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37#前衛は爆発と共に去りぬ

顔面の痛みと、冷たいザラからの刺さる様な視線に耐えるレイス。


レイスとザラが頭を抱えながら立ち上がろうとした時、


ふとヨミがリュックのほうに目をやった。


「……あれ、リュックから煙が……」


よく見ると、リュックの奥底でわずかに火花が走る音。

誰も気づかないまま、ティナがリュックに仕掛けた爆薬がじわりと起動を始めていた。


すぐにヨミの顔色が変わる。


「レイスさん! ザラさん! リュック、これヤバやつです!なんか煙出てます!中身って――」


ヨミが慌ててリュックを引き寄せ、慎重に口を開けると、


中にはぎっしり詰まった鉱山用の爆薬と、もう半分以上燃え尽きた導火線が。


「え、……本物って見たことないんですけど、爆弾ですかこれ?」


ザラが冷静にリュックの中を覗き込み、導火線を指差す。


「明らかに“時間差で起爆”するように、導火線の長さが調整されてるわね。


 誰かが計算して仕込んだとしか思えない」


レイスの顔が一気に青ざめる。


「おいおい……冗談じゃねぇぞ、これ!?」


次の瞬間、リーダー格のハイオークがこちらを睨み、唸り声をあげて前へと出てくる。


「……クソッ、こうなったら――!」


レイスはリュックを奪い取ると、そのまま全力でハイオークに向かって投げつけた。


リュックは弧を描いてハイオークの足元に転がる。導火線の火花がちょうど底に到達し――


「伏せろ!!」


レイスが叫ぶと同時に、凄まじい爆音と衝撃が鉱山通路を揺るがせた――!

 


ドカーーーーーーーッン!!!

 


土煙の向こう、リーダー格のハイオークが爆風に巻き込まれ、ゴブリンたちも吹き飛ぶ。

レイスたち三人も、爆風と土砂で視界を奪われながら、どうにか身を伏せてやり過ごす。


「……っ、マジで死ぬかと思った……!」


「こういう時だけ反射神経がいいのね」


「よ、ヨミ……あんたも次から爆薬の見分け方くらい覚えときなさいね……」


煙の中で、三人の命がギリギリ繋がったことだけが、少しだけ可笑しかった。


爆発の衝撃が収まり、土煙がゆっくりと晴れていく。


かつてゴブリンとオークでごった返していた広間には、

もはや怪物の影はなく、吹き飛ばされた残骸と、


爆風でめちゃくちゃになった鉱山道具だけが転がっている。


ヨミが砂埃まみれで咳き込みながら呟いた。


「……あれ、全員いなくなりましたね。ほんとに吹き飛んだ……」


ザラは無言で埃をぬぐい、ため息をつく。


「これで静かになったけど……命がいくつあっても足りないわね……」


レイスは未だ地面に伏せたまま、腕をぶるぶる震わせている。


「……オレは今日、“寿命”を三年分は使った気がするぞ……」


その時、少し離れた岩場の陰から、ぱたぱたと足音がした。


「ちぇー……せっかく時間差で誘爆するように細工したのに……」

 

岩陰からひょっこり現れたのは、土まみれの三つ編み少女――ティナだった。


彼女はリュックを失ったことなどまったく気にする様子もなく、

呆然とする三人の前まで歩み寄る。


「レイス達が来なければ、ハイオークのすぐ近くで爆発したはずだったのに……邪魔しないでよ!」


子どもらしい口調で、しかし妙に淡々と、文句を垂れるティナ。


「ハイオーク、逃げちゃったじゃん。珍しい牙、絶対ゲットしたかったのに……」


唖然とするレイスたち。


「え、どうやって生き残ったんだよ……」


「あの爆発? あたしはタイミング測ってたから、ちゃんと逃げてたよ」


ティナは何食わぬ顔で三つ編みを直し、


埃まみれの服をパンパンとはたく。


その姿は爆風を食らったどころか、ちょっとした体操でもしてきた人間のように無傷だった。


一方、こっちは砂まみれで髪は焦げかけ、


耳鳴りは止まらず、命のストックが減った気がしている。


レイスのこめかみに、血管がぶちっと浮かんだ。


「はあああああ!? お前、マジで自分だけ安全圏に逃げてたのかよ!!?」


怒鳴りながら一歩詰め寄り、髪をかきむしる。


「しかも、爆薬って! ガチの爆薬じゃねーか!!


