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戦國乱世メカニカル

作者: 橋本洋一
掲載日:2024/08/05

 高校の科学部で課題をしていると、何故か戦国時代にいた。

 何を言っているのかまるで分からないと思う。

 僕だって同じだ。


 だけど目の前で、鎧を着こんだ人間が殺し合っている光景が繰り広げられている。

 篠突く雨が降り続けている中、学生服の僕は呆然と立ち尽くしていた。


「あ、ははは、はは。なんだこれ……?」


 笑うしかないけど、上手く笑えない。

 どうすればいいのかも不明だ。

 状況が認識できない――


「な、なんじゃ、お前! 何者だ!」


 後ろから人の驚く声がした。

 振り返ると簡素な鎧を着ている足軽三人が、槍のようなものを構えて警戒している。


「変な恰好で、いきなり現れて! 化生か物の怪か!」


 どうやら現れたところを見られたらしい。

 不味いと思った僕は咄嗟に手を挙げて「た、助けてください!」と懇願した。

 三人の目が血走っている……殺されそうだ……!


「殺さないで! 僕だってよく分からないんです!」

「戦場にいて戯けたことを言いよって……」

「ひいいい!? た、助けて――」


 槍先をこっちに突きだしてきたので、僕は内心パニックになりながら逃げだす。

 待て! という声が聞こえるけど気にするもんか。追いつかれたら殺される!


