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第1章-6話「斥候の眼」

毎日更新するからぜひ見てね!


一人でニヤニヤするだけなのをやめました…


皆さんにもご覧いただける機会に巡り合えたら幸せです!


深い森の中、燐は苔むした巨岩が重なり合ってできた、天然の岩陰を見つけ出した。

狭いが、雨風を凌げ、外からの視線も遮断できる。一時的に身を隠すには十分だった。


「ロリ、こっちだ」


燐は息を切らせながらも、ロリの手を引いて岩陰の中へと滑り込んだ。

ロリも疲労困憊の様子で、燐の腕にしがみつくようにして座り込む。


「少しだけ休む。息を整えろ。すぐにまた移動する」


燐はロリに囁き、自身も岩壁に背を預けて荒い呼吸を整えようとした。

左脚の傷が脈打つように痛む。体内の魔力は、ロリから流れ込んできた不思議な力のおかげで僅かに持ち直したとはいえ、依然として枯渇寸前だ。

目を閉じ、意識を集中して急速瞑想を試みるが、消耗しきった身体では十分な魔力を練り上げることはできなかった。


(…回復が追いつかない。このままでは…)


焦りが募る。

追手との距離は一時的に開いたはずだが、それもいつまで持つか。

彼らが魔獣を退け、追跡を再開するのは時間の問題だ。


その時。

燐の鋭敏な聴覚が、岩陰の外で、慎重に茂みを掻き分ける微かな音を捉えた。

一つではない。複数。足音を極限まで殺し、連携して接近してくる気配。


(…もう来たか!)


休息は、ほんの束の間だった。

燐は即座に瞑想を中断し、刀の柄に手をかけた。


岩陰の入り口付近、木々の影から、潜めた声が響いた。


「…いたぞ。奴だ…『時雨』の生き残りが」


別の方向からも、囁くような声が応える。

「『対象X』も一緒か。手間が省けたな」


そして、短い指示。

「油断するな! 囲め!」


燐はロリの肩を強く抱き、囁いた。

「ここにいろ。絶対に動くな。俺が合図するまで、息も殺していろ」


ロリは恐怖に目を見開きながらも、必死にこくりと頷いた。


次の瞬間、燐は岩陰から弾かれたように飛び出した。

潜んでいることがバレた以上、ここで迎撃するしかない。本隊が到着する前に、斥候だけでも排除する!


茂みの中から、黒い戦闘服に身を包んだ兵士が三人、同時に姿を現した。

彼らは燐の出現を予測していたかのように、即座に反応する。

一人は腕の魔導結晶を操作し、牽制と思われる小型の魔術弾を複数発射。

残る二人は、それぞれ実体剣と魔力銃を構え、左右から挟み込むように燐へと襲いかかってきた。

その連携には一切の無駄がなく、彼らが高度な訓練を受けた精鋭であることが窺える。


『当たれっ!』


魔術弾が空気抵抗を無視して直進してくる。

同時に、左右からの剣撃と銃撃。

燐は魔術弾を最小限の動きで紙一重で回避し、右から迫る剣を自身の刀で受け止める。


キィィィン!


火花が散り、腕に衝撃が走る。

やはり力が入りにくい。押し込まれる寸前、燐は相手の力を利用するように身体を回転させ、剣を受け流すと同時に、左から放たれた魔力銃の弾道を予測し、身を低くして回避した。


(魔力消費を抑え、体術と封印術式で仕留める…!)


燐は地面を蹴り、魔力銃を構える斥候へと一気に距離を詰めた。

斥候は冷静に再度照準を合わせようとするが、燐の動きはそれを上回る。

予測不能なステップで懐に潜り込み、すれ違いざま。


思考だけで、短縮された封印術式のコードを脳内で紡ぐ。

「封――」


腕の魔導結晶が応答するより早く、燐自身の奥底から力が引き出されるような感覚。

次の瞬間、斥候が構える魔力銃の機関部が、パチリと嫌な音を立てて機能を停止した。強制的な魔力供給遮断。


「なっ!? 魔力銃が…!」


斥候が動揺した一瞬の隙を突き、燐は柄頭でその鳩尾を正確に打ち抜き、意識を奪った。


「小賢しい術を使う!」


背後から、剣を持った斥候が再び斬りかかってくる。

燐は振り返りざまにその剣を受け止め、鍔迫り合いになる。

刀身を通じて伝わる相手の力。燐はそれに抵抗しながら、再び封印術式を練り上げた。

今度は、相手の剣そのものを対象とする。


ガキンッ!


鍔迫り合いの最中、燐が魔力を流し込む。

斥候の持つ剣が、まるで鉛でも仕込まれたかのように急激に重くなり、地面に引き寄せられるように動きが鈍った。


「なっ…剣が…重い!? なんだこれは!」


斥候が混乱し、剣を支えるのに意識が向いた瞬間、燐は体を捻り、がら空きになった脇腹へ体重の乗った蹴りを叩き込んだ。

「ぐぅっ!」

呻き声を上げて斥候が地面に崩れ落ちる。


「くそっ! 何だその術は!」


最後に残った魔術師タイプの斥候が、燐との距離を取りながら、防御魔術を展開し、同時に新たな攻撃魔術のため魔導結晶の操作を開始した。

周囲のマナが急速に収束していく気配。


(術式のくみ上げが早い! まずい!)


燐は即座に距離を詰め、相手の魔術発動を阻止しようと駆けた。


その瞬間。

極度の集中と、あるいは無意識の力の活性化か。

燐の両の瞳に、淡い紫電のような、複雑な紋様が一瞬だけ、陽炎のように揺らめいた。


それを見た斥候は、詠唱を中断し、恐怖に目を見開いた。

「なんだ、あの紋様は…!? 奴の術は、報告にあったものと違う…! これは魔術では――」


叫び声は、最後まで続かなかった。

燐の刀が、斥候の展開したばかりの防御魔術を、まるで紙を裂くように強引に突破し、その峰が正確に斥候の意識を刈り取っていた。


「はぁ…はぁ…っ…」


三人の斥候が、音もなく地面に倒れ伏した。

燐は刀を鞘に納め、肩で大きく息をついた。

魔力は、ほぼ完全に使い果たした。身体の疲労も限界に近い。


静寂が、一瞬だけ森に戻った。

だが、それも束の間だった。


打ち倒した斥候の一人が身につけていた小型通信機から、ノイズ混じりの、しかし聞き慣れた冷徹な声が響き渡った。


『――応答しろ、斥候班! 何があった! …魔力反応消失を確認。戦闘と判断する。…聞こえているぞ、リン! そこにいるのだろう! すぐに本隊が向かう! 全員、目標地点へ急行せよ!』


ヴァルドの声だ。

戦闘音と、そして恐らくは斥候が最後に見たであろう燐の異常な魔力の痕跡によって、正確な位置を特定されてしまったのだ。


(まずい…! すぐに来る!)


燐は苦々しい表情で通信機を踏み砕くと、ロリが息を潜めて隠れている岩陰へと、ふらつく足で急いで駆け寄った。

本隊が到着するまで、時間はほとんど残されていない。

絶体絶命の状況は、何一つ変わっていなかった。

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