第五話 精霊人形 《エレメンタル・ドール》 『ホムラ』
「私は精霊で、この人形が器」
「せ、精霊?! 」
それを聞き、驚く。
精霊と言えば——一部を除いて——視えない存在だ。
特にエルフ族のような妖精族の信仰の対象にもなっている。
それが目の前にいるだと?!
驚いていると、その様子が気に入ったのかクスっと笑いながら尋ねてくる。
「今、「精霊術師でもないのに視えている」と思ってないか? 」
「……思っているがなんで」
「貴君は顔に出やすい。加えるのならばそのくらい予想は簡単だ。確かに精霊の加護を受けた精霊術師にしか私達精霊の姿を視たり声を聞いたりすることはできない」
「なら」
「だが、このように器があれば別だ」
と、言い軽く胸を叩いて弾ませた。
「この器——私達は精霊人形と呼んでいるが——は一品もの。後から模造品が出るかもしれないが、今の所は世界に一つだ」
「……」
「そしてこの器は私達精霊が——所謂普通の人と交流するために作られた」
なるほど。
確かにそうすれば交流が出来る。
彼女が言っていることが本当ならばこうして視て聞いて、話せているわけだから無理ではないだろう。
「……だが、どうしてそこまでして交流したがるんだ? 」
「悠久の時を生きる私達にとって、例え仲間が近くにいても変化を肌で感じ取れないのは退屈なものだよ」
どこか困ったような顔をした彼女を見つつ、聞き覚えのある理由に親近感がわいた。
「しかし表情豊かだな」
まるで本物の人間のような表情をする彼女にそう言うと、少し自慢げな顔をして口を開いた。
「我が製作者は凄腕の人形師でね。体のあちこちに変化や駆動、固定、変換、発声のような刻印魔法を施し、中にいる——私のような——精霊と外の人間が潤滑に話せるようにしてあるのだよ」
「確かにそれは凄腕だ」
「だが、どうやら消費魔力量を考えてなかったようでね。こうして動けず、話せなくなっていたんだ」
「ま、それだけ刻印魔法を刻めばそうなるな。しかし動けなくなっていたのは膝に穴が開いていたからじゃないのか? 」
サラっというと苦々しい顔をするホムラ。
腕を組み額に手をやり「不覚だった」と呟く。
「ここへ来る道中モンスターに襲われてね」
「それにやられたのか? 」
首を横に振った。
「モンスターは倒したんだ。だが一緒にいた友人が……その少しおかしな者でね。私に飛びつこうとしたら崖から突き落とされてしまって」
……。
アホな理由だった。
「それで崖をぶつかりながら転げ落ちていると膝をやられてあの状態、というわけだ。可能な限り精霊術師がいるところまで行けないか歩いていたのだがあそこが限界だったようだ」
そう言い転がっていたところに顔を向けたホムラ。
「それならば誰かに追ってこられたということは」
「それはない」
こちらに振り向ききっぱりと言う。
良かった。
一応の問題にはなりそうにないな。
いや存在自体が問題かもしれないが。
だが、歩いて来たという方向を見てふと思う。
「どこから来たんだ? 」
「この山脈? の更に遠くの国だ」
「賊とかはいなかったのか? 」
「成敗してきた。ああいう輩はこうして器を手に入れる前からいることを知っていたからな。時に焼き、時に拘束し、その町の衛兵に突き出して進んできた」
と、腰にあるアイテムバックから袋を出した。
シャランと音がする。大金のようだ。
そしてそこに手をつっこみ一枚の金貨を出して、こちらに投げた。
「ほれ」
「おおっと。金は大事に扱えよ」
「それは貴君のものだ」
「? 」
「この器を直してくれたんだ。その礼だ」
「……普通の修復を使っただけなんだが? 」
「だがあそこで修復を使ってもらわなければ私はこの器を置いて戻らなければならなかった。これでもこの器には愛着があるもんでね。過剰と思わず受け取り給え」
「そう言うことなら」
自分のアイテムバックの中に入れ収納。
「……念のために聞いておくが馬車とかは襲ってないよな? 」
「そんなヘマはしないさ。ま、馬車から襲ってきた場合はその限りではなかったが」
感心していたオレの心を返してくれ。
厄介事の塊じゃないか!
出来るのならば関わらなかった方が正解の類だ、これ。
軽く冷や汗を流す。
だが、まぁここまでだな。
「じゃ、オレはこれから下山するから」
「ああ。約束通り送っていこう」
そうだったぁぁぁ!!!
この歩く国家機密のような存在に護衛を頼んでいたんだった。
くそぉ。
こんな事なら頼まなかったのに。
「ん? どうした? 早くいかないのか? 」
下から赤い瞳を覗かせる。
技師の腕がいいせいか、物凄くこだわりを感じるその顔に少し顔が熱くなるのを感じながらも目を合わせないように前を向き「いや、行く」とだけ答えてオレ達はその場を後にした。
★
「そう言えばその友人とやらは大丈夫なのか? 」
何のハプニングもなく山を降りて村へ向かう途中、隣のホムラに聞いてみた。
すると軽く上を向いて、こちらを見上げた。
「まぁ大丈夫だろう。私の器のように破損したわけでもないだろうし、個人戦なら私よりも強いからな」
カシャりと腰の長剣に手やり頬を緩ませた。
おかしなところがあるという割にはかなり信頼しているんだな。
「仲の良い事は、良いものだ」
「ああ。そうだな」
「どんな奴なんだ? 」
「可愛げのあるやつだぞ? 」
そう言うと思い出したのか更に笑顔を作りその友人とやらについて説明する。
「いつも「ホムラお姉様」と甘えてくるんだ。まるで小動物みたいにすりよって、な」
「へぇ小動物みたいに、ね。ホムラとは少し違う感じか」
「ああ。ただ……」
「ただ? 」
「いつも私からはぐれたのにも関わらず、いつの間にか私を見つけてるのは少し気味が悪い、と感じることはあるが許容範囲だろう」
少し遠い目をした彼女がそう言った。
おおっと。思ったよりもドキツイのが来たな。
この反応からすれば恐らくかなりの距離を離れていても捕捉されていたんだろうな。
「な、なんだその憐憫に満ちた目は! 」
「いやなに。なんてことはない。ほらついた。ここでお別れだ」
話しながら歩いていると村の前に着いた。
ここでお別れだ。
「なにを言う」
そう言うホムラにオレが小首を傾げているとオレの前まで小走りで走り指でピシッとこちらを差してきた。
「私を泊めろ」
「どうしてそうなる」
ここまで如何だったでしょうか?
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