冷たい手
白い息
冷えた指先
触れる
冷えたガラス
ガラスの瓶の中に
入っていた
最初に羊水が流れ込んで
私はその中で溺れるように
揺られて
安らいで
ずっと眠っていて
誰かの心拍に耳を傾け
誰かの言葉を聞いていた
言葉を理解すらしていなかった頃の話。
いつの日か
瓶のずっと上の方に空いている口から
羊水が流れ出して、私は生まれた。
いろんな言葉を聞いて
たくさんないた。
お乳をいっぱいに飲んで
眠って、手足を動かして
少しずつ少しずつ
私は人と関わってゆく
透明な壁越しに
私の体が大きくなるにつれて
瓶も比例して大きくなる。
そのはずなのに狭く感じたり
息苦しさを覚えたりする
人と関わるごとに
感情が瓶の口から侵入してきて
透明なガラスをいろいろな色に染める
楽しい黄色やオレンジ
嬉しいピンクやグリーン
憤りの赤
泣きたくなる青
絶望の黒
寂しさの灰色
空虚の白
いろんな感情を知って
幸せな気分になって
または
知らなきゃよかったって
後悔したりして
それを繰り返して
いつしか嫌だ知りたくないって
悲しみも絶望も後悔も怒りもいらないって
入ってこないでって泣いて瓶の隅っこで
冷えた両手で震える足を抱いて
神様お願いって
冷たい手で瓶を叩いて
壊して逃げ出してしまいたくて
冷えた手に瓶の向こう側の
温もりを感じていたくて
ここから出して!
もう感情を入れないでっ! て
寂しいのはもういらないって……
羊水の中では知らなかった言葉
意味を知ってしまって
悲しくなって
手がピリピリする
目の奥が痛くなって
枯れそうに涙が零れて
この冷えきった手を暖めてくれる
温もりをください