表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/63

第1章-4話「結界攻防と森への逃走」

毎日更新するからぜひ見てね!


一人でニヤニヤするだけなのをやめました…


皆さんにもご覧いただける機会に巡り合えたら幸せです!

 その頃、洋館を取り囲む森の中。

 闇に溶け込むような黒い戦闘服に身を包んだ集団が、音もなく展開を完了していた。

 木々の幹や茂みに巧みに身を隠し、その存在を自然の一部であるかのように溶け込ませている。練度の高い、帝国軍の特殊部隊だ。


 部隊を指揮する男、ヴァルドは、古木の根元に膝をつき、手にした携帯型の魔力探査盤に意識を集中させていた。

 盤上には魔力が淡い光の粒子となって立ち上り、複雑な紋様を描き出している。それは、眼前の洋館を覆う不可視の障壁――古代の結界の強度と魔力パターンを示していた。

 彼の顔は、探査盤の青白い光に照らされ、鋭角的な影を刻んでいる。整った容貌だが、そこに温かみはない。左頬を走る古い刀傷が、この男の経歴を無言で語っていた。


「ふん、古代の遺物か。小賢しい真似を…だが、それも時間の問題だ」

 ヴァルドは冷たく呟き、探査盤に表示されたデータを読み取る。

 結界は古い形式でありながら、異常なほど強固で、自己修復機能すら持っているようだ。


(並の魔術師では手こずるか。だが、我々の前には無力)

 彼は背後に控える部下たち――精鋭の魔術師部隊――に、魔力通信で静かに命令を下した。

 通信内容は音声ではなく、暗号化された魔力パルスとして、各隊員の魔導結晶に直接送られる。


「全魔力門、接続。目標、正面結界、座標デルタ3。術式パターン・ガンマにて飽和攻撃を開始せよ」

「了解」

 短い応答が、同じく魔力パルスで返ってくる。

 魔術師たちは即座に行動を開始した。

 それぞれが腕や胸部に装着した最新式の軍用魔導結晶が起動し、内部の魔導体が高速で演算を開始する。結晶体そのものが強く光ることはないが、その周囲の空間に満ちるマナが引き寄せられ、圧縮され、術式構築を示す複雑な魔力の渦が目に見えない形で発生する。


 ヴァルドは右手を静かに振り下ろした。それが合図だった。


 次の瞬間、森の各所から、色とりどりの破壊の奔流が放たれた。

 灼熱の炎弾が空気を焦がし、焼けた樹脂の刺すような臭いが一帯に充満する。紫電の雷撃が闇を切り裂き、不可視の衝撃波が空間を歪ませる。

 近代魔術理論に基づき、最大効率で練り上げられた数十もの魔術が、寸分の狂いもなく洋館の結界へと殺到した。


ドォォォンッ!!

ゴォォォォッ!! バチチチッ!


