第五十三話 おっさん、準備をする
「王都に行ってほしい? 」
冒険者ギルドのギルドマスター室でオレは依頼について説明を受けていた。
ある日の事、オレはいつもと同じように冒険者ギルドに来ていた。
依頼を見ている時、受付嬢が声をかけてきてそのままギルマスの部屋に通された。
そして開口一番「王都に行ってくれ」と言われたのだが、一体なんだろうか?
「ゼクトに指名依頼だ」
「ちょい待ち、ギルマス。オレのランクはDだ。それは無理な話だ」
「残念。この前の賊の討伐でCに上がっているんだな。これが」
それを聞き、唖然とする。
「そんなの聞いてないですよ?! 」
「言う前にお前が腰を壊したからな」
「うぐっ! 」
「ほら、Cランク冒険者のカード」
そう言いながら詰まるオレにカードを出すギルマス。
Dランクが一番良かったんだが、上がってしまったか。そう思いながら懐かしいCランクのカードを受け取った。
指名依頼を受けられるのがCランクからだ。
ランクが落ちた時、Cで止めることもできたのだが、めんどくさい指名依頼を受けなくてもいいDまで落とした苦労が報われない。
それ知ってかギルマスの顔は笑っている。
「残念だったな。これで指名依頼を受けないといけなくなるな」
「……だから上がるの嫌だったんですよ」
「そういうな。しかし、賊の頭領を倒したんだ。上がらない方がおかしい」
そう言いながら目の前にある飲み物を一口含む。
「それにあの賊はかなりの懸賞金が出ていたようでな。後でその分の報酬も入るだろうよ」
「それは嬉しいですが、素直に嬉しくなれないですね。ランクの事を考えると。……もう引退していいですか? 」
「おいおい、勘弁してくれ。まだ後進が育ち切っていない。今抜けられると困る」
でしょうね、と言いながらも乾いたのどを潤した。
「最近他の奴らが張り切って依頼を受けているが、それでもゼクトの信頼度は段違いだ。せめて奴らが心底信頼されるようになるまで、できるならその後続が育つまで頑張ってもらわないと」
「……それ、オレ生きてます? 」
なんだかかなり遠くの話に聞こえる。
要はまだ引退するな、か。
オレとしてはすぐに引退して畑でも耕したいんだが不安材料を残したまま引退するのも気が引けるのも確かで。
ま、今回は良いか。
「で、今日はどうしたのですか? 」
「そうそう、指名依頼の事だ。指名依頼自体は簡単。王都まで行って、復興のための必要物資の調達と護衛だ」
「調達と護衛? 」
「要は商人の護衛と同じだ。今、この村には足りないものが多い」
「そうですね」
「だから村から王都に買い出しに行くんだが、その道中安全とは言い難い」
「この前賊が暴れまくりましたものね」
「で、お前さんの出番と言ったところだ」
真剣な表情でオレを見るギルマス。
なるほど。護衛か。
護衛依頼は指名依頼と同じくCランクからしか受けることができない。
何故そうなのかというと、信頼の問題だ。
ある程度の実力と信頼を兼ね備え、認められた冒険者というのがCランクだ。
「しかしこの村にはオレ以外にもCランク冒険者はいますよね? 」
「だから言ったろ? 信頼度が段違いだと」
察した。
指名依頼で護衛依頼。
護衛依頼を受けることができるCランク冒険者は他にもいるが、商人側が指名してきたということは信頼度がそこまで高くないか、もしくは実力の面で少し不安があると言ったところか。
しかし先日賊の頭領を倒してオレならば問題ないとでも考えたのだろう。
嬉恥ずかしい反面、どうしたものかと思う反面。
「受けるのは良いですが、オレはソロですよ? 他に誰か雇うように依頼を出しているのですか? 」
基本商人や商隊の護衛はパーティー単位で行うのが普通だ。
これは特別なことではなく周囲を探索・探知する係に賊を討伐する係、商人などを護る係など役割分担をする為である。
資金に乏しい商人でも一パーティー雇うし、それこそ安全を考える商人ならば二・三パーティー雇うだろう。
「向かうメンバーについてはゼクトに一任するだってよ」
「こっちに丸投げですか」
「信頼されていると思え。ゼクトが選んだ人間ならば、大丈夫だろうと向こうも考えているんだろう」
「それを丸投げというのですよ」
溜息をつき、考える。
村の商人だ。恐らくだがどのような人を雇ったらいいのかわからずオレを指名してきた可能性がある。単に、知り合いの中で一番信頼が出来る人と言った感じで。
なぜならパーティーではなくソロのオレを選んだからだ。指名してくれるのは嬉しいが、幾ら信頼度が高いとはいえソロを護衛として雇うのは危険だ。普通の町の商人ならば一パーティー雇うだろう。
外から来る商人を迎えることはあっても外に出ることが少ない村人。
加えて護衛の為の冒険者を雇うということ自体が数少ない経験だと思う。
だが護衛依頼を冒険者に出した。これを考えると恐らくは今までに依頼を出したことのある経験者か、周りに冒険者かギルド職員経験者がいる商人だろう。経験者だとすれば依頼を出したのはかなり前か、周りギルド関係者がいるパターンならば直接聞いたのではなく間接的に聞いたことが予想される。
もしかすると王都での取引自体が久しぶりかもしれない。
ならば……ダリアは必要だろうな。冒険者ではないが。
「ダリアを連れて行ってもいいですか? 」
「構わんが……デートか? 」
何故に皆そっちにつなげる、と思いながらも事情を説明。
すると理解してくれたようで頷いた。
「彼女の交渉力は中々のものです。きっと力になってくれるでしょう」
「同感だ。別途、休日でも出しておこう」
「あとは……、流石に一人では無理なのでホムラとミズチを」
「構わないが……大丈夫なのか? 入ったのは最近だと聞いているが」
「大丈夫ですよ。戦力としては申し分ないので。戦力としては」
「なにやら含みのある言い方が気になるが、まぁ良しとしよう」
そう言うと立ち上がり依頼書を持ってきた。
そこには依頼主のサインなどが入っている。
「じゃ、こっちにサインしてくれ」
言われるがままにサインをする。
そしてオレの王都行きが決定したのであった。
ここまで如何だったでしょうか?
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