第六十六話 そして明日へ
「やっと結婚か」
「そうですが……。いや、そうです。はい」
村長宅でオレとダリアは結婚の報告をしていた。
オレは両親がもうないがダリアはいるとのこと。
稀に連絡を取っているようだがまだ結婚の話はしていないらしい。
よってまずはということで自分が住んでいる村の村長ゼファさんに挨拶に行った。
「で式はするのかの? 」
「ええ。エリック助祭の所でと考えております」
「ならば村の者に招集を掛けんといかんの」
「いやそんな大事にしなくても」
「いやいや二人の結婚は村の関心ごとの一つじゃ。呼ぶしかあるまいて」
そう言うゼファ村長に少し顔をひきつらせる。
出来れば大事にして欲しくないのだが。
ちらりとダリアの方を見ると嬉々とした表情を浮かべた彼女がいた。
……。これは大事決定だな。
「ではこれを」
そう言いダリアが一枚の紙を出す。
いつぞやの婚姻届けだ。
いやまて。オレはそれにサインした覚えがないんだが。
すぐさまダリアの方を向く。
すると一本の羽ペンを持った彼女が。
「ここで。書いてください」
「……了解」
彼女から受け取った羽ペンで自分の名前を書いて晴れて公的に夫婦と認められたのであった。
★
「しかしゼクトとダリアが結婚か」
「感慨深いものですな」
「そうですか? 」
結婚前夜オレとギルムさん、そしてエリック助祭はオレの家で飲んでいた。
服はすでに調達済み。後は明日を迎えるのみとなったのだが、独身最後の日ということでいつも交流のある三人で飲み交わしている。
因みにホムラとミズチはダリアの家に泊っている。
人間の結婚が珍しいのだろう。ホムラはかなり興奮していた。
ダリアにホムラのことがバレたのでもう隠す必要はないので安心だ。
「いつかいつかと思っていましたが……。自分の事の様に嬉しく思いますよ」
「そう言ってもらえると嬉しいのですが、なぜそこまで? 」
「いや、あれほどまでにじれったいものはないぞ? 」
んん? とギルムさんが言い、オレは苦笑いした。
確かに長かった。
オレが動けるようになるまでの時間、そして動き始めてからの時間。
恐らくオレの家に来るダリアを皆妻だと思っていただろ。
そこからの「妻でない」という衝撃は計り知れない。
「ダリア嬢がいつもお前さんにアプローチする姿は村にとって一種の恒例行事のような物だったのだが、見れなくなってしまうのは、ちとさみしいな」
「いやいやそんな楽しいものでもないでしょう? 」
「そのようなことはないですよ。娯楽の少ない村にとって、ゼクト君達が繰り広げる喜劇はこの村を色鮮やかにしていました。ダリア君も結婚して落ち着くと思うと、寂しいものです」
それを聞き、少し違和感が。
「ダリアが落ち着く? それはないと思いますが」
「誰しも所帯を持つと落ち着くものですよ」
「市場の者とて、今は落ち着いているが、昔は大層な悪ガキだったしな」
と思い出すかのように天井を見るギルムさん。
へぇ。あの人達が。
かなり落ち着いて見えるが暴れまくっていたのか。
そう思うとあながちダリアが落ち着くという予想も頷ける。
軽く頷いていると倉庫から持ってきた酒瓶が無くなっている。
まだあるが——。
「明日に残したらいけませんね」
「そうだな。お開き、ということにしよう」
「今日はありがとうございました」
席を立つ二人に頭を下げる。
「なに、構わぬことよ」
「ええ。それに結婚したかと言って我々が友人であることは変わりありません。今後ともよい付き合いが出来ればと思います」
そう言い二人は家を出ていった。
「本当に、この村に来てよかった」
★
結婚式当日。
「へいへい! 今日は村一番の騒がしコンビの結婚式だ! 」
「見てらっしゃい来てらっしゃい! こっちの食べ物はどうだい? 」
「「……」」
なぜこうなる?
オレ達が教会へ行くとそこには客引きをする市場の人に露店を並べる人がいた。
少し唖然とした後、オレとダリアは顔を合わせてくすりと笑う。
「どっちが騒がしいのやら」
「私達の結婚は祭りですか」
「そう言わないの」
「そうだぞ。こんなに良くしてもらって良いじゃないか」
声の方を見るとそこには二人のエルフ族の男女が。
この二人はダリアの両親。
この前挨拶したばかりだが、やはりというべきか若々しい。
「分かっています」
「ならいいが……。コホン。ゼクト君。やんちゃなダリアを見てくれてありがとう。苦労しただろ? 」
「そんなことは——」
苦労した覚えしかない!!!
「はは。君は嘘がつけないね」
「全く娘は何でこんな風に育ったのか」
「それに家事全般が壊滅的とは……。少し教育が必要ですね」
それを聞きダリアが少し顔をひきつらせている。
まぁ全部本当の事だから助けれないが。
だからダリア。そんな目でオレを見るな。
「おーい! ゼクト殿」
「ゴミ虫。来てやったぞ。ありがたく思え」
お義父さんとお義母さんの後ろからホムラとダリアがやってくるのが見える。
開口一番ゴミ虫呼ばわりとはミズチらしい。
「では始めます」
二人が来たところでエリック助祭が声を上げるとオレ達は教会へ入っていった。
★
教会裏で着なれない服に身を通す。
修道士の人達がチェックをしている。
「では。こちらへ」
一人の修道士が扉を開ける。
多くの人が並ぶ中、がちがちに緊張したオレは助祭がいるところまで歩く。
「こちらへ」
言葉に頷き少し移動。
同時に教会入り口の扉が開いた。
「綺麗だ」
思わずぽつりと声が出た。
白い服に金色の瞳。神々しいまでに強調された緑の髪。
「そう言って頂けると着た甲斐があるというものです」
そう言いながらこちらに歩み寄るダリア。
思わずつぶやいた言葉に返事が返ってくるとは思っていなかったので驚き少し周りを見る。
すると皆口を手で覆っている。
「気にする必要はありません。ここにいる者は皆同じようなことをやらかしているので。今回はまだましな方ですよ? 」
と結婚式にもかかわらずフランクに話しかけるエリック助祭。
周りの村人は何か抗議したそうな顔をしているが流石に人の結婚式本番で大声を上げる勇気がないのか黙っている。
まぁ村の結婚式だもんな。
このくらい普通か。
そう思っている間にもダリアが横に着いた。
「では誓いの言葉を」
そう言い頷くエリック助祭。
ダリアの方を見て、口を開く。
「これからもよろしく」
オレがそう言うとダリアが震えて体を皆の方へ向けた。
な、何をするつもりだ?
「皆さんありがとうございます! ありがとうございます! おかげさまで私ダリアはゼクトさんと結婚することが出来ました! ありがとうございます。ありがとうございます。そしてこれからもよろしくお願いします! 」
大声でそう叫び、オレは唖然とした。
村人は一斉に笑い、そして「幸せになれよ」等々祝福の言葉が飛んでくる。
エリック助祭に顔を向けるとそこには顔に手を当て天井を仰ぐ助祭が見えた。
「前言撤回です。今回もやらかしてくれました」
「……なんかすみません」
笑いが飛び交う、ちょっと風変わりな結婚式は、無事に終わった。
ここまで如何だったでしょうか?
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