 凄まじい轟音と閃光が、魔の深林の静寂を暴力的に破壊した。

 衝撃波が周囲の木々を根元からへし折り、地面を激しく揺るがす。


*   *   *


「きゃっ!」

 館の裏手へと向かう通路を進んでいた燐とロリは、突如として背後から叩きつけられた強烈な衝撃と魔力の奔流に、思わず足を止めた。

 壁が、床が、地震のように激しく揺れる。天井からは大量の埃と、古い漆喰の破片が雨のように降り注ぎ、すぐそばの壁には大きな亀裂が走った。


「な、なに…!?」

 ロリは小さな悲鳴を上げ、恐怖で青ざめた顔で燐の腕に強くしがみついた。

 その小さな身体が、小刻みに震えている。


「追手の攻撃だ! この館の結界が狙われている!」

 燐はロリを庇うように抱き寄せ、壁際の比較的安全な場所へ移動しながら叫んだ。

 壁越しに伝わる衝撃と、ビリビリと肌を刺すような強烈な魔力の奔流は、外部でどれほど激しい攻撃が行われているかを物語っていた。


 焦りが燐の胸を焼く。指先が冷たくなり、唇が乾いた。

 あの古代結界は強力だが、近代魔術による飽和攻撃に、いつまで耐えられるか分からない。


*   *   *


 外では、ヴァルドが魔力探査盤に映し出される結界の減衰状況を冷静に確認していた。

 光の粒子の明滅が激しくなり、紋様の一部が欠け始めている。


「ふむ、予想よりは粘るか。だが、時間の問題だ」

 彼は部下たちに追加命令を発する。

「第二波、続けろ。座標を修正し、結界の最も減衰している箇所へ攻撃を集中。突入部隊は準備を怠るな」

 命令を下しながら、彼の思考は別の方向へも向いていた。


(フン、あの忌まわしき一族の裏切り者め…! まさかこのような場所に、あのような『禁忌』と共に隠れていたとはな。だが、好都合だ。皇帝陛下への、そして我が一族への裏切りの代償…ここで『禁忌』ごと、その汚れた血で贖わせてくれる!)

 左頬の刀傷を、無意識に指でなぞる。この傷の来歴を知る者は、もうほとんど残っていない。

 彼は再び部下たちを鼓舞するように、しかし感情を抑えた声で告げた。


「怯むな。皇帝陛下と、我らが信じる秩序のために。不浄なるものを滅するのだ」

 ヴァルドの檄に応え、魔術師たちの攻撃がさらに激しさを増す。

 結界の紫の光が、断末魔のように激しく明滅し、その輝きが急速に失われていく。


バキィィィン!!

 ついに、ガラスが砕けるような甲高い音が、衝撃音に混じって響き渡った。

 館を覆っていた結界に、巨大な亀裂が走り、そこから制御を失ったマナが奔流となって噴き出した。


*   *   *


「まずい、破られる…!」

 館内部にいた燐は、結界の崩壊を肌で感じ取った。

 もはや一刻の猶予もない。

 彼はロリの手を強く引き、崩れかけた館の裏手へと続く、暗い通路へと駆け出した。


「こっちだ、急げ!」

 足元には瓦礫が散乱し、壁は崩れ落ちかけている。

 いつ完全に崩落してもおかしくない危険な場所だ。


 二人が館の壁の大きな亀裂――かろうじて人ひとりが通れるほどの隙間――に辿り着いた、まさにその瞬間。

ドガァァァン!!

 背後で、何かが完全に砕け散る轟音と共に、館全体が大きく揺れた。

 結界が完全に消失したのだ。

 同時に、複数の人間が館内部へ突入してくる、荒々しい気配が伝わってきた。


「いたぞ! 裏手へ逃げた!」

「追え! 目標を逃がすな!」


 怒号が響く。

 燐はロリの身体を押し出すようにして亀裂から外へ飛び出し、自身も続いた。


 外はまだ夜明け前の深い闇。しかし、館を取り囲むように展開していた帝国兵たちが、魔導結晶や装備に付随する認識灯を点灯させ、その無数の光点が森の中を不気味に照らし出していた。

 彼らはすでにこちらに気づき、包囲網を狭めながら迫ってくる。


「リン…」

 走りながら、ロリが息を弾ませて問いかけた。

「あの人たちは…なぜ、私たちを追いかけてくるのですか?」

 その声には、恐怖よりもむしろ純粋な困惑が滲んでいた。なぜ追われるのか。それすら分からないのだ、この少女は。

「…長い話だ。今は走れ!」

 答えを返す余裕はなかった。


「行くぞ!」

 燐は再びロリの手を取り、一瞬の躊躇もなく、森の最も深い闇へと向かって駆け出した。

 背後からは、複数の追手の足音と、魔術を発動させる際の鋭いマナの収束音が迫ってくる。


 傷ついた足が悲鳴を上げる。

 息が切れ、肺が焼けるように痛む。

 だが、止まるわけにはいかない。


 握りしめた小さな手の温もりだけを頼りに、燐はただ、深い森の闘の中へと突き進んでいった。

 追手を振り切れる保証など、どこにもなかった。

 そして、闇の奥から漂ってくる、湿った土と獣の体臭が混じった匂いが、この先に待ち受けるもう一つの脅威を、無言で告げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