうやが目の前の少女に土下座をしてから数分たった頃。

  未だ興奮も冷めやらぬままに、隆也は少女に自分の目的と夢、そしてこの場所にいた事情を説明し終えたのだが、少女の反応はとても冷たいものであった。

「いやいや、結構勉強は出来る方だぞ」

「あなたの成績なんてどうでもいいわ」

「まあ、馬鹿でもいいや。少しくらい馬鹿な方が主人公タイプっぽいし。とりあえず事情がわかったなら、俺を主役にしてくれ」

  この程度の罵倒で隆也はめげない。何しろ、子供の頃から憧れた夢が目の前にあるのだ。

「おい、こいつ話が通じねえぞ」

「もしや先ほどの戦いで頭を打ったのでは……?」

  そう、隆也を評するのは、この場の二人のどちらとも違う声。先程から少女との会話に入ってくる、この正体不明の声すらも隆也にとっては興奮材料にしかならない。

「おお! さっきから聞こえるこの姿のない声も俺は気になってるんだ!」

「こいつやばいんじゃねえか……?」

「どこから声がする? お前のポケットか? ちょっくら見せてみブッ!?」

  エスカレートする隆也に、とうとうこらえられなくなったらしい、少女がビンタを見舞った。

「なんなのあなた!? ちょっと普通じゃないわよ!?」

「普通じゃないだなんて。いや、それほどでも……」

「褒めてないわ! だいたい、言うことはそれでいいの!?」

「何が?」

「普通いきなりこういう事態に遭遇したら、他にするべき反応があるでしょう!?

『うわー! なにが起こってるんだー!』とか、

『いやだー!怖いー!』とか!」

「お前、めっちゃ演技上手いな」

「うるさい!」

  どうやら少女は相当に真面目な性格らしい。

  そもそも彼女の能力からすれば、このような会話を続けること自体が時間の無駄なのであるが、会話を放棄するという選択が出来ないようだ。

「とにかく、俺はお前に主役にしてもらうまでは帰らないぞ」

「しつこいわね……。具体的にはどうしてほしいのよ?」

  要領を得ない会話に焦れてきた少女に、隆也は自信を持って答えた。

「友達になってほしい!」

  一瞬の沈黙。少女は呆けてしまっていたことに気づき、しかし何も言えなかった。

「まず俺は、お前が今何をしたのかを知りたい! あと、謎めいたキャラと友だちになったほうが、主人公っぽい!」

  かなり無茶苦茶な論理展開である。

「友達……」

  一方で、少女はぽつりと呟いたきり、反応を見せなかった。それを不審に思った隆也が、再び口を開こうとした瞬間、

「バ……、バカじゃないの!? 意味がわからないわ! あなたと言う存在も! この会話も! その結論も! 全てが全て意味不明よ!」

  数瞬前の沈黙が嘘のように、少女は頬を赤く染めて声を荒げた。

  隆也は、ふむ、と考え込んだ。

  何しろ、ここまで拒絶されるとは(都合のいい事に)考えていなかった。そもそも、自分はどうして怒られているのだろう、と完全に自分本位の考えを展開する。

  そして、基本的に行き当たりばったりと(主に真司から)評される性格が、

「とにかく! 俺はお前と友達になる! 決めた! 文句言うな!」

  とりあえず自分も大声を出すという結論に導いた。しかし、確かにこのまま少女を叫ばせていても、何も事態は変わらないだろうが、少女が息を荒げるほど動揺した原因のセリフとしてはかなり理不尽である。

  焦れた隆也は少女の肩に手を伸ばした。

「ひっ!」

「いいから俺と友だちになってくれ!」

  本来、隆也はここで気づかなければならなかった。少女の態度が、明らかに先ほどの凛としたものとは異なることに。

「もう……」

「俺に色々教えてくれ!」

  だが、隆也は気づけなかった。少女の瞳にあるものが、明確な怯えであることに。

「や……」

「俺を主役に――」

「もういやぁぁぁぁ! もう帰るぅぅぅl!」

  隆也の責めに我慢できなくなった少女が、突如として後ろに駆け出した。

  まさか逃げられると思っていなかった隆也は、反応が追いつかない。

「ちょっ、お前どこ行くんだ!」

「百合! 止まりなさい!」

  姿のない女の声も少女を静止したが、止まる気配はない。

  そのまま屋上の端の柵まで到達すると、

「っ!」

  鋭い呼気とともに、どこからか一振りの日本刀を抜き出し――、

「……えぇ!? 消えた!?」

  跡形もなく消え去った。

 

  少女が謎の白鴉はくあとの戦闘を終えてわずか数分後、冷たい月明かりに照らされた屋上には、少女も白鴉も、不思議の残り香すらもなく。

  ただ、非日常に我を忘れた、空気の読めない男が居るだけであった。


短めですみません。

継続して読んでくださる方がいましたら、もうしばらくお付き合い願います。


追記:文頭の空白が反映されていないのはなぜなのでしょう……

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