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第五十二話 おっさん、村を見て周る 三

「ゼクトちゃん。大丈夫だった? 」

「ええ。おかげさまで」

「ゼクトちゃんは働き過ぎよ。(うち)の旦那もゼクトちゃんくらい働いてくれたらいいのだけど」


 訓練場を出たオレ達は市場に来ていた。

 すると待ち受けていたかのように市場のマダム達に囲まれて心配された。

 オレの後ろから殺気のような嫉妬(しっと)のようなものが飛んできているが、気にしたら負けだ。

 いつもの事と言えば、いつもの事である。


「あら。また新しい子? 」

「彼女はミズチ。ホムラの……妹のような子のようで。先日ホムラと合流しました」

「あらぁまぁ! ミズチちゃんね! よろしくよぉ! 」


 少し離れた所にいるミズチにマダムが手を振り挨拶した。

 オレもミズチ達がいる場所に顔を向けて、見る。

 ミズチは名前を呼ばれたのが嫌だったのか怒っているようにも見える。

 だがホムラに小突(こづ)かれて「よ、よろしく……たのむ」と切れ切れに言葉を(しぼ)り出していた。

 彼女にしては頑張った方だと思う。

 

 ミズチの返事に満足したのかマダムは「それじゃぁね」と言い残して、自分の用事に行ってしまった。

 そして少し歩く。

 隣にダリア、反対方向にミズチとホムラがいる。


「貴様をお姉様に近寄らせるわけにはいかない! 」

「……姫を護るまるで騎士だな」

「き、騎士だと?! 」

「気を悪くしたか? 」

「ふ、ふん! 騎士か。そうだな。私はお姉様を護る騎士だ! 」


 姿だけを見たら騎士と思えなくもない。

 そしてホムラの護衛騎士と言われれば、その過剰な言動(げんどう)(うなず)ける。

 余程気に入ったのかミズチは「騎士……騎士か」と呟いている。

 こういう所は純粋なんだな。


「なら私はゼクトさんの妻ですね」

「話しが急展開過ぎて全くついていけないんだが?! 」

「ホムラさんとミズチさんがペアならば、余った私とゼクトさんがペアということになります。なので妻が妥当(だとう)かと」

「なにが「なので」だ。(へん)理屈(りくつ)付けようとしても事実は変わらん」


 ええ~、と非難の声を上げるダリア。

 進みながら周りを見渡し呟いた。


「だが、この辺は復旧が早かったな」

「……私の事はスルーですか。まぁいいです」


 噓泣きをしていたダリアがすぐに立ち直りオレの言葉に返した。


「食材が多くあるこの市場はすぐに襲撃を受けました。確かに被害が一番大きかったですが、復旧も一番早かったですね」

「ほんとにな」

「ここを起点(きてん)にして村全体へ復興(ふっこう)を行き渡らせる為に村長主導(しゅどう)でいち早く直したのもありますが、やはり支援物資が早かったのもあるでしょう」


 そうはいうもののまだ襲撃の傷跡(きずあと)は残っている。

 所々壊れた店に、使えなくなった店を放置し露店(ろてん)のような感じで店を広げる店長さん。

 家と店が別の人は良いが、一緒の人はたまらないだろうな、と思いながらも近くの店で食材を買う。


 市場を見て周り、時々王都から来た珍しいものを買うダリアを見つつも、オレ達は次の場所へ移動した。


 ★


「あら、久しぶり……かしら。ゼクトさん」

「お久しぶりです」


 教会の一角、オレは大勢の村人達と話していた。

 この教会はいざという時の為の緊急避難所の一つである。

 また同時に宿が無くなった人達が住めるようにも設備されている。


 この人達は賊の襲撃で家が無くなりまだ戻れない人達だ。

 正直、教会をこういった形で使うことになるとは思わなかったが、あってよかったと同時に思う。

 似たような場所は教会の他にも幾つかあるが、教会が一番便利が良いようで人が多い。


「ゼクト君じゃないですか」


 オレ達が話していると奥から男性の声が聞こえてきた。

 その方向を見るとこの教会の管理者で、友人でもあるエリック助祭がいた。

 そしてダリアとミズチ、ホムラに気が付いたのだろう。三人にも挨拶する。


「……こんにちは。大丈夫ですか? 」

「少しやつれて見えますが」

「はは。大丈夫です」


 エリック助祭が軽く笑いながらそう言った。

 集まった人達の事で大変なことでもあったのだろうか?

 少し、聞いてみた。


「いえいえ、違うのです。王都にある教会本部に掛け合って、今補助金などを出してもらおうとしている所で」

「「「補助金? 」」」


 オレ達は顔を見合わせ言葉を反復(はんぷく)した。

 そしてエリック助祭が疑問に答える。


「教会は聖国の管理になります。万が一災害が起こったり、盗賊等で村が襲われ住民に被害が出た場合に——政治介入(かいにゅう)とならない程度に——補助金や物資を、聖国から物資を送る制度があるのです」

「そんなものが?! 」

「はは。正直ワタクシがこの制度を使うようになるとは思いませんでしたが、何事も勉強しておくものですね。制度自体を知らない人の方が多いのではないでしょうか? 」


 へぇ……。初めて知った。

 横を見るとダリアも目を開いて驚いている。


「だが……なんでやつれてるで? 」

「それが書類が煩雑(はんざつ)で。今村長や村の役場と話して被害の程度を調べている所なのです。その被害の程度に合わせて物資などがおりるので」


 軽く息を吐いて、笑顔を作るエリック助祭。

 

「しかし村の皆さんの(たくま)しさにワタクシも負けてられませんな」

「何かあったのですか? 」

「いえ。皆さんお(つら)い中、内職(ないしょく)を始めまして」


 この村では様々な内職が存在する。

 それを始めたのだろうと思うが、家がない状態ですごいな。

 正直もう少し雰囲気が暗いと思っていたが案外明るい雰囲気で仕事をしているようだ。


「家財や金銭はどこに行ったか分からない状態の様ですが、(はり)のような小さな物は盗まれなかったようで。それを使い、仕事を」

「なるほど……」

「そう言えば男性の方が見えませんが」


 オレとエリック助祭が話しているとダリアがそう言った。

 言われてみれば確かに。


「それは……」

「外に、何か仕事を見つけてこないか出してやったよ」


 エリック助祭が口を開こうとすると一人の老婆が近寄ってそう言った。


「主人は内職が出来ないからね。何か仕事を見つけさせに外に向かわせたんだ」

「な、なるほど」

「それにいても邪魔なだけだろ? 」


 老婆がにやりと笑みを作りそう言った。

 せ、世知辛(せちがら)い。

 確かにそうなのかもしれないが、悲しすぎる。

 家ならまだしも避難場所の教会から追い出される夫って。

 むしろその追い出された男性陣で集まって飲んでてそうだが……。


「なぁに。心配いらん。もしどこかで遊んでようなもんならすぐに話が回ってくるさね」


 オレの心配を予想したかのように老婆が答えた。

 こ、こぇ……。


「ま、まぁ……オレ達は一目見に来ただけなのでこれで」

「また今度、お会いしましょう」


 エリック助祭の言葉を背にオレ達は家に帰った。

ここまで如何だったでしょうか?


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