第六十一話 おっさん、王都を観光する 一 ファッションショー
「さて今日はどこを案内してくれるんだ? 」
「ふふふ……。そう焦るなおっちゃん。楽しい場所は逃げやしない」
そりゃそうだが、と頷きつつもトーナを見た。
「そう言えば今日は昨日とはまた違う服なんだな」
「これか? 流石にいつも戦闘服ってわけじゃないからな」
「トーナがおしゃれを」
「悪いかよ。ババア」
「だれがババアですって?! 」
朝一番二人がいがみ合いを始めた。それを「またか」と思いつつも痛みが走る体を少し動かす。
正直……物凄く痛い。
体中がバキバキいっている。現役の時でさえ第三解放の反動はきつかったが歳を取るとここまで痛みが走るのか。
軽く動くだけで筋肉が裂けそうだ。関節もゴキゴキいっている。今日中に治ればいいんだが……。
やっぱり無理な動かし方をしたからなと思っていると後ろから声が聞こえてきた。
「グレーの長ズボンに黒のインナー、黄色くひざ下まであるコートか。これがこの国の王都の流行なのか」
「ホムラがコートを知っていたとは。驚きだ」
「このくらいは知っているとも」
心外な、と言わんばかりの表情をするホムラ。
いやしかし精霊が人間の服装の、しかも名前まで知っているのは初耳だ。
もしかして他の精霊もそうなのか?
そう考えているとどうやらダリアとのいがみ合いが終わったらしい。
トーナが話しかけてきた。
「じゃ、観光へ行くぞ」
そう言いオレ達を引き連れて彼女は歩き出した。
★
「まずは商業区! 」
「普通」
「いやいや、耄碌したかババア。リリの村では考えられないこの活気に店構え! 必見だろ?! 」
「確かにそうですが……」
そうぼやきつつもダリアは歩く。
右に左に目を向ける。
どの店がいいか物色しているダリアの前までトーナが来て「コホン」と軽く咳払い。
「オレのおすすめは武器屋だ! 」
それを聞き、オレ達は心を一つにした。
( ( (冒険者だな~ ) ) )
「な、なんだその目は?! ほ、他にも衣服店とかもあるぞ? 」
「それぞれ寄ってみましょうか」
「そうだな」
ダリアの提案を飲み、足を進める。
「確かにリリの村とはまた違う店並びだ」
「建物もしっかりとしていますね。お姉様」
ホムラが珍しそうに周りを見る。
ミズチも感想をいいながらホムラに補足を加えた。
トーナが言う通りリリの村とは全く違う。
まず区画整備がされている。
リリの村は乱雑に店や家のような建物が並んでいるが、王都や領都のようなところは綺麗に区画整備がされている。
「あの建物は何だ? 」
「衣服店だろうな」
「あの高い建物はなんだ? 」
「商業ギルドだろう」
ホムラが興味津々に色々と聞いて来る。
それにどんどんと答えていくが、興奮度が上がるホムラとは対照的にミズチの機嫌が悪くなっていた。
自分が答えられないのが余程悔しいのだろう。
知らない所で張り合っても仕方がないというのに。
「お、お姉様! あちらの店は宝石店だと思います! 」
「魔道具店だな」
それを聞き「ギロッ! 」とこちらを向いて「空気を読め。このゴミ虫が」と目で訴えてくるミズチ。
いや、間違ったままにするのはダメだろ。
「この前の魔道具店とはまた違う店構えだな」
「むしろこっちの店構えが普通の魔道具店だ」
ほぉ、とホムラは軽く後ろを振り返り再度魔道具店を見ていた。
はぐれないように軽く歩くスピードを落としながら行く場所を本格的に考える。
「衣服店に行きませんか? 」
考えている途中に声を上げたのはダリアだった。
「良いぞ。行くか」
「はい」
こうしてオレ達は少し背の高い衣服店を目指して歩き出した。
★
「この服は如何でしょうか」
「いや何でこんなに露出が多い服がある?! 」
「時折来られる貴族様のご要望に沿ったものでして……」
「いや、それを平民のダリアが着たらまずいんじゃないか?! 」
「なんでも「この服を世に広めるんじゃ」とおっしゃっていたので大丈夫かと」
店員さんが苦笑いしながらそう言った。
エルフのダリアの頭に二つの大きなうさ耳。
店員さん曰くバニーガールという給仕のようなことをする人を考案した貴族が売り出した服だそうだ。
「……これ絶対に売れないだろ」
「実の所売れ行きは好調で。特に……夜がマンネリ化したご夫婦方に」
予想外の言葉!
確かにそそるものはあるけれどっ!
黒い服に白い肌。くるりと舞えば後ろにはご丁寧にまん丸い白い尻尾まで。
着想の元は兎獣人黒兎ってところか?
「チェンジで」
「えぇぇぇ!!! 」
「いや、むしろ何でこれを買おうとしたんだ? 」
「……秘密です」
そう言いながら店員さんを引き寄せるダリア。
こそこそとなにやら話している。
するとカーテンを閉めてしまった。
「おっちゃん。これはどうだ? 」
シャッ! とダリアの隣からカーテンが開く音がしてトーナが姿を現した。
「ま、まともだ……」
「まともで悪かったな! 」
「いや褒めてるんだ。今さっきダリアがやらかした後だからな」
「ふ~ん。あのババアが。で、どう? 」
「ん? あぁ。似合ってると思うぞ」
「そうか……。へへ」
実際似合ってると思う。
服自体は普通そのもの。赤を基調とした服で白いフリルが少しついているくらい。町人の服を少し派手にしたような感じだが、全然許容範囲。
元気いっぱいなトーナが長いスカートをはき長袖を着ていると少しお淑やかに見えてギャップがいい感じに出ている。
「ならこの服買おう」
「ならオレが買ってやるよ」
「なら言葉に甘えるぜ」
そう言い再度トーナはカーテンを閉めた。
「お姉様。こちらの服は如何でしょうか? 」
「は、派手過ぎないか? 」
「いえいえ。きっとお姉様に似合うかと」
後ろを見るとそこには服を選んでいるホムラとミズチが。
しかしミズチが手に取っているのはドレス。
しかもなにやら豪華そうな。
「ささっ。着替えるのをお手伝いいたしますので」
「いや、自分でできる」
「いいえ、いけません。お姉様。力加減が難しいお姉様が無暗に服を手に取ると破くかもしれません」
「そ、そうだな」
「お取込み中悪いが、お前ら。お金は払えるんだろうな? 」
そう言うと二人がオレの方を向いた。
ホムラは「今気付いた」という表情を、そしてミズチは「水を差された」という表情をしている。
「貴様が払えばいいだろ。下郎が」
「いや。流石にその服は無理がある」
値段を、きちんと見てください。ミズチさん。
ミズチに舌打ちされながらも一通り服を選び終わった女性陣の服の会計を済ましてオレは次の場所へと向かった。
ここまで如何だったでしょうか?
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