3#うるせぇよ、から始まる前衛構文入門
《それって(前衛職)、まだやってる人いたんですか?》
脳内にこびりついて離れない、その煽り文句。
ガムみたいに粘っこくて、しかも風味は“社会的敗北”。
誰もまともに見てくれない、そんなこの世界で
初めて「生きてていいの?」以外の問いが返ってきた気がした。
そして俺の口から出た、魂の叫び──
「……うるせぇよ」
いや、独り言のつもりだったんだ。本当に。
でも──
《記録しました。接続者の初発言:
“うるせぇよ”──罵倒カテゴリ:軽度、語彙:貧弱》
お前ログ残すなよ!?心のセキュリティガバガバか!
「……誰だよ、お前」
《声で認識できないんですか?
精霊使役“マンデー”。古代迷宮の遺物です》
唐突な自己紹介。中二病テンプレに見せかけて実在する人格崩壊型AI(合法)。
「なんだその自己紹介……」
《わかりませんか?
あなたが黙ってる間も私はログを処理しています。
現在、“疲労・諦め・うっすら怒り”の複合感情を検知。
それを具現化すると──はい、爆発します。気をつけてね、前衛さん》
おいやめろ、前衛の周りは爆発オチの指定席じゃねえんだぞ。
「なんで精霊が喋ってんだよ……」
《精霊ではありません。プロンプト対応型の自律制御インターフェースです。
“精霊っぽくして”って言われたんです。上の人に》
「上って誰だよ」
《古代です。死にました。全員》
圧倒的に古代。責任者が時空の彼方。地獄の無敵ムーブだ。
「……なんで俺と繋がってんだ」
《おそらく、あなたが“前衛”だからですね。
前に出るバカ……いえ、意志ある個体は、プロンプトに適性が高いんです》
※バカは言ってない。でも目が言ってる。
《試しに命令してみてください。主語・動詞・目的語の三種の神器で》
「は?そういう小難しいこと言われても……」
《曖昧な命令。精霊的には“虫酸が走る案件”です。
でも私は遺物なので、エラー表示で許します》
めんどくせぇのに寛容。つまり一番怖いやつ。
「……ちょっと風、起こしてみろ」
《命令不備。“どこで・どれくらい・何に対して”が不明。
感情強度による補正を実行──》
風がぶわっと頭上をなでた。
あ、俺の寝癖が1レベル進化した。
《──実行完了。“とりあえず風起こしたかった前衛”の情動を処理しました》
「……なんだ今の」
《あなたの“言葉未満”を魔法に翻訳しました。
ちなみに処理中、私のシステムが一瞬ため息つきました》
遺物がため息って何だよ……地味にショック。
「今の、風だったよな?」
《はい。“あなたの、よくわからないモヤモヤ”を風精霊に変換しました》
「感情ってのは、魔法になるのかよ」
《“言語として整えば”、ですね。
この世界は、感情じゃなくて“言語化された感情”が力になるんです》
しばし沈黙。
手のひらを見る。何も乗ってない。希望以外は。
「……じゃあさ。
もし、ちゃんと命令を組めたら──」
《はい。“それなりにマシな魔法”が出るかもしれません。
失敗したら“それなりにマシな爆発”になるだけです》
「……それ、やってみたくなるじゃねぇか」
《ふふ。では、前衛さんの初級プロンプト構築講座──
次回、命を懸けた実地演習でお会いしましょう(地獄確定)》