第五十四話 おっさん、出発する
「デートですか? 」
「いや王都までついてきてくれ。そして商人の手伝いをしてくれ」
「デートですね」
「……もうそれでいい」
笑顔でそう言うダリアに項垂れながら否定するのを諦めた。
ここはダリアの家の広間。
オレはダリアの家を一回掃除した後彼女に王都へついてきてくれないか聞いてみた。
快諾してくれたのは良いが、「デート」と言い張るダリアに負けた。
あの後すぐに依頼主であるラックさんの所へ行くと観光するだけの時間は作るようにしているといっていたからあながち間違いではないのだろうけれど。
もしかしてラックさんはこうなる事を予想していたのだろうか?
そうなると想像以上にやり手かもしれない。
侮っていてすみません!!!
「でいつ出発するのでしょうか? 」
「明日らしいぞ? 」
「でも明日は仕事のはず……」
「ギルマスが休みにするとか言っていたから、今頃書類でも作っているんじゃないか? 」
まぁ! と笑顔を浮かべるダリア。
本当にうれしそうだ。
本来ならば彼女の交渉術を頼ったのだが、本当に観光するのも悪くないかもな。
「では私は確認してきますね」
「おう……」
「そうなると早く準備をしないと。王都は久しぶりなので多少変わっているかもしれません。デートプランを考えないと」
ダリアが次々に考えを口にしていく。
オレに丸聞こえなのは良いのか?
そう思っていると彼女は足早に部屋に行き、服を着替えて、オレと共に外に出た。
彼女はギルドに、オレは家にそれぞれ向かうのであった。
「「王都? 」」
「あぁ。と言ってもギルドの依頼で、オレと一緒に商人の『ラック』さんの護衛で行くんだが……一緒に行かないか? 」
「それは面白そうだな。是非同行させてくれ」
「お姉様が行くところがワタシの行くところ。是非もない」
「ありがと。出発は明日になるから、なにか準備するものがあれば整えておいてくれ」
と、依頼内容を説明しつつ、内心ほっとする。
好奇心旺盛なホムラなら王都へついて来るだろうし、ホムラと離れるのを嫌がるミズチならばきっとついて来るだろうと確信していたが、彼女達に断られる可能性はあった。
一応彼女達に断られた場合、どのパーティーに依頼するかは決めてあった。
しかしその必要がないとわかり、心が落ち着く。
他のパーティーでもいいのだが、いざ戦力となったらこの村では二人を超える者はいないだろう。
精霊人形であるということや精霊であるということを除いても、精霊魔法を使え、剣で切りつけても傷がつかないほどの強靭な肉体を持ち、殴るだけで地面を陥没させる攻撃力を持った彼女達はもはや存在が武器である。
問題ばかり起こしているからあまり有能さが伝わらないが、護衛戦力としては最高峰ともいえる。
「護衛、ということだが……何をすればいいんだ? 」
「ラックさんが王都に行って、帰って来るまでの安全を確保すればいいんだ」
「モンスターや賊は? 」
「積極的に倒して構わない」
「ワタシはお姉様の護衛をします! 」
「ミズチはそれでいいよ」
ミズチならばそう言うと思っていた。
だがラックさんの身が危なくなるということは、間接的にホムラの身に危害が及ぶ可能性が出てくる。
それをミズチが放っておくだろうか?
いやそれはない。それだけは、ない。
故にミズチはいつも通り、ホムラを護衛してくれればそれだけでいいのだ。
「あと、同行人としてダリアがついて来る」
「分かった」
「あの女が」
ミズチが何やら苦い顔をしている。
「どうした? 」
「なんでもない」
そう言い顔を背けられた。
いや、何かあるだろ。その反応は。
しかし追及しても無駄になりそうだ。
強情なミズチが口を開くとも思えないし、な。
それよりも依頼の事だ。
「他に何か聞きたいこととかあるか? 」
そう聞くと、二人共首を横に振る。
ないようなので、今日の所は一日を終えた。
★
翌日の朝。
久々の護衛依頼ということもあって、今日は朝の修練は行わない。
早々に朝食を取って、倉庫へ向かう。
「なにもないとは思うが」
そこにあるのは一本の長剣。
質素な鞘に包まれた馴染みの武器。
鞘から軽く引くと黒い剣が見えてくる。
柄に近い所から鞘に隠れている部分まで刻印魔法が見えるこれは『風魔の剣』。
最近、訓練で使うことはあるがほぼ実戦で使っていない武器である。
使う場面がないというのもあるが、強力過ぎて自分の力と誤解してしまいそうになるのも理由だったりする。
もし風魔の剣がない場面で戦いになったら、と考えるとない事を前提に使った方が良いのは確かで。
しかし今回は万全を期したい。
ならば持っていく一択だろう。
よし、と軽く気合いを入れ直してそれを手に取る。
重さを確かめながら、腰にする。
そしてそのまま家を出た。
「本日は助かりました。ゼクトさん」
犬獣人の商人『ラック』さんがお礼を言った。
初老に入りかけ、横に垂れた大きな耳を持つ彼が今回の依頼主のラックさん。
彼の後ろには小さな馬車があり、馬が「ブルルル」と唸っている。
オレは朝、精霊人形二人を引き連れてダリアを叩き起こしに行った。
やはりというべきかダリアは寝ていたが、今日の事を思い出し支度を始めた彼女。
準備自体は昨日していたようですぐに荷物を抱えて出てきた。
服は村で着ている服とは異なり、少し派手。
だが話している時間も惜しかったので何も言わずに、駆け足で村の入り口へとやってきたのである。
「道中の護衛はオレとこちらのホムラが。交渉についてはダリアが補助する手はずとなっています。小さなおまけは気にしないでください」
「誰が小さなおまけだ! 」
「仲がよろしいようで」
「「誰が! 」」
オレとミズチがツッコむと他三人が、温かいものを見るような目でこちらを見てきた。
オレとミズチは仲が良くない。
むしろ険悪と言ってもいいくらいだ。
発言の撤回を要求する!
「まぁいいじゃないか。では行こう」
「そうしましょう。ホムラさん」
「ではよろしくお願いします」
オレとミズチの抗議をそっち除けでラックさんの馬車へと乗っていくホムラ達。
おいて行かれてはまずいと思いオレも乗る。
ミズチも後から乗って、ついに王都へ向かう馬車が出発した。
ここまで如何だったでしょうか?
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