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第四十五話 ゼクトのいない冒険者ギルド 二 探索者 《サーチャーズ》

「薬草採取なんていつ以来(いらい)だ? 」

「ん~Fランクの時以来だから少なくとも五年以上前? 」

「そんなに経つのか」

「ちょっとリーダー。探知をさぼらないでくれ! 」


 わりぃと言いながらリーダーと呼ばれた犬獣人の男は周囲に探知魔法を飛ばす。


 彼はこの冒険者パーティー『探索者(サーチャーズ)』のリーダーだ。

 全員のランクはCで堅実(けんじつ)に依頼をこなしてきた。

 だがCまで行ったはいいもののそれ以降伸び悩んだ。

 全員が人族と獣人族で年齢の事もあり、冒険者をしながら落ち着ける場所としてリリの村へ拠点(きょてん)を移した。


 犬獣人のリーダーと人族の魔法使いが回りに注意を払う中、剣士と盾使いがスタミナ草を採取する。

 網籠(あみかご)一杯に採れたあと一旦集まり一息ついた。


「しかし周りからも依頼が来ているとはいえこんな量だったとはな」

「ゼクトさんもよくやるよ。(ほとん)慈善(じぜん)事業じゃないか」

「ま、村に馴染(なじ)むためにはこういうのも必要ってことだろ? 」

「そうだな。実際冒険者ギルドの中で一番村の人と仲がいいのはゼクトさんだからな」


 はぁ、と溜息をつく探索者(サーチャーズ)

 (あこが)れ半分とあとは関心と呆れ、そして少しの嫉妬(しっと)

 が彼らの嫉妬は的外(まとはず)れなもので、ゼクトが村人から信頼を得ているのは単に依頼をこなしているからだけではない。

 冒険者としての仕事に加えて村での役割を持つゆえに他の冒険者とは別格の信頼を得ているのだが彼らは知らない。


「俺達も周りの村の依頼で討伐に行くことはあるがな」

「討伐依頼の方が楽だと感じたのは初めてだ」


 そう言いながら「ゴキリ」と肩を鳴らす熊獣人の盾使い。


「一旦帰って大盾を置いてくりゃぁよかったな」

「それな。俺も長剣(ロングソード)じゃなくて短剣(ダガー)にしておくべきだった」

「つい、いつもと同じように装備してきたがここまでの装備はいらないな。強力なモンスターが出る訳でもないし」

「ゼクトさんがいつも軽装な理由がわかった気がするぜ」

「つくづく頭が上がらねぇ」


 はぁ、と全員からため息が漏れる。

 そしてリーダーの犬獣人がメンバーを見た。


「これから受ける依頼の種類を変えるか? 」

「採取系にか? 」

「採取系には限らないが……。ほら、今日みたいにゼクトさんがいない期間が長くなったら大変だろ? 慣れる意味でさ」

「確かにそれはいい案だ。無理して怪我をするよりかはその方が俺達の目的に近づけれる」


 リーダーがそう言うと同時に全員頷いた。

 彼らの目的、つまりこの村でのスローライフである。自分達の限界に気が付いた彼らは比較的住みやすいリリの村に住むことにした。

 しかし彼らは年齢的にも体力的にもまだまだ現役一線で働いていても良い状態だ。

 よって外から来る高い報酬の依頼はうけているものの彼らはあまりこの村の中で活動していない。

 目的を忘れていたわけではないがあり余った体力はどうしても討伐に向いてしまう。

 今回の依頼で彼らはこの村に来た理由を再認した。


「ギルマスも言ってたが、まとめて受ければそれなりの金になる。なら徐々に討伐依頼を新しいやつに任せて俺達はこっちにうつるか」

「なら討伐依頼の方の後釜(あとがま)を決めないといけないな」

「だがよ。冒険者がいねぇじゃねぇか」

「「「……」」」


 現実を突きつけられて、少し(へこ)探索者(サーチャーズ)