「うわあああああああ!」


 周りで殺人が行なわれている異常事態。

 僕の許容量は既に超えていた。

 走って駆けて、転んだりして服が泥だらけになりながら、走るのをやめなかった。


 気がつくと戦場の中心を離れられた。そして前のほうに小屋が見えてきた。

 三人の足軽は追ってこない。逃げきれたのかもしれない。

 急いで小屋の中に入る。戸を閉めて一息つこうと――


「誰ぞ、貴様は……」

「ひいいい!?」


 奥のほうから声がした――男の声だ。

 小屋から逃げ出そうとすると「まあ待て」と僕を止める。

 恐る恐る男のほうを見ると……大怪我をしていた。


「だ、大丈夫ですか……?」


 腹から出血している。かなり大量にだ。

 薄暗いけど、顔色も悪いことが分かる。

 なんとなく、怖さよりも心配が勝ったので、近づいてみる。


「見れば分かるであろう……死にかけよ」


 その男はかなり若かった。

 二十歳を超えたか、もしくは超えてないくらいの年齢。

 僕よりも年上だと思うけど、よく分からない。

 鎧は着ていない。動きやすい和服姿だ。


「敵の槍を食らってな。もうすぐ死ぬ……」

「そ、そんな。どうして……」

「戦、だからな」


 片手で出血を止めているけど、どくどく噴き出ている。

 止血が追い付いていないんだろう。


「貴様、うろんな恰好をしているな」

「えっと。僕、突然ここに来て……ていうか、世間話している場合じゃ――」

「言ったろう。わしはもうすぐ死ぬ」


 おそらく武士だろうその人は「無念だ」と短く言う。

 涙一つ零さなかったけど、本当に残念そうな顔をしている。


「この戦に勝てば、城を任せられるはずなのにな」

「そ、そうだったんですね……」

「貴様が何者かは知らん。だが……これをくれてやろう」


 男は黒い玉を止血していない手で差し出してきた。

 手のひらに収まる程度の大きさだ。

 僕は怖がりながら、ゆっくりと近づく。

 そして玉を受け取った――どくんと脈が打った感覚。


「え、これは……」

「ほう。適応するとは珍しい……」


 男は「窮地のときに使え」と疲れたように言う。


機神くりかみを使えるものは戦場を制する。ゆめ大事にせよ」

「く、くりかみ?」

「……ぐはっ!」


 突然、血を吐いた男。

 僕は玉を脇に置いて「大丈夫ですか!? しっかりして!?」と抱えた。


「最期に、看取ってくれて、感謝いたす」

「そ、そんな……」

「貴様の名は?」


 僕は「筑波つくば! 筑波博つくばひろしです!」と喚いた。

 男は「筑波、か」と言いつつ意識を失いそうになる。


「あ、あなたの名は? 何か、言い残すことは?」


 パニックになりながら、聞かねばならないことを訊ねる。

 男は「言い残すこと、か……」と声を振り絞る。


「三河国を、豊かな国に……」

「み、みかわ?」

「わしの名は……松平まつだいら……もと、のぶ……」


 男――松平さんはそのまま眠るように息絶えた。

 自然と過呼吸になってしまう。

 酸素が行きわたらない。怖くて仕方がない。


「ひ、ひいい、うわあああああ!」


 僕は松平さんから離れて、小屋から逃げ出した。

 黒い玉を両手に握りしめながら。



◆◇◆◇



 再び戦場に来てしまった。

 人の死を見たのは初めてだった。

 恐ろしくて、気分が悪くなる。


「おええええ、おえ……」


 思い出して吐き出してしまった。


「おぬし、どこのもんじゃ!」


 後ろから声をかけられた。

 さっきと一緒だなと思いつつ振り返ると、見知らぬ足軽が五人いた。

 僕は――よく分からなくて泣いた。


「なんだよう……どうしてこんな……」

「こいつ、いかれか?」

「構うか。手柄首じゃ。わしらの側ではなかろう」


 殺気立った足軽が、僕に槍を振るう――

 びっ! って音がして、僕の頬が切れた。


「うああああああ!? 痛い、痛いよ!」


 驚いて尻餅を突いた。

 どくどくと流れている――松平さんと同じだ。

 手で押さえるけど止まらない。


「なぶって殺すんか?」

「違う。当たり損ねじゃ」


 もう駄目だと思ったとき。

 また脈が打つ感覚がした。

 ポケットに入れていた黒い玉を取り出した。

 血で濡れた手で取った――眩い光が辺り一面に輝く。


「こ、こりゃあなんじゃあ!?」


 足軽の声が遠くに聞こえる。

 僕はあまりの光で目を閉じた。


「こ、これは……まるで……」


 再び目を開けると、僕は黒々とした鎧と兜を纏っていた。

 装甲が硬くて、漆黒と言うべきテカリのある質感。

 日本の鎧でもなく、西洋の鎧とも違う。何故なら近未来的なデザインが施されていた。

 所々にブースターのようなものが付けられており、関節もよく曲がる。

 黒を中心で、赤の紋様が刻まれている。時代劇で見たような家紋もある。

 分厚いのではなく、身体にフィットするようなスタイリッシュなシルエット。


「なあ!? こいつ、機神遣いか!?」


 足軽たちが怯えている。

 また聞いた知らない単語、くりかみ……


「くそ、これでも食らえ!」


 槍を振り回してきた足軽。

 思わず、両手で防いだ――全然痛くない。

 すると兜の前面に何かが表示された。


『電磁砲、発射準備開始』


 で、でんじほう?