リュックに詰め込んでたの知ってたら、俺、拾わなかったからな!?


なに!? 自爆系トラップ!? その年でそれもう職業病だぞ!?」


ティナは一歩も引かず、むしろ首を傾げて平然と返す。


「だって、火薬の量はちゃんと計算してたし?」


「“だって”じゃねぇよ!! 

お前の理系的自信で俺の寿命が三年飛んだって言ってんだよ!!!」


 


ティナは唇を尖らせ、ふてくされたように肩をすくめる。

「だってさ、この辺りにハイオークが出るのなんて、滅多にないんだよ!」


レイスが呆れたように言う。

「いや、普通の子は鉱山で爆薬を仕掛けて待ち伏せしないからな?」


場に一瞬、静寂が戻る。

ヨミもザラも息を呑み、ティナを見つめる。


それでもティナはまったく悪びれる様子もなく、

「……え、みんなやらないの?」

と本気で不思議そうに首を傾げる。


さらに、手元の小さなノートを取り出してカリカリとメモを始める。

「爆風で逃げる時の距離、もう少し詰めてもいけるな……次は二倍の火薬で――」


ザラが思わず額を押さえながらつぶやく。


「レイスの知り合いには常識の通じる人はいないの?」


ティナはキョトンとしつつも、ニヤリとイタズラっぽく笑った。

「でも、みんな無事だったし、ティナの作戦大成功でしょ?」


その開き直りに、全員が3人は力なくため息をついた――。


ティナとも無事に合流をはたした三人は、ひとまず鉱山の出口へと歩き出した。


「さて、ここからは安全地帯だな。早いとこ村に帰って――」


その時、ティナが名残惜しそうに鉱山の奥を振り返る。


「……やっぱり惜しいなぁ。ハイオークの牙って、めちゃくちゃ貴重なんだよ?」


「は? いや、命のほうが貴重だろ」


「違うってば! 牙は高いし、女の人に人気なの。

特に、“恋が叶う”とか“想い人と結ばれる”って噂、街じゃ有名なんだよ!」


その言葉に、ヨミが食いつく。


「……えっ、恋愛成就!? ほんとに!?」


ティナは満面の自信でうなずく。


「うん! お姉さんたちもみんな欲しがってるし、持ってたら恋が叶うって!」


ヨミの目が一気に輝き、

「……それ、ちょっとだけ探してみませんか……?」とレイスに小声で耳打ちする。


すかさずザラが冷静に割り込む。


「はい、却下。危険すぎるし、あなたたちの“恋愛運”のために命を賭ける義理はないわ」


しかし、レイスはヨミに同調して

「いや、俺も生活かかってるし、牙一本あればだいぶ助かる……!」と本気顔。


ティナも「だよね!」と親指を立てる。


「……これって、多数決ですよね?」とヨミがニコニコ。


「賛成はティナと、レイス、ヨミちゃんの3人。反対はザラさん1人。


さあ、ハイオークの牙探し再開だよ!」

ティナが元気よく進行方向を変えて先頭を歩きだす。


ザラは肩を落とし、額に手を当てる。


「はあ……こんな雑な民主主義で生き延びてきた自分が悲しいわ」


ティナは嬉しそうに満面の笑み。


「決まりだね!」


こうして、「救出任務」はあっさりと“ハイオークの牙探し”へと姿を変え、

三人+一人の奇妙な狩猟パーティが再び鉱山の奥へと向かうのだった。

挿絵(By みてみん)

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