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厄介者の送還担当

「ライラ・フローレイン。君にディオン・ベルナールの送還担当を命ずる」

「えっ……?」


 開口一番、会長はライラにそう告げた。


 ここは召喚と送還を管理する、異世界管理協会の会長室。ここで送還師として働くライラは会長直々に呼び出され、ひとりこの場に立っていた。

「知っての通り、ディオン・ベルナールはもう二年この世界に滞在している。残り時間は少ない」

 会長はわざとらしいぐらいに深刻な声で言った。それからにやりと口角を上げて続ける。

「そこで優秀な送還師である君に、彼を担当してもらいたいのだよ」

 優秀な、という言葉にたっぷり込もった嫌味に、ライラは思わず顔をしかめる。


「しかし、私は……!」


「ああもちろん、君は特例でここにいる。一度でも送還に失敗したら……即刻クビだ」

 こともなげに言う会長は随分と楽しそうに見えた。ようやくライラをクビにする口実ができたとでも思っているのだろう。


 あまりの理不尽に、唇を噛み締める。これがライラでなかったなら、ただ一回送還に失敗したぐらいではクビになどされない。現にこの前までディオン・ベルナールの送還を担当していたリズは、彼を送り還せてはいないが今も送還師として働けている。


「お言葉ですが会長、私に務まるとはとても思えません。ディオン・ベルナールは記憶喪失なのでしょう。まずは医者に診てもらうべきではないですか」

「異世界人を診る医者なんぞおらん。それで、君は協会の命令に逆らうのか?」

 暗に、従わないなら従わないでクビにする。そう言っているようにしか聞こえなかった。


(どうして、こんなことに)

 ライラは、ここに至るまでのことを走馬灯のように思い返した。


 ――ライラには親がいない。父はライラが生まれる以前から行方知れずで、母はライラを産む際に亡くなったらしい。そんな自分は、本来なら送還師になどなれる身分ではなかった。


 送還師になるためには訓練学校を卒業する必要がある。そしてそこには、多額の学費がかかる。とてもじゃないが、親のいないライラに払える額ではない。ただダメ元で受けた試験で、送還師としての適正が異常に高いと判定された。そのために送還師訓練学校の学費を免除されて、今の職がある。その特例を通すための条件が、会長の言う「一度でも送還に失敗したらクビ」だ。


 確かに、ライラはその条件を受け入れてここにいる。しかしそれは、ライラに失敗の責任がある場合においてのはずだ。送還する召喚者自体に問題があって、はじめから失敗すると分かっているのにこんな命令をされるのは納得がいかない。

 それでもライラは頷くしかなかった。明らかな負け戦でも、もう選択肢などないのだ。


「……わかりました。ディオン・ベルナールは、私が担当します」

「ああ、精々頑張ってくれたまえ。一応こちらとしても、奴には帰ってもらわないと困るのでな」

 大して困っている風でもなく、会長は言った。


 この人は、ディオン・ベルナールが帰ろうが帰るまいがどうでもいいのだろう。帰ってもらわないと困るというのが全くの嘘というわけではないだろうが、それよりライラをクビにしたい気持ちの方が大きいに違いない。

 仮にも送還師のトップである彼がこんな人間であることに失望しつつ、ライラは会長室を後にした。

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