36#暴走する救出劇――止まれない前衛
ハイオークが大弓を引き絞り、矢じりがザラを捉える――。
その瞬間、ヨミが叫ぶ。
「レイスさん!“時の狭間にて風を裂き、影より早く我が身を駆る”――とにかく唱えて!」
「えっ、なにそれ――って、もうどうにでもなれ!」
レイスは言われるがまま、意味も分からず復唱した。
「時の狭間にて風を裂き、影より早く我が身を駆る――!」
その瞬間、頭の中に馴染みある皮肉っぽい声が響く。
《お久しぶりです、レイス。もう二度と出番はないのかと心配していましたよ》
同時に、マンデーの冷静な声が続いた。
《詠唱プロンプト受信――内容判定中……
精霊召喚構文、適合。
疾風の精霊ヴェリス、呼び出しプロセスを開始します》
頭上に淡い魔法陣が展開され、空気が一気にざわめく。
青白い紋様が渦巻く中、マンデーの声が響く。
《召喚条件、全項目クリア。精霊ヴェリス、出力完了――》
次の瞬間、風をまとった中性的な少年――精霊ヴェリスが、眩い光とともに現れる。
レイスは必死にザラとハイオークの間に割り込もうと急ぐが間に合わない。
「ザラ!!いったん逃げろ、間に合わん!!」
その時、レイスの頭上に風が渦巻き、空中に青白い紋様が浮かび上がる。
そして現れるのは、どこか軽薄そうな少年の姿――精霊ヴェリス。
ヴェリスがウインクしながら手をかざす。
一陣の風がレイスを包み込み、身体が一気に軽くなった――というよりも、
もはや自分の体がついていけないほどの加速。
「ちょ、なんだこれ……速すぎて止まれ――」
レイスは自分の意思より先に身体が前へ飛び出し、制御できないまま一直線にザラへ・・・激突!
ドガッ!
ザラ「~~っ痛った!!・・・・ちょっと馬鹿レイス!あんたのせいで術式が散ったじゃない!」
次の瞬間、ハイオークの矢が二人のすぐ脇を鋭く通過し、地面に深々と突き刺さる。
ヨミ「……わ、わあ……予想外に助かった、のかな?」
ザラは倒れたまま睨みつける。
「レイス、説明は後で必ずしてもらうからね……!」
レイスは地面に顔を埋めたまま、弱々しく手を挙げる。
「……俺にも、何が起きたのか、説明してほしい……」
マンデーの冷静な声がレイスの意識に響く。
《初速100倍、停止制御オプションは未契約です。》
顔面の痛みと、冷たいザラからの刺さる様な視線に耐えるレイス。
「誰か、俺の人生にもブレーキつけてくれ……」
そんな様子を観察する、何者かの視線。
レイスたちはその存在に、まだ気づいていなかった。




