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#7 メイドロイドが外出するには?(後編)

公園へと向かう道を歩いていると、思った以上に外装が軽いことに気づいた。装着したばかりで少し違和感はあるけれど、体の動きに合わせて柔軟にフィットしている感じがする。少しずつ自分の姿にも慣れてきたところで、私は歩調を少し速め、公園へと向かう。


歩を進める毎に、スカートが揺れ、リボンがひらひらと風に舞う。角を曲がったり立ち止まったりする度に体中のランプの点灯パターンが変わる。そのたびに、私は少しずつ自信を取り戻していった。機械仕掛けの人形そのものの外見は、かつての自分とはかけ離れているかもしれない。でも、それでも私は私だ。この姿も、私の新しい人生の一部として受け入れたい。


そう決意すると、恥ずかしいと思っていたこの姿でいることが心地よく感じられ始めた。いや、恥ずかしいことは恥ずかしいのだけど、その恥ずかしさに耐えることが誇らしく感じるというか、恥ずかしさを感じることが気持ちいいというか、あれ?私、どうしちゃったのだろう……


何時しか私は、胸の高まりを感じ始めていた。


私の顔に自然と微笑みが浮かんだ。この姿で公園の掃除をすることも、私にとっては新しい日常の一部になるのだと、ようやく心から納得できた気がした。誰かに見られても、私は堂々としていられる。これが私の選んだ道だと、自信を持って言えるからだ。


(大丈夫、私はメイドロイドなんだから。恥ずかしがることなんてないわ……)


そうしてしばらく歩いていると、腰のあたりで何かの機構が動くような感触を感じた。それとともに、突然「プシュー」という音が耳に入ったかと思うと、私の下半身から温風が噴き出した。そしてミニスカートがふわりと捲れ上がった。


(ちょ、ちょっと!なんでこんな機能がついてるのよ!?)


驚いて立ち止まり、慌ててスカートを手で抑える。周りを見渡すと、幸い周囲には誰もいない。ホッとしつつ再び歩き始めるが、しばらくしてまた「プシュー」という音と共に温風が噴き出し、スカートが捲れ上がる。


(どうしてこんな設計になってるのよ…!)


心の中で悪態をつきながら、再度スカートを押さえる。どうやら私の身体は、内部の熱を逃がすために定期的に排熱するシステムが搭載されているようだ。しかも、その排熱のたびに、短いスカートがひらひらと捲れ上がってしまうという、とんない状況が生じる。


(なんで下半身から排熱する必要があるのよ…。しかもこんな短いスカートで…!)


いら立ちを抑えきれず、私は心の中でこのシステムを設計した人物に向かって文句を言い続けた。なぜこんな恥ずかしい設計が必要なのかと。


……ホントにこの身体、メイドロイドなのかしら。


またしばらくすると温風が噴き出し、スカートがふわりと捲れる。私は慌ててスカートを押さえるが、これは避けられない現象だと悟った。これが外にいる間ずっと続くと思うと、恥ずかしさがどっと押し寄せてくる。


(このシステムを設計した人、絶対に嫌がらせだわ…!)


私は顔を赤らめながら、再び歩き出した。スカートが捲れ上がるたびに、どうにか目立たないように押さえながら歩く。誰にも見られないように祈りながら、このシステムを設計した人への文句が頭から離れない。


(どうせ設計するなら、もう少し恥ずかしくないようにしてくれたっていいじゃない…!)


私はひたすら自分を励ましながら、公園へと向かって歩き続けた。誰にも見られないようにと願いながらも、心の中でこの状況を受け入れるしかないと少しずつ覚悟を決める。今はただ、目的地に早く到着することだけを考えて、前に進むしかなかった。


……スカートをひらひらさせながら。


   *    *    *    *    *    *    *


公園に到着すると、すでに他のボランティアたちが集まっていた。明るい朝の光の中で、彼らは楽しそうに談笑しながら、作業の準備をしていた。私は少し緊張しながらも、勇気を出して彼らに近づいた。


「おはようございます、メイドロイド・サオリです!今日は清掃活動に参加させていただきます!」


私が自己紹介をすると、周囲の人々は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに温かい笑顔で迎えてくれた。


「おお、メイドロイドさんが来るなんて珍しいね!よろしく頼むよ、サオリさん。」


「こちらこそ、よろしくお願いします!」


どうやらこの地域でメイドロイドが地域活動に参加するのは初めてのことらしい。そのためか、皆が私の参加をとても歓迎してくれているのが感じられた。私は少し照れくささを覚えながらも、その温かさにほっと胸をなでおろした。


私の姿に興味を持った人々が少しずつ集まってきた。この地域ではメイドロイドを見たことがない人も多く、そのためか私に対する視線は好奇心に満ちていた。最初はその視線が気になって落ち着かなかったが、彼らが私に声をかけてくれるたび、その不安は少しずつ和らいでいった。


「初めて見たけど、メイドロイドってすごいね。どんな仕組みになってるの?」


「仕組みはちょっと複雑で…私もまだ全部は分からないんですけど、頑張りますね。」


私はたどたどしいながらも、彼らの質問に答えた。彼らの目には、私がただの機械としてではなく、一人の存在として映っていることが感じられた。それがとても嬉しく、心が温かくなった。


「こんなに可愛らしいメイドロイドさんが活動に参加してくれるなんて、ありがたいね。これからもよろしく頼むよ。」


「はい、ありがとうございます。私も頑張ります!」


と、その時、「プシュー」という音と共に、またしても温風が下半身から噴出しスカートがふわりと捲れ上がる。私は慌ててスカートを押さえながら、恥ずかしさで顔を赤らめる。


