第八話 ダリア vs ホムラ
ダリアに「そちらの方は? 」と冷気を纏い張り付けた笑顔で聞かれてオレはたじろいだ。
それと同時にふと考える。
ホムラのこと、どう説明すればいいんだ?
答えとして正解は「拾った」、だ。
何せ、精霊が入っているとはいえ人形だ。
だが彼女は今入っている器の事を精霊人形と言った。
しかも一品もの。
歩く国家機密のような存在を、ギルマスならともかくダリアに話していいのか?
あくまで笑顔を絶やさないダリアを見つつ考えた。
ならば人として紹介するか?
ホムラの方をちらりとみる。
ダリアよりも高い背丈に大きな胸。如何にも高そうな赤い服に白く長いシャツに身を包む彼女は人形を思わせない白く美しい顔にオレンジがかかる赤い瞳を持っていた。そして胸までかかるほど長くかすかに光る赤い髪を垂らしている。
普通に見れば人形とは思えない。
精々「綺麗な人」くらいだろうか。
よし。ならば人でやり過ごそう!
それが良い!
意を決し、受付台を支えにして立ち上がり、震えつつもダリアに向いた。
「彼女は途中で「私はホムラ! よろしく頼む! 」……」
うぉい!
オレが紹介する前に言いやがった。
元気溌剌なのは良いがせめて主導権はオレにくれ。
じゃないと話がどう転ぶかわからない。
「ホムラさん、ですか」
「ああ。そうだ! 」
ダリアがそう聞くと瞳を軽く開いてすぐに戻した。
そしてまじまじとホムラを見ている。
……。気付いたのか?
もしかして人形だということに気付いたのか?
女性は勘が鋭いと聞く。
人一倍勘が鋭いダリアだ。気付かれても不思議ではない。
しかし次に発せられたのは予想外の言葉だった。
「ホムラさんは……。どうしてゼクトさんとくっついていたのですか? 」
そっちか。
「なにやら足が動かないと聞く。だからこうして引き摺ってきた。何でも受付に用事があるようだったかな」
そう言いながらオレの手を取り再現してみせた。
同時にダリアの額に青筋が浮かぶ。
ホムラのやつ。わざとやっているんじゃないだろうな?
勘ぐりながらもどうすべきか考えていると予想通りというべきか、口喧嘩が始まった。
★
「私は山で怪我をしている所を助けてもらってな。その縁でここにいる」
「きぃぃぃぃ!!! 私だってモンスターに襲われて瀕死の所をゼクトさんに助けてもらっているんですから! 」
バンバンバンと受付台を叩きながら反論のようなものをいうダリア。
確かにそう言うことはあったが……確か初めて会った時の事だろうか。
よく覚えているものだ。
「ほう。やはりゼクトは慈愛に満ちた人だったのだな。私の目に狂いはなかったようだ」
「え……えぇ。そうよ。分かってるじゃない」
純粋な感想を言うホムラに少し動揺が隠せないダリア。
自分の足に注意を払うと動けるようになっている。
チャンス!!!
二人が口論をしている間にオレはそっとそこを抜け出し村人達がいる机に向かった。
「ふぅ。酷い目に合いました」
「いや。今回はお前さんが悪いとオレは思うがね」
「ワタクシも同意ですね。今回はゼクト君が悪い」
「そう言わないでくださいよ。ギルムさん、エリック助祭」
席に着き、軽くぼやくと二人から非難の声が上がった。
頭に角を一本生やしている魔族の男性はこの村の自警団団長『ギルム』さんで白い修道士の服を着ている人族の男性はこの村の教会を運営している『エリック』助祭だ。
ギルムさんは約三百歳ほどの一角魔族。この村で最年長だ。しかし姿は老人ではなく、人族でいう所の青年そのもの。オレよりもずっと前に、冒険者として働いていた時負傷してこの村に来たそうだ。
エリック助祭はオレと同い年くらいの中年男性神官。特に太っているわけでもなく、引き締まっているわけでもない姿をしている。
ギルムさんはオレと境遇が似ているため、エリック助祭はオレと歳が近いためこうして仲良くしている。他にも仲の良い村人は多くいるのだが、とりわけこの三人でつるむことが多い。
「いつもゼクトに剥き出しの好意を向けているにもかかわらず、女性を連れてきたんだ。今回ばかりは擁護できないな」
「ワタクシもですな。せめて彼女に気を配りつつ紹介すべきだったかと」
「確かにそうですが放っておくわけにもいかなかったので」
そう言いつつ背中の網籠を置いて、椅子に座る。
「お前さんの人の良さは知っているが今回ばかりは裏目に出たな」
そう言うとエリック助祭が机の上に置いてあるコップにもう一つだし、それぞれに水生成で水を注いだ。
「依頼の後なのでしょう? 一つどうぞ」
礼を言いつつオレとギルムさんはそれを手に取り半分くらいを一気に飲む。
「山登りやらなんやらで緊張することばかりだったので助かります」
「いえいえ、このくらい」
「で、その話方だと彼女、ホムラ嬢と出会ったのは山かな? 」
そう鋭くギルムさんが聞いて来る。
それに頷き状況を説明。
もちろん彼女が精霊人形で、本体が精霊であることを伏せて。
するとギルムさんが頷きつつ小首を傾げて口を開いた。
「なるほど。それならば仕方ない……のか? 」
「少なくとも善行だとワタクシは思いますがね」
「しかし、結果としてダリア嬢を悲しませる——いやこの場合だと怒らせる、か? ——ことになっている。どうしたものか」
「さて……こればかりは分かりませんね。しかしこうなってしまったのは仕方ないこと」
「そうだな。起こってしまったことを嘆くよりもこれからどうするかを考えた方が建設的だな」
ギルムさんがそう言うとエリック助祭が頷き、オレも遅れて肯定した。
そしてエリック助祭がこちらを向いて軽く念押し。
「一応明日にでも彼女の事は村長に報告しておいた方が良いと言っておきましょう」
「問題になるとは思わないが、村長としては住民が増えるのを把握しておいた方が良いだろうな」
「そうします」
と、残りの水を飲み干し、木のコップを机に置いた。
「ふむ。どうやら向こうの話が終わったようだ」
「そのようですね。ゼクト君。ほら」
エリック助祭に言われてオレは受付の方をゆっくりとみる。
そこにはダリアとホムラの姿が。
しかしダリアの最初の刺々しさがない。凍えるような雰囲気も出していない。
どちらかというと親し気に二人共話している気がする。
何があった。
二人の関係の急激な変化についていけず少し不気味に思いつつも、話を一旦中止しこちらを向いて呼んでいる受付に向かうのであった。
ここまで如何だったでしょうか?
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