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第六十話 おっさん、一休憩する

 ギルマスに怒られたのちオレ達は宿で顔を合わせていた。


「……何故トーナがここにいるのですか? 」

「いいじゃねぇか。ババア」

「ババア?! これでもまだ三十代です! 」

「ババアじゃねぇか」

「エルフ族では若い方です! 」


 トーナが昔のようにダリアを呼んだ。

 ダリアも久しぶりに「ババア」呼ばわりされたのが頭に来たのか食って掛かる。

 (なつ)かしいやりとりだ。

 昔はこれで喧嘩になってギルマスが仲裁(ちゅうさい)に入って、ギルマス吹き飛んで。


「ゼクトさん。なににやけているのですか? 」

「いや、なに。懐かしいと思ってな」

「いやいや、成長していない弟子を叱るべきでは? 」

「きちんと成長していたと思うが」

「その通りだ。体つきも、ほら大人っぽくなった! 」

「「「……」」」


 席を立ちアピールするトーナ。

 それを見てオレとダリアとラックさんは顔を見合わせる。


「身長は伸びましたね」

「確かに美人に育ったな」

「ぺちゃぱい」

「なにをぉ! 」


 ダリアが言ってはいけない事を言い、トーナが怒り狂う。


「だが実際に強くもなったな」

「そんなに強くなったのですかな? 」

「ええ。もう勝てる気がしませんよ」


 そう談笑(だんしょう)しているとダリアと取っ組み合いをしているトーナがこちらに向いた。


「へへん! どうだ! 」

「ああ。本当に頑張ったんだな。えらいぞ」

「そ、そうか! 」

「だが、前も言っていたが慢心(まんしん)するなよ」

「分かってるって」


 ()めると照れくさそうに頭を()きながら(ほほ)を赤めた。


「そう言えばトーナは今ランクはどのくらいなんだ? 」

「聞いて驚け! Aランクだ! 」

「な! 」


 胸を張る彼女に驚きの表情を向けた。

 すごいな……。

 オレ達はダメだったのに。

 少し思う所があるが、しかし嬉しくもある。

 Aランクへの昇格がどれだけ難しいのかはよく知っているつもりだ。

 幾ら天才と呼ばれた人物でも易々(やすやす)と上がれないのがAランク。

 彼女は王都に来て相当努力したことが(うかが)える。


「本当に頑張ったんだな」

「おっちゃんの教えの通りにな! 」


 ニカっと微笑んだ。

 だがトーナはすぐに真剣な表情をして口を開いく。


「そ、そう言えば、だな。おっちゃんとババアは……その……」

「ん? どうした? 」


 何か言いにくそうな口調だ。


「い、いや……その……。け、結婚は、したのか? 」

「「「……」」」


 少し顔を赤らめもじもじしながらトーナが言った。

 同時に全体の空気が張りつめた。

 しかしトーナは気にせず続ける。


「あ、あれから時間が経ったんだ。結婚……してるよ、な? 」


 恥ずかしいのか徐々に顔を赤らめながらこちらを向くトーナ。


 トーナは「結婚している」と思って話しているのだろうが現実は「していない」。

 結婚していない、と言えばそれで終わるのだが、この空気。どうしようか。

 悩んでいるとすぐさま机を「バン! 」と叩いてダリアが立ち上がった。


「……。トーナ。実の所結婚はまだです」


 おおっと、いつもならば「している」というだろうダリアがまさかの事実報道。

 明日は雨か?


「しかしっ! しかし必ず鉄壁を誇るゼクトさんを攻略してみせましょう! そして皆さん! 是非、このダリア! ダリアを応援してください! ダリアでございます! ダリアでございます! 」


 ダリアが(にぎ)りこぶしを作って力説(りきせつ)している。

 まともなことを言ったと思えばこれか。

 いつもとは違うアプローチだが、いつものダリアだな。


 軽く溜息をつきながらトーナの方をちらりとみた。

 そこには見たことのないような表情をした彼女が。

 安堵(あんど)、だろうか。何に安堵しているのかわからないが。

 しかし椅子からはみ出る尻尾は元気に右に左に動いている。

 機嫌は良さそうだが……、どういう感情?


「……ゼクトさんも罪造りな人ですな」

「そう言わないでくださいよ」


 ラックさんの言葉に少し溜息をつきながらも軽くひと休憩。


「そう言えばそっちの二人は誰だ? 」


 トーナがようやくホムラとミズチのことに気が付いた。

 二人は各々自己紹介を。

 ミズチが喧嘩腰なのはいつもの事。

 トーナと喧嘩になると思ったが、意外にもならなかった。


「リリの村の新しい住民か」

「よろしくな。トーナとやら」

「お姉様に手を出そうものなら切り刻んでやる! 」


 そう言うミズチに「よろしく」と手を振りながらトーナが言う。


「今どこに住んでるんだ? 」

「ゼクト殿の家だ」


 その瞬間トーナの表情が固まった。

 次にダリアの方を向くトーナ。

 隅の方にダリアを連れて行き何やら話している。

 そして戻ってきて軽く咳払いし、オレの方を向いた。


「この二人は……その、恋人とかじゃないんだよな? 」

「違う、違う」

「ゼクト殿の優しさにつけ入るような形になってしまっているが、トーナの思っているような関係ではない。あくまで善意(ぜんい)で困っている私達を泊めてくれているだけだ」

「ワタシはあのようなゴミ()めからすぐにでもお姉様を引っ張り出して帰りたいがな」


 ホムラが丁寧(ていねい)に言い、ミズチが毒を吐き顔を(そむ)ける。

 ミズチはホムラに(しか)られてしょぼくれたが、すぐに元に戻るだろう。


 ミズチが人間に対して毒を吐くのはいつものことなのでオレ達は苦笑いを浮かべるがトーナの(ひたい)には青筋(あおすじ)が浮かんでいた。

 怒っているようだが、しかしキレないとは。やっぱり大人になったんだなと実感。


「ま、まぁいい。違うなら、いい」

「分かってくれて何よりだ」

「で……おっちゃんはもう帰るのか? 」

「いや、明日王都観光してから帰ることにしている」

「観光か! ならオレが案内しようか? 」


 観光、という言葉にトーナが飛びついた。

 トーナの案内、か。良いかもな。

 実際オレやダリアが王都に来たのは久しぶり。

 見た感じ変わりはないが所々かわっているかもしれない。そう考えると、今住んで活動しているトーナに任せるのはいい案だと思う。


 軽くトーナの方を向く。

 キラキラした目をこちらに向けて返事待ちをしていた。


 トーナはAランク冒険者。

 彼女自身休みがあまりないのかもしれない。オレがBランクだった時でさえ指名依頼が多く忙しかった。そうなるとトーナの忙しさは想像できないほどだろう。疲れた体は依頼に支障(ししょう)をきたす。適度(てきど)に休めればいいのだがそうはいかないのが現状

 ならばトーナの息抜きを()ねて彼女も観光に連れて行くのもいいだろう。

 よし。


「じゃぁ観光案内はトーナに任せようか」

「任せておけ! 」


 そう意気込むトーナを見て微笑ましくなった。

ここまで如何だったでしょうか?


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