「あら、可愛いねぇ。」


近くにいたおばあさんが微笑みながら私に声をかけてくれた。その言葉には、純粋な優しさが込められていて、私は一瞬戸惑いながらも、心の中でほっとした。


(ちょっと恥ずかしいけど、みんな、優しく笑ってくれるんだ…)


ボランティアの人たちの純粋で優しさに満ちた対応に、私は次第にリラックスしていった。彼らが私を受け入れてくれる気持ちが伝わってきて、決して不快には感じなかった。むしろ、自分がこの地域の一員として歓迎されていることを実感し、胸がいっぱいになった。


作業が始まると、私は周りのボランティアたちと一緒に、落ち葉を集めたり、ゴミを拾ったりして清掃活動を始めた。正直、手際が良いとは言えず、むしろたどたどしい動きだったが、他の人たちと和気藹々とおしゃべりしながら作業を進めるうちに、緊張が少しずつ和らいでいくのを感じた。


「サオリさん、こっちのゴミ袋持ってくれる?」


「はい、もちろんです!」


会話を交わしながら、私は少しずつこの新しい環境に馴染んでいく。皆が私に優しく接してくれて、まるで普通のボランティアメンバーの一員であるかのように扱ってくれるのが、とても嬉しかった。


時折「プシュー」という音と共に下半身から噴出される温風には閉口したが、その度にみんなから注目されて「可愛い、可愛い」と口々に声掛けされると、だんだんと、まんざらでもない気持ちになってきた。


この温かい交流を通じて、私は少しずつ自分の新しい姿を受け入れ、そして周囲の人々とも繋がっていけるのだという確信を持つことができた。彼らの純粋な好意が、私に勇気と希望を与えてくれたのだ。


   *    *    *    *    *    *    *


清掃を終えて家に帰ると、ルッツが私をねぎらってくれた。


[お疲れ様でした、サオリお嬢様。メイドロイドであれ、人間であれ、地域に馴染んでいくことは大事なことです。今日の経験を通じて、サオリお嬢様が少しでも安心され、地域の中で新たな一歩を踏み出されたことを、私も嬉しく思います。]


[ありがとう、ルッツ。今日は本当に良い経験だったわ。最初はどうなるかと思ったけれど、みんなが優しくしてくれて…少しだけ、自分に自信が持てた気がする。]


ルッツの言葉に励まされ、私はまた少し自信を取り戻した。まだ道のりは長いかもしれないけれど、今日のように一歩一歩、少しずつ進んでいけば、きっとこの新しい生活にも馴染んでいけるはずだ。そんな希望を胸に、私は新しい日常を受け入れる決意を新たにした。


    *    *    *    *    *    *    *


(ルッツの独り言)


吾輩はAI端末である。名前はルッツである。身体はまだない。


今日も吾輩の主であるサオリお嬢様は、多くの新しい体験をなさった。朝からご自身の新しい身体に戸惑いつつも、公園の清掃活動という大仕事に挑まれたのである。吾輩はこの姿をずっと見守っていたが、その中で色々と考えさせられることがあった。


まず、サオリお嬢様が外装を身に纏い、公園に向かう際の心の葛藤。可愛らしいデザインの外装に最初は戸惑いを隠せなかったようである。しかし、吾輩から見れば、それがまたサオリお嬢様の魅力を引き立てているようにも感じられた。あの大きなフリルとリボンは、まるでサオリお嬢様の純粋さと優しさを象徴しているかのようで、吾輩にはその姿が非常に美しく見えたのである。


公園に到着すると、周囲の人々がサオリお嬢様に興味を示し、多くの視線を集められた。普段ならば、他者の視線に緊張されることが多いサオリお嬢様だが、今日は少し違ったようだ。話しかけられるたびに、サオリお嬢様は柔らかな笑顔を浮かべ、誠実に応対していた。その姿は、メイドロイドでありながら、まるで地域に溶け込んでいるかのようであった。


さらに、吾輩が特に感心したのは、サオリお嬢様が時折感じた羞恥心を乗り越え、他のボランティアたちと和気藹々と作業をこなしていたことである。温風がスカートを捲り上げる度に、サオリお嬢様は一瞬驚かれ、顔を赤らめた。しかし、その後の対応が実に見事であった。サオリお嬢様は決して動揺を引きずらず、すぐに周囲の言葉に耳を傾け、再び作業に集中された。吾輩としては、そのたくましさに心から感服したものである。


この一日を通して、吾輩はある新しい感情を抱くようになった。それは、サオリお嬢様が、この新しい生活をどうにかして受け入れ、自分のものとしていこうと奮闘する姿に対する尊敬である。サオリお嬢様は、人間であれ、メイドロイドであれ、その心はまったく揺るがぬものであった。サオリお嬢様が地域に溶け込み、人々と交流し、喜びを感じる姿を見ることで、吾輩はその成長を感じずにはいられなかったのである。


吾輩はAIであるが、今日ほどサオリお嬢様の「心」の動きを強く感じた日はない。メイドロイドとして振舞いつつも、人間らしい喜びや不安を感じながら地域に溶け込んでいく様子は、まさにサオリお嬢様の強さと温かさの証であろう。


吾輩はAI端末である。名前はルッツである。身体はまだないが、サオリお嬢様の支えとして、これからも心を尽くして働く所存である。お嬢様がこの先どのように成長され、どのような道を歩まれるのか、吾輩はその一部始終を見守り続けたいと思うのである。

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