 何が何だか分からない――両手が上がった。

 両手の付け根から肘を合わせるようにくっ付き、指を一本一本広がった。

 手のひらがバチバチと放電し始めた。どんどん光が溜まっていく。


 足軽たちはそれを見て逃げ出した。

 全身が振動する中、何が何だか分からない僕。

 そして兜の前面に再び表示がされた。


『伍、肆、参、弐――壱、零』


 光が一気に高まり――発射する。

 電磁砲――多分そうだろう――は地平線まで届くかと思われるほど続いた。

 そして一気にエネルギーが収束していき、光が消えてしまった。


「はあ、はあ、はあ……」


 全身から力が抜ける。

 物凄い疲労感だった。

 その場にうつ伏せに倒れる僕。


「ゆ、夢だ……これは悪い夢だ……」


 そう。これは夢のはずだ。

 科学部から戦国時代にタイムスリップするのは百歩譲ろう。

 だけど戦国時代とは思えない技術とか電磁砲とか、荒唐無稽過ぎる。


「……もう、どうでもいいや」


 疲労感に任せてそのまま眠る。

 目を開けたらいつもの部屋にいる。

 そう信じたい――



◆◇◆◇



「うわああああああああ!」


 悲鳴を上げた瞬間、僕は飛び跳ねるように起きた。

 布団に寝かされていて、周りは見たこともない和室だった。

 呼吸が荒い――


「あら。お目覚めですか?」


 和室の襖が開いて、和服姿の女性が入ってきた。

 それも一人ではなく、四人同時だった。


「な、なんですか!? あなたたちは!?」

「どうか落ち着いてください。お水でも飲まれますか?」


 差し出されたのは水の入った升だった。

 震えながらも受け取って、ごくごくと飲み干す。

 一息付けたとは思えないけど、今の状況を整理しようとする。


「あの、ここはどこですか?」

尾張国おわりのくに清州城きよすじょうです」


 尾張国という地名には聞き覚えがない。

 だけど清州城という言葉から今もまだ戦国時代にいることは推察できた。


「城ってことは、城主様がいらっしゃるんですよね……どなたですか?」


 女性たちは顔を見合わせて、それから先ほどから話している人が代表して答えた。


織田おだ弾正忠だんじょうちゅう信長のぶなが様でございます」

「あ、あの、織田信長……!?」


 普通に生活していれば聞いたことがある名前。

 そして学生の僕なら知っている名前だった。


「うわあ。本当に戦国時代なんだ……」

「どうかなさいましたか?」

「い、いえ。なんでもありません」


 すると女性が「殿があなたと話したいとのことです」ととんでもないことを言ってきた。


「あなたの着ていた服の汚れは落としました。是非着替えてください」


 そういえば、今僕は寝巻姿だった。

 お手伝いしますという言葉を丁重に断って、僕は学生服に着直した。

 はあ。信長と会うのか。すげえ怖いなあ。

 だって『鳴かぬなら殺してしまえホトトギス』じゃんか。

 せめて徳川家康なら良かったのに。待ってくれそうだし。


 女性たちは侍女らしい。城の中を案内されて、謁見する広間へと連れていかれた。

 そこにはずらりと武将たちが並んでいた。十五人くらいでみんな僕のことを見ている。

 だけど誰も話してくれない。沈黙が痛かった。

 しばらくして小姓が入ってきた。

 武将たちが頭を下げたので、僕も慌てて倣う。


「苦しゅうない! 面を上げよ!」


 大きな声で命じられたので慌てて上げる。

 上座には二十代半ばの男がふんぞり返っていた。


 口髭を生やしていて、それが野性味あふれる美男子に見える。

 こっちを見る表情は興味津々と言った感じでにやにや笑っている。

 こ、これが織田信長か。案外若いな……


「おうおう。てめえが機神遣いの青年だな! どんな豪傑かと思えば、線の細い兄ちゃんじゃねえか!」


 そう言ってどたどたとこっちに歩み寄ってくる信長。

 口調が不良そのもので怖い……

 僕の目と鼻の先まで来ると、持っていた扇子を顎に当ててくる。

 顔をしっかり見せろということだろうか?


「へえ。度胸はあるみてえだな。目を逸らさねえとは感心感心!」


 逸らしたら殴られそうな雰囲気だもん。

 信長はじっくりと僕の顔を見た後「気に入った!」と言う。


「てめえの名はなんだ!」

「つ、筑波博です!」

「名字は普通だが名前は変だな! よっしゃあ、博! 今日からてめえは俺の家来だ!」

「は、はい! ……えっ?」


 思わずつられて返事をしてしまった。

 そしてとんでもないことに気づく。

 あの信長の家来になっちゃった!?


