第五十一話 おっさん、村を見て周る 二
この村には娯楽という娯楽はない。
あるとすれば仲間内で飲んだり、戦闘訓練したり。
後は時々王都から流れてくる品を市場で見たりするくらいだ。
大人はこんな感じだが、子供は違う。
子供達は集まって遊び、時に大人をからかうかのようにイタズラをしたりする。
まぁ、家の手伝いがある子が殆どだから、子供が集まる時は時間が合わずどうしても少人数になってしまうが。
娯楽の少なさに関してこの村が特別娯楽が少ないというわけではない。
王都に行けば別だが、他の村も大体こんな感じ。
「……どうした? 悪ガキ三人組」
市場に行こうとしたオレ達の前にいつもの悪ガキが三人『ガリザック』『ジグル』『リナ』立っていた。
だがいつもと様子が違う。
いつもなら容赦なく死角から攻撃をしてくるのに、今日は……なんか怒られるのを待つ子供のようだ。
不審に思っているとリーダー格であるガリザックが意を決したかのようにオレを見上げて口を開いた。
「ゼクトのおっちゃん……。お願いがある」
「一先ず話だけ聞こうか」
「オレ達に……戦い方を教えてくれ! 」
「「お願いします!! 」」
一斉に他の二人も頭を下げた。
これは……あれか。
ホムラから話を聞いた、賊にボコボコにされたというあれか。
「……一応聞いておくが、何の為だ」
「いざという時の為に皆の、自分の身を護るためだ! 」
決意に満ちた表情でオレの方を見るガリザック。
これは困ったな。
確かにこの子達の年齢だと将来を見据えて戦闘訓練をすることはある。
一番わかりやすいのが自警団への入団希望や冒険者希望者に行うそれだ。
だがこの三人に関しては今までとは違う。
外での活躍を夢見て冒険者になることや、持て余した力を存分に使うために訓練をして冒険者になるのではない。
賊にやられてことで自分の力不足を思い知り戦い方を学ぼうとしているのだ。
まずもって覚悟が違う。
正直このタイプの指導はしたことがない。
ならばこれは年長者に任せるのが一番だな。
「それだと……オレは不適合だな」
「どういうことだ? 」
「オレは冒険者としての戦い方は知っているが、それ以外はダメだ。だから適任者に任せよう」
「「「??? 」」」
首を傾げる三人を引き連れて、オレは自警団の訓練場へ向かった。
★
「ふむ。悪ガキを鍛えて欲しい、と」
「ええ。頼めますか? 」
「ちょ、どういうことだよ! 」
「私達を殺すつもり?! 」
「 (ガクガク……ブルブル……) 」
「殺すなどとは物騒な。死ぬ気で訓練をさせるが、死なない程度には抑えている」
その言葉に更に震えあがる悪ガキ三人組。
泣く子も黙るリリの村の自警団団長『ギルム』さんがニヤリと笑いながら三人に言う。
この村の子供達にとって恐怖の代名詞ともいえる彼が長をしている自警団に突然放り込まれたんだ、その気持ちは分からなくもない。
「な、なんで自警団に?! 」
「いや、自分や友達を護りたいんだろ? ならオレよりもギルムさんが適任だと思うが」
「そうだがよ……」
「オレは冒険者だから冒険者としての戦い方しか知らない。だがギルムさんならば個人としての戦い方に加えて集団としての戦い方も教えてくれるだろよ」
「「「う”う”う”……」」」
俯き項垂れる三人。
どうせこいつらのことだ。オレならば少し手を抜いてくれるとでも思っていたのかもしれない。
だがそんな半端な気持ちで武力を持ったら痛い目を見るのは必然。
確かに彼らは他の者よりも覚悟を持ち前に進もうとした。
だがまずオレの所でなくギルムさんの所へ行かなかったことから、まだ覚悟が甘いと感じた。
これは心を鬼にして、鬼に指導を任せよう。
「まぁ、まずはその余りある元気を見せてもらおうか」
「え? ちょ! 」
「まずは体力調査だ。この重石を背負って——」
どこからともなく出してきた重石を三人に渡すギルムさん。
否応なくそれを装着されて、怒鳴られながら走らされている。
それを見ながらダリアがくすっと笑いながらオレの方を見てきた。
「将来有望な自警団員ですね」
「そうだな。オレに対する攻撃も日に日に鋭くなっていたから丁度いい」
「これから彼らを見ることが少なくなるのは少し寂しい気もしますが、自身の鍛錬に加えてちょっとした自立。良い機会だと」
そうだな、と頷きながら走る悪ガキ共を見た。
走るだけでへとへとになっている。
だが休ませてもらえていないようでまだ走り続けていた。
「本音を言えば、この村の冒険者になってほしかったんだがな」
「意外ですね。てっきりそのまま家業を継いでほしいのではないかと思っていました」
「それも良いが、流石にこの村の冒険者が少なすぎる。元気有り余る若い冒険者はいつでも歓迎だ。ま、訓練の時に、自警団の訓練と同じようにしんどい思いをするだろうが」
「ゼクトさんらしいですね」
ダリアが言う。
「にしても団員達、いつもよりも激しいな」
「確かにそうですね。熱気……というよりも殺気立っているようにも感じます」
「それはこの前の事があったからだ」
オレが子供ではなく周りの大人達を観察しているとギルムさんがやってきた。
「どういうことでしょうか? 」
「先日の賊の侵入。あれによりこの村は被害を受けた。それを恥じて訓練をしているのだ」
そう言いながら軽く遠くを見るギルムさん。
「しかし滅びた村がある中、自警団の人達は奮闘したと思うのですが」
「本来ならば侵入さえも許さないのが我が自警団。幾ら多勢に無勢で実力に差があったとしても侵入を許した時点でおれ達は負けたも同然。今回のような奇跡は二度と起こらないと思った方が良い」
目を細めて他の自警団員を見るギルムさん。
その表情をみると、自警団員が、というよりも自分が許せないような感じを受けた。
これ以上何か言っても訓練の妨げになるかもしれない。
オレは早々に立ち去ることにした。
「ではギルムさん。あの三馬鹿をよろしくお願いいたします」
「任せよ。見た所中々に有望。一人前の村を護る戦士の一員に育て上げてみせようぞ」
そう言い残し、ギルムさんは「後三十周!!! 」と声を上げて訓練に入っていった。
オレはダリアに顔を向ける。
「じゃ、次行くか」
そう言うと子供達の声が聞こえてきた。
「ちくしょぉ! 覚えてろ! 」
「いつも背後に気を付けることね! 」
「……」
「無駄口を叩くな! 五周追加だ!!! 」
「「「くそぉぉぉぉ!!! 」」」
これだけ元気が余っていれば自警団でもやって行けるだろう。
元気な声を背にオレ達は自警団の訓練場を出た。
ここまで如何だったでしょうか?
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