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伝説

人々が幸せに暮らしている世界に災いが降り立つ。


大きな翼に悪を忍ばせ、その地に降り立ち、そして、その翼を広げて世界を闇に包みこむ。


この世界を納める七精霊、その力を用いて四人の人間を選び、共に大きな翼を持った黒いそれを封印せん。


しかし、世界中に放たれた悪はそのまま残り、世界中に溶け込む。


世界中に溶け込んだ悪がまた人々を惑わさない様、四人はこの地でそれぞれの役割を担う。



ひとりはこの地の王となる。

封印の地を守るため。



ひとりはこの地を巡り行く。

悪が人々を惑わさんため。



ひとりは闇の底に沈み行く。

人々が幸せであらん事を祈るため。



ひとりは永劫の時を旅する。

世界の理をこの瞳に写すため。



「この歌を知っているかしら」

「聞いた事があります。でも、後半は聞いた事がありません 」

かなたがうなずくものの、その顔は、どこか納得のいかない、といった風な感じです。

「かなり有名な歌なんだけどね」

少女が微笑みます。

「でも、古い歌だから知らないのも無理ないかも」

「それはどう言う歌なのか」

「この世界が出来た事を歌ったわらべ歌」

はやとの問いに少女が答えます。

「こういった歌は時として真実を語るものよ」

「そうかもしれないな」

「話を戻すと」一息ついて少女が問いかけます。

「この国の初代国王について知っている事は?」

「確か……」

考えをまとめるために、かなたは辺りを見回します。

同じように考えているはやと。

退屈なのか、眠そうにしているこはく。

答えを待っている少女と、視線を漂わせてから、かなたは言いました。

「初代国王はこの地に現れた魔物を倒した勇者と聞いてます。そして、この国の基礎を作った人物とも言われています」

「他には」

「それ以上は。ただ……」

記憶をたどりながらかなたはゆっくりと話します。

「王家の資料ではないのですが、初代国王には三人の仲間がいて、その者と共に国を築いたと書いてありました」

「それこそ、大切なところなんだけどね」

少女がため息をつきます。

「全く、王家の者達は何を教えているのやら」

すみません、とかなたが謝ります。

「何も教えてもらってないのなら気にする事はない。さて、これで何か気づいた事はあるかな」

まるで、出来の悪い生徒を諭す先生の様です。

「わらべ歌にあった「この地の王」が初代国王だとすると、もしかしてこの地がその魔物を封印した地だと言う事ですね」

「よく出来ました」

少女が嬉しそうにうなずきます。

「もしかすると、その事と「儀礼」と何か関係があるのですか」

「「儀礼」の役割は、この地に再び魔物が現れないようにする事。どうやるかまでは知らないのだけど、それの役割は知ってほしかったんだ」

かなたの頭の中で、少女の言葉が何度も繰り返し響いています。

同時に、自分がこの国について何も知らないと言う思いが重くのしかかっていました。

「僕、何も知りませんでした」

かなたがつぶやきます。

「兄王がこんな大事な事を任されていたなんて。それなのに、僕は兄王にかまってもらえない事ばかりに落ち込んで、とても情けないです」

泣きそうな顔を少女に向けて、頭を下げました。

「色々と教えてくれてありがとうございます」

「こちらこそ。久しぶりに楽しかった」

「そうでもない者もいるようだが」

今までおとなしくしていたはやとが首を巡らせて後ろを向きます。

その先には支柱に寄りかかってすやすやと気持ちよさそうにしているこはくの姿がありました。

話の中身に興味がなかったのでしょう、退屈してそのまま眠ってしまったのかもしれません。

幸せそうなその寝顔に、かなた達は笑ったのでした。


「そろそろ頃合いかな」

少女がかなたの肩越しに外を眺めます。

かなたもまた、振り向いて外を見ますと、あれほど外の景色を覆っていた霧が晴れて外の鮮やかな緑の景色が見え始めていました。

少女が細く、しかしよく鍛え上げた右腕を上げて外の景色を指差します。

「この先をまっすぐ行くといい。そうすれば森の外へと出られる。

ああ、こはくならそこに置いてきぼりにしてかまわない」

起こそうとするかなたを少女が止めます。

「でも、ひとりで大丈夫でしょうか」

「彼女なら大丈夫」

私が言うのだから。と付け足して少女が微笑みます。

「あと、これを持っていくがいい」

少女がかなたに近づき、腰に下げていた皮のポーチから何かを取り出します。

両手を出してそれを受け取り、しげしげとそれを眺めます。

かなたの両手に包まれて、それはありました。

先の尖った六角柱の紫水晶がかなたの手のひらの中で淡く輝いています。

六角柱の一方に小さな穴が開いていて、首に下げられそうな長さの細い革ひもが通してありました。

「これは?」

かなたが紫水晶と少女を交互に見ながらたずねます。

「お守り、かな。首に下げて持っているといい」

「でもいいのですか。見た所ずいぶんと良い石を使っているみたいですし……」

かなたの言う「良い石」とはこの場合、装飾品としての宝石ではなく、魔力を秘めた道具としての石を差します。

「君だから持っていてほしい。その代わり、約束をしてくれないかな」

「約束?」

「そう」

少女が微笑みます。しかし、その瞳は笑っていません。

「それを肌身離さず持っていてほしい。そして他人に易々と見せないでほしい。もし、万が一見せてしまっても絶対渡さないでほしい。

たとえ、それが君にとって大切な人であっても」

おずおずと、かなたはうなずきます。そうせざるをえない程の逆らいがたい気配を少女から感じ取っていたからです。

かなたがうなずいたのに満足したのでしょう、少女がうなずきます。それから、はやとに、はやくここから出る様に促します。

狼が立ち上がり、静かな足取りで外へと出ていきます。

「行きましょう」

はやとが、かなたに外へ出る様促します。

言われるままにかなたもあずまやの外へと出ていきます。

かなたが外へ出ると同時にまた霧が濃くなり始めます。そして、その白い霧はまるでかなた達が出て行くのを待っていたかの様に徐々にあずまやを覆い、やがて見えなくなってしまいました。

「君達に、森の加護あらん事を」

少女の凛とした声が、白い霧の中にこだましていました。



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