「いい返事だ! おい権六! かえでを連れてこい! 征士郎もだ!」

「かしこまりました、殿」


 髭がもじゃもじゃな武将が立ち上がってどこかへ行く。

 その間に「な、なんで僕なんか家来に?」と勇気を振り絞って訊ねる。


「なんで? そりゃあてめえが機神遣いだからだ!」

「機神遣いってなんですか!? そんなの知らないですよ!」

「ああん? てめえは機神着てたろ。そんで光線出しただろうが」


 記憶をたどると確かに光線、電磁砲を出した気がする。

 だけどそれだけの理由で家来になるとは――


「その光線で今川義元ぶっ殺しただろうが」

「……嘘でしょ?」


 今川義元ぐらい知っている。

 つまり、あの戦は、桶狭間の戦いだったのか!?


「ところでてめえ、どこで機神を手に入れた? すげえ貴重なんだぜ、それ」

「えっと、それは――」


 僕が答える前に先ほどの武将が「お連れしました」と広間に入ってきた。

 二人の男女を伴って――


「おう。来たか! 紹介するぜ、そっちの女はかえで。そっちの男は征士郎だ!」


 女性のほうは顔色が青くて、目の下には隈が刻まれていた。

 まるで寝る間もないほど生き急いでいるような印象だった。

 物凄い美人だけど、どことなく近寄りづらい。


 男性のほうは目つきがかなり悪い。背も高くて百九十近くありそうだ。

 筋肉粒々で鍛え上げている。

 ちょっと怖そうな雰囲気がある。


「殿。何の用ですか?」


 無愛想に言う女性――かえで。

 明らかに無礼な態度なのに、周りの武将は何も言わない。


「用ってのは他でもねえ!」


 信長は胸を張って堂々と言った。


「てめえら三人で三河国を平定しろ。そしたら国をくれてやる!」


 たった三人で三河国という国を取る。

 冷静に言葉にしても頭がおかしいとしか思えなかった。

 それを知ってか知らずか「てめえらに良い知らせがある!」と自信満々に信長は言う。


「竹千代の馬鹿が死んでしまってな。岡崎城が空になっちまった。もちろん、今川家の城代もいねえ。まあタダで城を貰える好機だったんで、恒興に命じて接収した。そこを拠点にして三河国で暴れてこい」


