第五十七話 おっさん、王都冒険者ギルドへ行く 二 問題発生
ギルマスと話終わり客室を出た。
廊下を通り受付に向かうと何やら騒がしい。
嫌な予感がする。
足を早めて移動。
視界が開けるとなにやら何かを囲うように集団が出来ていた。
場所は——嫌な予感の通り——オレが座っていた場所。
となると騒ぎの中心は必然的にダリア達になる訳で。
女性三人はともかくラックさんがミズチを抑えてくれるかも、と思っていたが無理だったか。
「あのう、これどうしたのですか? 」
丁度横にいた受付嬢に聞いてみた。
するとクルリとオレの方を向き、口を開く。
「貴方は確かギルマスと一緒にいた……。コホン。実の所私もよくわからないのです。大きな声と打撃音がしたらあの状態に」
受付をしていた時よりも声のトーンが速い。
少し焦っているように感じる。
恐らく彼女は、状況を見ていたのだろう。
本来ならば仲介に入らないといけないのに面白がってか、めんどくさかったのか入らなかった。
そこにギルマスと一緒に客室へ行ったオレがあらわれて聞いて来たから、少しぼかしつつ、報告ってところか。
よくあったことだが……何というか本当にリリの村は平和だったんだなと実感。
「まぁいい。奴らに聞いてみよう」
「え? 」
「おい、お前ら。何してる? 」
声に少し気を乗せて言い放つ。
単なる威圧だ。
「! 」
オレの声に気付いたのか囲んでいた冒険者達が一斉にこっちをみた。
その視線を気にせず、中央を歩く。
近付くにつれて空気がピリつくが気にしない。
どんどんと囲いが割れていき、憤怒の顔をした青い髪の少女と地面とお友達になっている丸太のような冒険者が見えた。
察した。
過去に関することだったから彼女達を置いて来たが、連れてこなかったのはオレの不手際だな。
だが、一応確認しておこう。
「ダリア。これはどういう状況だ? 」
座って冷たい目線で丸太冒険者を見下ろすダリアに聞いた。
するとすぐに顔を上げ朗らかな顔になりオレに問いに答えた。
「そちらの悪漢が私達に言い寄ろうとし、それに激高したミズチさんが喧嘩腰になり……」
「下郎が。お姉様に近付こうなど万年早いわ! 」
「オーケー。大体状況は分かった。で、後ろのやつらは? 観客か? 」
「仲間なようですよ? 「後でオレにも分けな」とか言ってましたし」
「ちょ、まて。俺達は関係ねぇ。言いがかりは止せ! 」
ダリアがそう言うと周りの男共が騒ぎ出す。
その様子を見て深く溜息をついた。
そりゃそうだ。冒険者同士とはいえ——決闘ならともかく——私闘は禁止。
便乗していたとなると彼らもギルドからの御咎めがあるだろう。
こういうのは大体外でやるもんだが……冒険者になりたての小さな女の子に見えるミズチなら大丈夫とでも思ったのか? あとはそこの受付嬢が見逃すことが前提だったとか。
だが見てくれに騙されて大騒ぎ、というのが大体のシナリオだろう。
しかし気になる事が。
「ミズチ……。殺ったのか? 」
「ふん! 面倒事になるからな。殺しはしていない」
「それにしては起きてくる様子がないんだが」
と、丸太男を見下ろした。
大丈夫か、これ?
死んでないよな。ホムラよりも手加減は上手いはずだが、ホムラに関したことだ。殺す勢いでやっていてもおかしくない。
軽く冷や汗を流す。
が、誤魔化すように男達の方を見る。遠くに緑髪が見えた。使えそうだ。
「ま、冒険者とは言えど集団で女子供を襲おうとする輩、ということか。ダリア、こいつらの名前は分かるか? 」
「調べれば」
「なら後でギルマスに報告しておこう」
「ちっ! 報告されたら面倒だ」
「ほう。何が、面倒なんだ? 」
聞き覚えのある声がして男達の顔に緊張が走った。
ギギギ、という擬音を放ちながら後ろを見たらそこにはギルマスが良い笑顔で彼らを見ていた。
「またお前達か。もう今回は言い逃れが出来ないな」
「お、俺達は何もしてねぇ! 」
「なら……なにが「面倒」なんだ? んん? 」
威圧されながら質問されたじろぐ彼ら。
じりじりと後ろの下がり丸太男に足が当たると一人が転び、衝撃で丸太男が起き上がった。
「このぉっ、くそアマ! よくもやりやがったな! その顔切り裂いてやる!!! 」
「ほぉ」
いきなり立ち上がると記憶は気絶した時のままなのかミズチに向かって怒鳴り上げた。
しかしギルマスの声が聞こえ、勢いよく動こうとした体が急に止まる。
ぎこちなく顔を動かすと、やはり彼の顔色も悪くなった。
「一先ず事情聴取だ、お前達。そしてダリア。お前もだ」
「私もですか?! 」
「事実確認だ。ゼクト、ダリアを借りていくぞ」
「了解。ギルマス」
オレの声を皮切りにギルド職員が出てきた。
男共は拘束されて取調室へ。
ダリア達とギルド職員はギルマスに引き連れれて、別室に移動させられた。
その様子を見ながらオレは席に着く。
「大変なことになりましたな」
「王都のギルドでは日常的なことですよ? 」
「そうなのですか? 」
ラックさんが「信じられない」と言った表情でオレの方を向く。
オレは苦笑いで返して、口を開く。
「多分美麗な三人に目が眩んだのでしょう。それで声をかけて、ミズチの反撃にあったと。で彼らはギルド内で問題を起こす常習犯。ギルマスはオレを追ってきたらこの状況に出くわし、これ幸いと問題児を捕縛。最悪なのが咎める立場にある職員が見て見ぬふりをしていたことでしょう」
「……これが日常的? 」
「よくありましたが、オレ達の時は受付嬢が仲裁に入っていたのでここまでの騒ぎにはなりませんでしたが」
説明している間にも依頼を終えた冒険者達がギルドの中に入っている。
流石王都。
色んな装備をした奴らがいるな。
受付嬢も代わったようだ、違う人が依頼完了の処理をしている。
そんな中一瞬空気がピリっとした。
なんだ? と思い周囲を見渡すとピリついているのは職員ではなく冒険者達のようだ。
依頼の失敗か?
そう考えていると「ギギギ」とギルドの扉がまた開いた。
そこから一人の虎獣人の女性が現れた。彼女から——ここからでもわかるほどの圧倒的な気が放たれている。
殺気ではないが周りを警戒するような威圧感。
なるほど、ピリついていたのはこのせいか。
武闘家のような軽装をしている虎耳彼女は縞々の尻尾を振り皮の長靴を踏みしめて、受付に向かっている。鉄の籠手を外すと指先が出ている薄く黒い手袋が見え、その手で受付台に手をついた。
どれも一級品だな。
全部魔道具か? これほどの財力に道具に相応しい威圧感。B……いやAランク冒険者か?
茶色く短い髪を持つ彼女は報告を終えたのかくるりと反転。
そして何かに気が付いたような表情をした。
それと同時に少し空気が弛緩する。
そしてオレの方を向いた。
え? なに? オレ? オレ、何かしたか?
ずっとこっちを見ているんだが……。
「ゼ、ゼ、ゼ……」
「ゼ? 」
「ゼクトのおっちゃん! 」
甲高い声でオレを指さし確かにそう言った。
ここまで如何だったでしょうか?
面白かった、続きが気になるなど少しでも思って頂けたら、是非ブックマークへの登録や広告下にある★評価をぽちっとよろしくお願いします。




