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第五十六話 おっさん、王都冒険者ギルドへ行く 一 おっさんの過去

 魔道具を買い終えたオレ達は商業区を出ている。


「良い買い物でした」

「お婆さんにも会えましたね」

「そ、それは言わない約束ですよ! 」


 ラックさんが慌てた口調で声を張る。

 それがおかしかったのかダリアがくすっと笑う声がした。


「しかし届かなくなった手紙を寄越(よこ)さなくなった理由が「めんどくさくなった」とは……。いやはや彼女らしいというか」

「思ったことがそのまま口に出るような方でしたね。確かに商人には向いていないかもしれません。好感は持てましたが」

「ダリア。お前も十分に、人の事が言えないとは思うが」

「なにを言いますか。場と人はわきまえています」

「なお悪いわ! 」


 オレ達のやり取りを聞いているのかラックさんも少し笑う。

 少し恥ずかしくなったのかダリアは軽く咳払いをしてオレの方を向き直した。


「しかし私の出番はなかったですね」


 彼女がそう言うとラックさんの声が。


「来てもらったのに申し訳ないです」

「いえ。構いません。むしろ出番はない方が良いのは確かなので」


 前を向いてダリアが言った。

 歩いていると後ろからも声が聞こえてくる。


「ゼクト殿。今はどこに向かっているんだ? 」

「王都の冒険者ギルドだ」


 一瞬足が止まりそうになるも、——ぎこちなさを残したまま——進む。


「王都のギルドか。楽しみだな」

「ワタシも楽しみです。お姉様がいる所ならば」

「平常運転だな」

「もしお姉様に何かしようとする者がいれば——」

「止めてくれ。一応ギルド内の争いはご法度(はっと)だ」

「そうだぞ、ミズチ。お前はもう少し我慢というものを覚えるんだ」


 ホムラの声に全員が頷いた。

 しかしミズチは不満なようで反論してくる。


「お姉様。ワタシはこれでも我慢強い方だと自負(じふ)しております」

「「「え??? 」」」

「お、お姉様まで(ひど)い! 」


 意外だったのか驚きの声を上げるミズチ。

 自負……。あぁ、まぁ自分をどう思っているかは個人の自由だ。何も言うまい。

 しかし周りには迷惑を掛けて欲しくないな。


「おい、何だその顔は」

「いや、特に何も」

「それにしては何か言いたそうな顔だが」

「そうだな……。せめて敬愛(けいあい)するホムラお姉様を困らせない程度には我慢してくれ」

「だから我慢強いと言っているだろ? 」

「それがホムラに関することでもか? 」

「それは自重しない」

「ほら、我慢できていない」


 なにを?! と食って掛かるが軽くスルー。

 そうしているうちにオレ達は冒険者ギルドに着いたのであった。


 ★


「依頼の中間報告ですね。(うけたまわ)りました。少々お待ちください」


 若い受付嬢がそう言い書類を取り出す。


「こちらに依頼者のラック様と冒険者のゼクト様の署名(しょめい)をお願いします」


 そう言われ、それぞれ書類に記載(きさい)した。


「これで報告は終わりになります。こちらの書類をリリの村支店でお渡しください。それで依頼終了になります」

「了解しました」


 書類を受け取り、仕事を終えた。

 受付台から少し離れて机に向かう。

 少し休憩だ。


「これからどうしますか? 観光の時間は明日を予定していたのですが」


 椅子に座りラックさんがオレ達に言った。


「不都合が無ければ明日でいいと思いますよ。時間も時間ですし、今から行っても中途半端になるだけですので」

「分かりました。ではそのように致しましょう」


 ラックさんが頷き観光のことは決定。

 さて後はどうするかだが——


「あれ? ゼクトじゃないか? 」


 何やら聞き覚えがある声がした。


 ★


「お前随分老けたな」

「余計なお世話ですよ、サブマス」

「残念。俺は今ギルマスだ」


 マジか。


 ここは冒険者ギルドの客室(きゃくしつ)