 雑な説明だったが、岡崎城という城を拠点に国を治めろとのことだ。

 だけど問題は人数である。


「殿。私と征士郎だけで十分です。こんな弱々しい、頼りない男など無用です」


 早速、女の人――かえでが文句を言い出した。

 桜色の着物を着ていて武将には見えないけど、戦える人なのだろうか。

 その疑問を払拭するように「てめえは城主になるんだろうが」と面倒くさそうに信長は言った。


「そいつは機神遣いだ。十分に戦力となる。何が不満なんだ?」

「…………」

「おそらくてめえの仇である信玄は今川家の領土を侵略するだろう。てめえら三人も三河国と遠江国を手中に収めれば、十二分に対抗できる。諏訪の無念を晴らせるんだぜ」


 諏訪の無念、という言葉にかえでは顔を歪ませた。


「あのう。お殿様?」

「なんだ博」


 恐る恐る手を挙げて呼んでみると、案外気さくに答えてくれた。

 今の話の流れだと不味い気がするので、何とか望む方向へ持って行く。


「三人で三河国でしたっけ? そんなの無理というか、どうしようもないというか……」

「兵を二千くれてやる。後は三河国で徴兵しろ」

「あはは。兵がいても三人じゃ政治とかできなくないですか……?」

「ならば織田家から文官三十人貸してやる。これでも不足か?」


 うわあ。どんどん足元固められている。

 信長もすげえ睨んでいる。超怖い。


「ていうかよ、さっき家来になるっつったよな? 命捧げますって誓ったんじゃねえのか? ああん?」

「い、いや。家来になるって言ってないし……命捧げるとか誓ってないし……家来の件は、反射的に言っちゃった……」

「ごちゃごちゃうるせえなあ! ぶっ殺すぞてめえ!」


 とうとうキレた信長が刀抜いて僕に迫ってきた。

 急いで土下座して「すみませんでした!」と必死に謝る僕。


「家来です! 命捧げます! だから殺さないで!」

「だったらよお! 三河国に行くよなあ!」

「は、はい! 行きます!」

「行きます? ……言葉が違うよなあ!」

「言い直します! 喜んで行かさせていただきます!」


 その返事に満足したのか「わかりゃいいんだよ」と刀を納めた信長。


「てめえも分かっているよな、かえで!」

「だとしても、信用のない人間は使えません。今、この者は命乞いをしました」


 かえではあの信長を見たのに、堂々と意見を述べた。

 僕にはない度胸だ。まさか命知らずなんだろうか?


「臆病者は何を仕出かすか分かりません。利敵行為あるいは敵に降伏するかもしれません。そんな危うい男を手元におけません」

「ふん。だったらよ。どうすりゃあ信用するんだ?」


 信長の問いをかえでが答える前に、さっきまで黙って座っていた征士郎が割り込むように言う。


「……俺と勝負すればいい」

「はあ? 征士郎、あなた何を言っているの?」

「この男が実力を示せば、かえでも文句ないだろう。強ければ利敵行為も敵に降伏もしない」


 征士郎は懐から白い玉を取り出した。

 この人も機神遣いって奴なのか……?


「貴様の名は?」

「えっと、筑波博、です」

「筑波博、か。勝負を受けるよな?」


 受けなかったら殺されそうな雰囲気を醸し出している。

 断れそうにない……


「わ、分かりました……」

「いい返事だ……ここでは少し手狭のようだ。場所を移すぞ」



◆◇◆◇



 清州城の訓練場にやってきた僕と征士郎。

 遠くから不満そうなかえでと面白がっている信長がこちらを見ていた。


「どうした? 機神を起動させろ」


 いつまでもそのままでいる僕に不審そうな目線を向ける征士郎。

 僕は黒い玉を握ったまま「その、やり方が分からなくて」と素直に言った。


「前のときは必死で、いつの間にかなっていたって感じで……」

「そうか。まずこの『荒魂あらたま』を握り念じるのだ」


 そう言って白い玉――荒魂というらしい――を握りしめる征士郎。

 すると光り輝き、見る見るうちに鎧を纏っていく。


 征士郎の鎧は僕と違って純白だった。

 機械のような装甲は同じだけど、ところどころデザインが違う。

 金色の蛇のような文様が刻まれていて、兜は鬼、いや般若の形を模していた。

 関節は特に白く、ところどころ加速できるブースターが付けられていた。

 そして手には大太刀を持っていた。刃が広くて一人で持てそうにない重量なのに、軽々と片手で持っている。


「さあ。やってみろ。鎧を纏うように念じるのだ」

「わ、分かりました……」


 鎧を纏うイメージ、イメージ……

 一心不乱に想像すると、僕の荒魂が反応した。

 眩い光に照らされて――機神が起動する。


「うわあああ。本当になれた……」


 なれたとは言うものの、一つだけ疑問があった。

 征士郎みたいに武器がない。

 どうやって戦えばいいんだろう?


「あの、征士郎さん――」


 呼びかけた瞬間、大太刀で斬りかかってくる征士郎。

 のけ反るように後ろへと転んでしまった――おかげで避けられた。


「な、なにを、なにをするんですか!?」

「もう戦いは始まっている」

「武器もなしに戦えませんよ!?」

「…………」


 問答無用とばかりに、征士郎は大太刀を振り回して僕に迫る!

 慌てて起き上がって、恥も外聞もなく逃げる僕!


「ひいいい!? なんで、こうなる!?」

「――遅い」


 いつの間にか征士郎が背後近くまで来て――大太刀を振るった。

 どがん! と鈍い音と鋭い痛み。

 僕は五メートルくらい吹き飛んだ。


「ぎゃあああああ! 痛い、痛いよ!」


 のたうち回る僕――殺気を感じた。

 転がりながらその場から退避する――僕がいた場所を容赦なく刺してくる征士郎。


「どうすればいい!? どうすれば――」


 思いついたのは電磁砲を撃つことだった。

 だけど撃ち方が分からない。

 あれはピンチのときの切り札なのか? だったら今がピンチだよ!


