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21#命の値段、馬車で清算中

森を抜ける山道の途中、三人の影がふらつく足取りで進んでいた。


泥と血にまみれた服。顔色は悪く、傷も随所に残ったまま。呼吸は浅く、誰も言葉を発さない。


そのときだった。


カラカラと車輪の音が、木立の奥からゆるやかに響いてきた。


「……馬車?」


ヨミが顔を上げ、目をこする。


木の影から現れたのは、一台の荷馬車だった。帆布には《アロー商会》の文字。


前方の座席には、丸帽をかぶった中年の商人が手綱を握っている。


彼は三人の姿を見るなり目を見開いた。


「ひっ……!? な、なんです? あんたら……まさか、山賊……?」


「いやいや、違いますよ。びっくりさせてすみません」


レイスが両手を軽く上げて笑った。


口調こそ柔らかいが、その顔にはひどく疲れた色が浮かんでいる。


「ちょっと……まあ、いろいろあってこのザマで。


通りがかりに馬車が見えて、助かったなって」


「……な、なるほど。生きてるなら良かった。いや、良くはないけど……」


商人はまだ警戒を解ききれない表情で、荷馬車を止めた。


「村に向かってるところなんです。


代官様が税を徴収に来てまして、納品と領主様への報告もあって」


「ちょうど良かった……僕らも村に向かう途中で。


よければちょっとだけ、荷台に乗せてもらえませんか」


レイスは頭をかきながら頼んだ。言葉は丁寧でも、どこか遠慮がちだった。


商人は一瞬黙って彼らを見つめ、やがて肩をすくめる。


「……まぁ、こんな道で倒れられても困りますしね。どうぞ。


うちの“アロー号”は少し揺れますけど、それはご容赦を」


「助かります。よろしくお願いします」


レイスは気を抜いたように笑って、ふらふらと荷台に足をかける。


荷台に乗り込んだ三人は、ようやく身体を休めることができた。


泥と血に汚れた装備を脱ぎ、わずかな安堵が空気に滲む。


商人は後ろを振り返りながら、小さな木箱をゴソゴソと漁った。


「さて……食料は干し肉とパン、水は皮袋で一つ。


あとは薬草を乾かしたやつと……これ、薬屋の娘にもらった膏薬。効くかは知らないけど」


「全部、いただけるかしら」


ザラが即答した。迷いは一切ない。


「レイスたちの分もまとめて、代金は私が払うわ。


相場より少し高めに」


「え、いや……そんな、こんな状態で――」


「甘やかさないでくれる? こっちにも事情があるの」


ザラが静かに睨むと、商人は少したじろいだが、すぐに苦笑してうなずいた。


「……わかりました。じゃあ、信用取引ってことで」


レイスが苦笑いを浮かべながら干し肉を受け取る。


「助かります。冗談抜きで、これがなかったらたぶん一人くらい脱落してた」


「そりゃ困りますよ。馬車の上で死なれたら、こっちが“呪物”扱いですからね」


商人は苦笑しながら、冗談とも本気ともつかない口調で言った。


「なかなか手厳しいな……」


レイスはパンを一口かじり、水を含んで喉を潤す。


乾いていた身体がじわじわと蘇っていく感覚。


そのとき、ザラがふと帳面を取り出し、何かをカリカリと書き始めた。


「さてと。支出項目は、医療費、食糧、馬車代、あと――利息ね」


「……利息?」


レイスが顔を上げた。


「ええ、当然よ。商人さんへの支払いは私が立て替えた。


なら、回収するのが筋でしょ」


ザラはまるで天気の話でもしているかのように言う。


「いやいや、命の恩人面しながら利息取るって、どういう神経してんの……」


「そもそも“利息なし”が当然だと思ってる方が甘いわ。


私は慈善事業をやってるわけじゃないの」


「……ザラ、本気で利息取るつもり?」


レイスが干し肉をかじりながら横目で聞くと、ザラはさらりと答える。


「当然でしょ。医療・食糧・輸送、全部経費よ。


戦場に情は持ち込まない主義なの」


「うわー……ビジネス冷酷ぅ……」


「利子分で、私は今夜もうちょっとマシな寝床にできるかもしれないし」


「え、それザラだけ得するやつじゃん!」


「だから言ったでしょ? “甘やかさない”って」


「……ぐっ……否定できないのが悔しい……」


「というか、私たち報酬とか、どこで清算するんですか……?」


ヨミが控えめに質問すると、ザラは無表情で答える。


「それは、後で契約書にまとめておくわ」


「け、契約書……っ!」


「ちなみに、遅延金と延滞料も発生するから、返済計画はきちんと立ててね?」


「こわっ……!」


レイスとヨミが同時に身を引いた。


「……ってことは、一応報酬も出るってことでいいんだよな?」


レイスが恐る恐る聞くと、ザラは一拍置いてから答えた。


「もちろん。護衛契約分の報酬は“理論上”発生してるわ。


でも物資代や利息の方が上だから、現時点であなたたちは赤字よ」


「働けば働くほど借金が増えるのか……!?」


「それ、もう戦場じゃなくて人生で負けてる気がする……」


ヨミが小声でつぶやくと、ザラが涼しい顔で振り向く。

「ま、報酬は魂で払ってもらってもいいわよ?」


「破産よりはマシか……?」

レイスが真顔で呟いた瞬間――


《確認:魂提供の契約に同意しますか? Y/N》


「やめろぉぉぉ!!」


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