 前に座るエルフ族の男性は俺が王都で活動していた時のサブマスだ。

 今はギルマスと言っていたが、時の流れを感じるな。

 しかし、流石エルフ族。見た目が全く変わっていない。


「お前が生きてることはリリの村の冒険者ギルドから聞いている。心配はしてないが……よく冒険者を続けれたな? 」

「その言い方だと、オレが冒険者を続けたら不都合の様に聞こえますが? 」

「違う違う。あそこからよく立ち直ったな、ということだ。並みの冒険者ならやめてるか、スラム(いき)だ」


 手を振りオレの誤解を解くエルフ。

 心配していないとは言っているが、どうやら心配させていたようだ。

 軽く拳をぎゅっと握る。

 視線を感じて顔を上げた。


「……まだ引き()ってるのか? 」

「引き摺らない方が、おかしいでしょう」


 軽く笑顔を作りギルマスを見た。

 彼は机の上にあったコップを手に取り一口飲んでいる。

 飲み終わると軽く息を吐いて遠い目をした。


「あれから十年以上か。もうすぐ二十年になるのか。早いな」

「ええ」


「討伐難易度不明。国境付近に出現したアーク・ドラゴンの討伐。いや、最初はドラゴンの討伐だったか? 」

「そうですよ。見事にギルドに(だま)された形になりましたが」

先遣(せんけん)隊が全滅だったんだ。情報がなかった。しかし国からの依頼。断るには……無理だったんだろうな。あん時のギルマスは。恨んでもらっても構わねぇよ」

「……恨むなら、自分の実力不足を恨みますよ」


 二十年前、国から出された依頼。ドラゴンの討伐。

 討伐難易度S相当のレッサー・ドラゴンを予想したオレ達『七宝』は冒険者の大群を引き連れて討伐に向かった。

 しかし出てきたのは予想を(はる)かに上回るモンスター、アーク・ドラゴン。

 大群は壊滅(かいめつ)、オレ達も命からがら逃げることに成功した。


 リーダー『ガルマ』の命を持って。


 大群の壊滅に精神的支柱(しちゅう)でもあったガルマの死によりオレ達は完全に心がオレて、自然解散となった。


「そういやダリアと結婚したのか? 」

「いや、してませんが……」


 そう言うと「はぁ」と盛大(せいだい)な溜息が聞こえてきた。


「あそこまでしてもらって結婚してねぇとは……チキンめ」

「どうとでも言ってください。確かに彼女には感謝の(ねん)()えませんが、彼女には彼女の人生がありますから」


 (ふさ)ぎ込んだオレを今の状態まで戻したのは他でもない、ダリアだ。

 完全に折れていいたオレの宿にいきなり来てリリの村へ行くと行きだし、献身(けんしん)的に世話をしてくれた。

 料理に掃除洗濯など家事全般は壊滅的だったが。

 それが逆におかしくて、それで……。


「ま、お前にはお前の考えがあるんだろうが、ダリアの事も考えてやれよ? 」

「ええ」

「本当にわかってるのか、怪しいな」

「分かっていますよ」


 そう頷きオレも飲み物に口を付けた。


「お前も大分落ち着いたな……。これが歳か? 俺もこうなるのか? 」

「さぁどうでしょう? 何せ高齢のエルフ族というのを知らないので」

「あの頃の自信に満ちたゼクトがこんなに落ち着くなんて」

「なに手で涙を(ぬぐ)仕草(しぐさ)をしているんですか。はぁ……人間寿命の三分の二を行けば、落ち着くくらいしますよ」

「短いねぇ。人族の寿命は」

「仕方ないでしょう? そう言う風に創られたのですから」

「ま、確かに」


 軽く笑いギルマスが少し真剣な表情をした。


「で……これからどうするんだ? 」

「観光した後リリの村に帰りますが」

「なら気を付けた方が良い。なんやらきな臭い」

「というと? 」

「どこかの貴族が落ちぶれたせいで政変(せいへん)が起こってる。それの余波(よは)で賊に紛れて他領を荒らす騎士(くず)どもが出ているからな」

「それ……誰が得をするんで? 」

「徳……というよりも単なる(けず)り合いだ。時間が経てば収まるだろうが、帰り道気を付けた方が良い。ま、お前なら大丈夫だとは思うが」


 そこまで治安が悪化しているのか。

 来るときは何ともなかったんだがな。


「分かりました。気を付けながら、帰るとしましょう」

「おう。時には顔を出しな」


 ギルマスのその言葉を背に受けて、オレは部屋を出るのであった。

ここまで如何だったでしょうか?


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