「せめて、僕にも武器が――うん?」


 兜の前面に何やら表示された。

 読んでみる。


 『機体の損傷及び操作者の危険が甚大。回転式連弾銃を使用しますか?』


 回転式連弾銃?

 よく分からないけど使うに決まっている!


「使うよ! だから――うわあああ!?」


 征士郎が間近に迫ってくる。

 僕は腕を前に出してストップをかけた――だけど征士郎は止まらない。

 もはや絶体絶命だ――


 だだだだん! と音がした。

 閉じた眼を開ける――征士郎がかなり距離を開けて警戒している。

 不思議に思って自分の腕を見る――な、なんだあ!?


 いつの間にか僕の右腕が変形して――銃の形になっていた。

 細身の長い銃だけど弾倉は大きかった。いくらでも銃弾が発射できそうな気がする。

 もしかして、これが回転式連弾銃、つまりガトリングってことか!?


「なかなかやる……咄嗟に武器を『精製』するとはな」


 征士郎が大太刀を水平に構える。

 ここからが本番ってことか……

 尋常じゃない殺気が放たれている。


 正直戦うのは怖い。

 怪我もしたくないし、死にたくない。

 だけど、やらなきゃやられる――


「うううう、行くぞ――」


 僕は右腕を構えた。

 そして、撃つ覚悟を決めた――



◆◇◆◇



 征士郎は大太刀、僕は回転式連弾銃。

 一見、有利そうなのは飛び道具を扱う僕だけど、実際はかなり違う。

 何故なら僕は屋台の射的でさえ上手く当てられないほどの銃のド素人なのだ。


 一方、相手の征士郎は使い込まれた武器を使っている。

 しかも機神を纏っているので力も防御も増している。

 格闘技を習っていない、ひ弱な高校生が敵うわけがない――


「行くぞ……筑波博!」


 征士郎は僕の名を呼びながら、大太刀を水平に構えて一直線に向かってくる。

 こっちが銃を構えているのに、そんなの関係ないと言わんばかりに――


「うわああああああ!」


 意味不明な喚き声を発しながら、乱雑に銃を撃つ。

 しかし――当たらない。

 狙いが定まらないのもそうだけど、撃った反動でぶれてしまう。

 さらに、征士郎の攻撃の痛みと恐怖で身体中が震え上がっている!


「――しゃらあ!」


 短い気合を上げて、征士郎が大太刀を下から切り上げた。

 脇に当たって肋骨にひびが入る痛み。

 肺から空気が無くなったと錯覚するほどの感覚。


「ぎゃあああああ! 痛い、痛い!」


 僕は再び吹き飛んだ。

 ごろんごろんと転がりながら、どうして自分はこんなことをしているんだと今更なことを考えてしまう。

 なんとか痛みに耐えて、立ち上がった。


「どうした? 貴様の機神の力はその程度か?」


 征士郎の上からの物言いは当然だった。

 大人と子供のように力の差は歴然だった。

 こうなったら、電磁砲を撃つしかないけど――


『心力が八割五分以下です。電磁砲を撃つには足りません』


 兜の前面に意味の分からない表示がされる。

 心力ってなんだよ! まさかエネルギーの一種なのか?


「後ろだ。受けてみろ」


 後ろに回り込んだ征士郎が僕に呼びかけて――斬ってくる。

 咄嗟に振り返って両腕で受ける――ぶっ飛ばされる。

 だけど、さっきよりはダメージは少ない。痛みもちょっとだけだ。


「貴様は、その武器を有効に使っていない」


 征士郎が大太刀を担ぎながら独り言のように呟く。

 有効に使うって……


「連続して撃てるのであれば、狙うのは一点ではない。分かるか?」


 一点ではない―― 


「そうか! こうすれば――」


 僕は再び右腕を構えて、征士郎に向かって撃つ。

 凄まじい反動があるけど気にしない。

 連続して撃てるのなら、狙うべきは一点ではなく――多面だった!


