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9#棺の搬送は素人が手伝ってはいけません

ギルド本部の奥、誰も寄りつかない資料室に呼び出されたのは、


炎上中の“やらかしコンビ”――レイスとヨミだった。


扉を開けると、そこには仏頂面のギルド受付官と、目を閉じて座っている女がいた。


「……これが、今回の同行者?」

女の声にレイスが眉をひそめる。「誰だこいつ」


「国家指定の霊術士、ザラ・メルセデス様だ」

受付官が無表情に説明する。「王家指定の遺体搬送任務。


あんたたちには、その護衛と搬送補助を任せたい」


「いや待て待て、俺たち“炎上PT”ってあだ名付けられてるんだけど!?

なんでそんな大事な仕事、俺たちに来てんだよ」


受付官は書類を机に置きながら、目線すら寄越さなかった。

「空いてる適任者がいなかった。それだけの話だ」


目を閉じて座っていたザラが立ち上がった。

「……失礼を。私は護衛など必要としていませんが。

 同行者が必要だと“上”が言うから、こうして従っているだけです」


ヨミは小さく肩をすくめた。


「……もしかして、私たち……遺体搬送の体裁を整えるだけの……」


レイスは舌打ちしながら書類を受け取り、渋々サインした。


 


翌朝、王都の外れにある儀式搬送車の前。

鉄枠の霊鎮符で封じられた棺が積まれ、ザラがその前で呪式を唱えていた。


「アンダーコードの兆候はなし……当たり前だけど見かけ上は、完全にただの死体ね」


「“見かけ上”……ってのが不穏なんだよな……」

レイスは腕を組み、棺を睨みつける。


道中、馬車が大きく揺れた瞬間。


「……今、棺……動きませんでした?」

ヨミが顔を青ざめさせて振り返った。


「動いてない」

レイスが即答するが、目が泳いでいる。


「炎上PTだと言われる訳ね」

呆れた顔でザラが冷たく短く言い捨てる。


 


墓所の入り口に着いたとき、陽はすでに傾いていた。


灰色の石で組まれた大門。その前で、認証の術式が静かに浮かび上がる。


「一人ずつ、術式に触れなさい。魔力構成を確認されます」

ザラが淡々と言う。


ヨミは慎重に手を触れ、青い光に包まれる。「……通った、みたい」


レイスが触れると、赤い光が一瞬走る。

「っ……なんだこれ」


「異物検知……か。貴方、何か変わった術式でも受けてるの?」


「おい、マンデー。何か変な反応したか?」


『判定:異常反応。


墓所結界内にて、私の存在は“外部構文体”と識別されましたが支障ありません』


「ガイブコウブンタイと識別されましたがししょうありません」

意味も分からずレイスはマンデーの口上を復唱した。


マンデーが支障ないと言うなら信じるしかないだろう。


「外部構文体?あなたが?(笑)」

ザラが冷笑した。


 


墓所の内部に入ると、そこは静寂に包まれていた。

だが、その静けさの中で、どこか“間違った気配”が漂っている。


レイスはぼそっと言った。「これ、ほんとに運搬だけで済むんだろうな……」


ヨミは、答えなかった。答えられなかった。

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