「ま、こればかりは仕方ないだろう。後数年もすれば誰か来るさ」

「来た時に徐々に教えて行けばいい」


 そう話していると犬獣人のリーダーが急に短剣を構えた。


「来たか」


 そう言いつつもリーダーが見ている方向に出る熊獣人。

 大きな盾を前にして犬獣人を(かば)うように構える。


 ドドドドド……。


 奥から大きな音が聞こえる。

 剣士も前に出て、後ろの魔法使いが全員に強化魔法をかけた。


「種類は? 」

(イノシシ)だ」

「げ、あれかよ」

「そうだ。そこら辺のオークよりも強いあれだ」


 リーダーの言葉を受けて身を引き()める熊獣人。

 若干構える盾に力が(こも)る。


「気休め程度だけど。落とし穴(ピット)。そして罠隠蔽ハイド・オブ・トラップ魔力隠蔽(ハイド・オブ・マナ)


 盾使いよりも先に複数の黄色い魔法陣が(えが)かれる。

 そしてそれを覆い隠すかのように二つの隠蔽(いんぺい)魔法がかかり、色は消えた。


 一つだけならまだしも複数となると魔力量の少ないゼクトでは出来ない芸道(げいとう)である。

 罠を設置し隠蔽する。

 単純なことだが難しい。


 ゼクトが一人で肉調達の依頼を受ける時は魔法でなく原始的な——狩人(かりゅうど)が使うような罠を用いて行動を阻害し、一撃で仕留める。

 しかし例えゼクトがこれらの魔法を使えたとしても山からの帰りのことも考え、彼は魔法でなく原始的な罠で敵を倒すだろう。

 それほどまでに一般の魔法使いと保有魔力量が違うわけだが、罠を掛け、二つの隠蔽を(ほどこ)すこのパーティーの魔法使いの技量(ぎりょう)がすごいともいえる。


「そろそろだな」

「後ろに()らすなよ? 」

「任せろ」


 熊獣人の盾使いが答えると「ドドド」という音が大きくなる。

 ガサガサ、メキメキという音も響く。

 そしてその巨体が見えてきて——穴に落ちた。


「今だ! 」


 その一声で足だけ()まった猪に剣士が切りかかった。


 ★


「こちらが今日の報酬になります」


 受付に行くと探索者(サーチャーズ)に報酬を渡す受付嬢。

 リーダーがそれを受け取りお辞儀をする。

 そこから去ろうとするが受付嬢に止められた。


「今回は(イノシシ)の肉も報酬に入りますので、こちらも追加報酬となります」

「え? あれこんなにもらえるのか? 」


 すっかりと猪肉の事を忘れていたリーダーが驚いた表情で受付嬢を見る。

 彼女は軽く笑みを浮かべながら頷いた。


「大きさや母体であるかどうかも査定(さてい)に入りますが、この近辺(きんぺん)の猪の脅威度はDランクモンスター『オーク』に匹敵(ひってき)します。解体費用は差し引かれますが、肉としての価値に加え畑を荒らす害獣(がいじゅう)を討伐したことを()まえるとこのくらいの金額になるかと」


 それを聞き、探索者(サーチャーズ)メンバーは開いた口が閉じない。

 何せ——巨大とはいえど——単なる猪が銀貨十五枚になったのだから。

 これはDランクの依頼報酬に相当(そうとう)する。

 今までだと彼らは馬車代や食事代、宿代を払いながら外の依頼を受けていた。移動せず、食費もあまりかからないとなると——安全策を取る冒険者にとって——これほどに美味しい依頼はない。加えて大量に採った薬草の報酬も(うわ)乗せされるので彼らは当分(とうぶん)お金に困ることはないだろう。


 (われ)に返ったリーダーの犬獣人が袋を受け取り、メンバーを引き連れてギルドを去った。


「……これは早々に後継者を見つけないといけないな」

「そうだな。あの猪。こんなに金になったんだ……」

「確かに駆除(くじょ)対策に行ったことがあるけど、だいぶ前だし……」


 剣士が周りを見渡すと全員の心が一致(いっち)した。


()る、か」

「ま、他のパーティーに目を付けられたくないからほどほどにしないといけないがな」

「でも他の村や町に行くより良いだろ? 」


 ああ、と他のメンバーが頷きながらも彼らは帰路(きろ)につく。

 今回の、不本意ながらも受けた依頼は、彼らにとって刺激となった。

ここまで如何だったでしょうか?


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