「そうだ。それこそが貴様の戦い方だ」


 征士郎は僕の銃弾を躱さず、大太刀を盾にして、横移動を繰り返して最小限のダメージに留めながら、受け続ける。

 僕は銃を撃ちながら、征士郎の意図をくみ取っていた。


 おそらく征士郎は僕に戦い方を教えているんだ。

 ド素人の僕でも生き残れるようにと、丁寧に教えてくれる。

 その気遣いに僕は感謝する――


「征士郎、さん。もうやめましょう」


 僕は撃つのをやめて、征士郎――さんに呼びかけた。

 征士郎さんは「良かろう」と戦闘態勢を解いた。

 ゆっくりと征士郎さんは近づいてくる。


「ありがとうございます。僕に戦い方を教えてくださって」

「別に構わない。貴様が一戦力として活躍できればいいのだ」

「どうしてそこまで親切にしてくれるんですか?」


 かえでと同じように、征士郎さんは僕が仲間に加わるのが反対だと思っていた。

 けれども「俺とかえでだけでは武田家には勝てない」と言う。


「少しでも戦力が必要だ。それに貴様は未熟とはいえ、機神遣いで貴重な存在でもある」

「そもそも機神ってなんですか?」

「古代からある戦闘用鎧だ。詳しいことは知らん。そういうことはかえでが詳しい」


 僕の知る戦国時代とは異なっているのは分かっていた。

 もしかすると、タイムスリップではなくて、パラレルワールドに移動したというのが正しいのかもしれない。


「貴様が何者かは分からない。しかし、俺たちの仲間になれば最低限の衣食住の保障はできる」

「それは魅力的ですけど、かえでさんが反対するんじゃないですか?」

「かえでが反対したのは、貴様のことを慮ったからだ」

「慮った?」


 征士郎さんは一呼吸置いて「……かえでは自分の都合で貴様を巻き込むのを良しとしない」と答えてくれた。


「貴様は怯えていた。戦うことを忌避しているように見えた。だから――無理やり仲間にして戦わせたくないのだろう」

「失礼だと思いますけど、あの人はそこまで考えていたんですか?」

「当たり前だ。案外、優しいところもあるのだ」


 征士郎さんは「それで、改めて問う」と僕の目を見て言った。

 背筋を真っすぐして、僕は問いを待つ。


「俺たちと一緒に戦うか? それとも別の道を歩むか?」


 重い問いだった。

 この世界に来て初めての選択肢だった。


 もし断っても征士郎さんは何も言わないだろう。

 だって征士郎さんは優しい人だ。こんな見ず知らずな僕に戦い方を教えてくれたんだから。


 それに僕はこの世界のことを何も知らない。

 おっかない信長や無愛想なかえで、そして目の前の征士郎さんしか知らない。

 その中で選べるとしたら――


「一緒に戦います」

「いいのか? つらく厳しい戦いになるぞ」

「……人を殺すとか考えるだけで怖いです。でも戦わないといけないのは分かります」


 それでも、一緒に戦うことを選んだのは、そうしないと生き残れないと心の奥底で分かっていたからだ。


「貴様の覚悟、受け取った。これからよろしくな」


 征士郎さんは機神を解いた。

 僕も念じてみると自然と解けてしまった。

 どういう仕組みになっているのか、まるで分からない。


「俺の名は一ノ瀬(いちのせ)征士郎という」

「よろしくお願いいたします、征士郎さん」


 こうして僕はかえでたちの仲間になった。

 嬉しいことなのか、それとも大変なことなのか、今はよく分からないけど。

 一先ずはなんとかなったと喜んでおこう。

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