1#前衛やめとけ
当然ながら、前衛職なんて誰もやりたがらない。肉体酷使の上に、命の危険と汚れ仕事のセットメニュー。まさにこの世界の“3K”――きつい・汚い・危険――が凝縮された職業だ。それでも戦場では必須。にもかかわらず、給料はスズメの涙。後衛の魔術師や回復職が安全地帯でちやほやされる一方、最前線で身体張る連中は、使い捨てのように扱われていた。なのに、誰かがやらなきゃ世界が回らない。そういう役回りばかり押しつけられるのが、前衛職の現実だった。
魔物は朝から絶好調だ。
人間で言うところの「朝活」とか「出社前筋トレ」みたいなテンションで暴れてる。
こっちは出社拒否したいのに。
今回のパーティーは、前衛が俺ひとり。
残り五人?全員、後衛。
つまり俺、今日の“壁役”兼“殴られマネキン”。
昨日の疲労をそのまま抱えて、体力ゲージが朝からチカチカしてる。
それでも突進してくる巨体を、反射で盾受け。
腕が痺れて、脳が「やだやだやだ」って言ってる。
剣を構え直す暇?ない。
なんなら盾を持ってること自体が間違いでは?と疑うレベル。
「前衛、ヘイト維持。あと二分、俺の詠唱が通るまで耐えてくれ」
後ろから、PTリーダーの涼しい声。
声だけ聞くとラジオDJかと思う。
こっちは公開処刑中なんですが?
「補助魔法?いやー、俺もう魔力カツカツでさ~」
「ごめんね~、あとでちゃんと回復するから~」
後衛たちは、笑顔で地雷をばら撒くスキルをマスターしてるらしい。
その笑顔、癒やしじゃなくて事故報告なんだよ。
目前では、牙剥いた魔物が三体ブチ切れてる。
背後には、詠唱に全集中のリーダーと、
「頑張ってる人に笑顔でプレッシャーかける選手権」出場者たち。
その狭間で、俺だけが“耐える”という高度な社畜プレイ中。
盾がきしむ。剣が悲鳴を上げる。
俺も悲鳴を上げたいが、口が暇じゃない。
「マジで限界だ!あとは頼んだッ!」
剣が重い。盾が歪む。
靴はぬかるみにズブズブ沈む。
俺の尊厳もズブズブ沈む。
「あと30秒!耐えて!詠唱中!」
その声がトリガーになったのか、
オオトカゲの爪が、俺の脇腹をスパッと……いったぁ~~。
視界がブレた。
音が消えた。
体が倒れる。
脇腹から何かが出てる気がするが、もはや感覚がTwitterのログアウト並みに雑。
そのとき、後ろから誰かの声。
「うわ、マジで前衛職キツくね?」
「ってか、あれ耐えんの無理じゃない?」
……最後に聞いた言葉が、それかよ。
オオトカゲの頭が吹き飛んだ気がする。
たぶんリーダーの魔法が通ったのだろう。知らんけど。
でももう、俺の視界は真っ黒だった。
心の中で、でっかい「#前衛やめとけ」ってタグが浮かんでた。
「ナイスファイト!」
そんな言葉は、誰も言ってくれなかった。
俺が倒れると、後ろで誰かが「また前衛やられた~」とため息。
……誰だよ、俺の死亡フラグを毎回“進捗”にカウントしてるのは。
ちなみに俺の名前はレイス・カーデン。
前衛で稼げなくなった世界の片隅で今日も死にそうになってる――